第八十八話:プロットの書き換えと、二人の男の共闘
キィィィィィンッ!!!!!
アレスの漆黒の魔剣「絶影」と、上位デリーターの放つ白いノイズの刃が激突し、地下書庫に鼓膜を突き破らんばかりの衝撃音が轟く。
「ルナ! その本の書き換えにはどれくらいの時間がかかるんだい? 1秒でも長くかかるなら、やっぱりこの図書館ごと、この街を僕の闇で沈めてしまった方が早いんだけど!」
アレスは異形の凄まじい圧力を片手で受け止めながら、ルナを振り返って蕩けるような、しかし完全に狂った笑顔を向けた。
「無茶言わないで! 最短でもあと十分は必要よ! この世界の言語(日本語)のプロット形式を、私の魔力回路に適合するオブジェクト指向のプログラムに翻訳し直さなきゃいけないんだから!」
ルナは魔導書に両手をかざし、光のキーボードを叩くかのように、猛烈な速度で無属性魔導の数式を流し込んでいた。
だが、上位デリーターは一体だけではなかった。
空間の裂け目から、さらに二体、三体と、同じ消去の刃を持つ異形が這い出てくる。
「――ルナ令嬢の邪魔はさせない!」
その時、白銀の甲冑を翻し、カイルが聖剣を抜いてアレスの側面に飛び込んだ。
溢れ出る聖なる光が、ルナへと迫っていた二体目の異形の腕を鋭く切り落とす。
「カイル……! 邪魔だと言っているだろう。僕の視界にルナ以外の人間を入れるな。死にたいのか?」
「黙れ、アレス王子! 今はルナ令嬢を守ることが最優先だ! あなたへの個人的な怒りは、この世界の危機を救った後にいくらでもぶつけてやる!」
本来なら一瞬で殺し合っていてもおかしくない二人が、ルナという唯一の太陽を守るために、奇跡的(?)な共闘の陣を敷いていた。
アレスの放つ絶対的な「虚無の闇」が異形の動きを完全に縛り、そこへカイルの「聖光の斬撃」が容赦なく叩き込まれる。
アレスはカイルが活躍するたびに凄まじく不機嫌そうな顔を隠そうともしなかったが、ルナに「アレス、信じてるわよ!」と声をかけられるたびに、瞳のハイライトを消しながら狂暴な笑みを浮かべて出力を倍加させていた。
(よし……! 敵のデータの暗号化、ほぼ解除完了! ここから、本来存在しないはずの『第三章:ハネムーン編』のプロットを、この世界の『公式な歴史』として強制挿入する!)
ルナの理系脳が限界を超えて加速する。
タイムリミットまで、あと138時間。
ルナの手によって書き換えられ始めた魔導書のページが、まばゆい黄金の光を放ち始めるのだった。




