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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第八十話:湖畔の漂着者と、ヤンデレ旦那様の激しい嫉妬

「……ルナ。本当に、僕の視界から一歩も出ないと約束してくれるかい?」


ルミナス湖に浮かぶ別荘の玄関口。アレスは、ルナの白く細い両手を自らの大きな手で包み込み、まるで今生の別れでもあるかのように、悲痛な、そして底知れぬ執着を孕んだ瞳でルナを見つめていた。


「ええ、約束するわ、アレス。あなたが私のために、幻の『星見の果実』を採りに行ってくれる間のほんの数十分でしょう? 部屋の中で、大人しく読書でもして待っているわ」


ルナは苦笑しながら、アレスの頬にそっと手を添えた。

アレスが「ルナに最高に甘いデザートを作ってあげたい」と言い出したのは今朝のこと。そのために必要な最高級の魔導果実は、この近くの険しい霊峰の頂辺りにしか自生していない。アレスの転移魔法を以てすれば往復で一時間もかからないはずなのだが、今の彼にとって「ルナの側を離れる」という行為そのものが、凄まじい精神的苦痛を伴うようだった。


「どうしても不安だ……。僕の『影』の防壁をこの部屋に三重に遺していくけれど、もし万が一、何か不吉な気配を感じたら、すぐに僕の指輪に魔力を流すんだよ。いいね? 君を一人にするくらいなら、その霊峰ごと、この島に転移させてくれば良かった……」


「それはさすがに環境破壊が過ぎるわよ。ほら、早く行ってきて。美味しいお菓子、楽しみに待っているから」


ルナが優しく微笑み、彼の唇にそっと不意打ちのキスを贈る。

アレスは一瞬、歓喜で瞳を潤ませたものの、断腸の思いでルナの手を離すと、漆黒の魔力光とともに空間の彼方へと転移していった。


静まり返った別荘。

アレスが遺していった空間遮断結界と、部屋を満たす漆黒の影の防壁は、文字通り「絶対の安全」を保証していた。ルナはソファに腰掛け、古代の数式が書かれた魔導書を開いた。


――だが、アレスが発ってから、わずか十分が経過した頃だった。


(……っ!? また、あの波形だわ……!)


前日、ルナの魔力感知が捉えた「量子力学の確率解」に酷似した異界の魔力波形。それが、今度は別荘のすぐ目の前、ルミナス湖の湖畔で激しくスパイク(急上昇)したのだ。

それと同時に、アレスが張ったはずの「あらゆる因果の干渉を防ぐ結界」が、まるで水面に落とした油のように、その波形を拒絶することなく自然にすり抜けて受け入れたのを、ルナは直感した。


「嘘……、アレスの結界を無効化スルーした!? 一体、何が起きているの……!?」


ルナは本を放り出し、男装の騎士服のまま、テラスから湖畔へと駆け下りた。アレスとの「部屋から出ない」という約束を破ることになるが、転生令嬢としての、そして理系研究者としての本能が、この異常事態を放ってはおけなかったのだ。


霧が立ち込めるエメラルドグリーンの湖畔。

さざ波が打ち寄せる白い砂浜に、それは倒れていた。


「……人間? いいえ、女の子……?」


ルナは息を呑み、その少女の元へ駆け寄って膝をついた。

年齢は十四、五歳ほどだろうか。栗色の短い髪は水に濡れて肌に張り付いており、その身に纏っている「衣服」を見た瞬間、ルナの脳内に、前世の記憶が凄まじい衝撃とともに蘇った。


(な、何……これ。これって……日本の、セーラー服……!?)


濃紺の生地に、白い三本線が入った襟。胸元には、水に濡れて色褪せた赤色のリボン。この世界のどの大国、どの古代文明にも存在しない、まぎれもない「地球の、現代日本の女子中高生の制服」だった。


「ねえ、しっかりして! 気を確かに持って!」


ルナが少女の肩を揺さぶると、少女は「う、ううん……」と微かな声を漏らし、ゆっくりと瞼を持ち上げた。その瞳は、深い霧のような灰色。しかし、彼女の視線はルナを捉えているようで、どこか焦点が合っていなかった。


「……あ、あれ……? ここ……どこ……? 私……だれ……?」


「え……?」


「何も……思い出せない……。お母さんの顔も、自分の名前も……何も……」


少女は自分の頭を抱え、怯えたように身体を震わせた。記憶喪失。それも、この世界に「衣服ごと」時空を越えて漂流してきたかのような、あまりにも異質な存在。


ルナが彼女を助け起こし、別荘へ連れて行こうとした、まさにその瞬間だった。


ドォォォォォンッ!!!!!


天を割り、湖の水を数十メートルも巻き上げるほどの、凄まじい衝撃音とともに、背後の空間が真っ黒な炎を上げて爆発した。


「――ルナァァァァァッ!!!!! 君の側にいる、その不浄な生ゴミは、一体誰だァァァッ!!!!!」


空間の裂け目から現れたのは、銀髪を怒りで逆立たせ、深紅の瞳を完全に「狂気」で血走らせた、アレスだった。

彼の右手には、採ってきたばかりの『星見の果実』が握られていたが、ルナが部屋を抜け出し、見知らぬ人間に触れているという「最悪の光景」を目撃した瞬間、その果実はアレスの握力によって無惨に粉砕され、紫色の果汁が彼の美しい手を汚した。


アレスの背後から立ち昇る魔力は、もはや黒を通り越して、周囲の光をすべて吸い込む「完全なる虚無の闇」と化していた。ルミナス湖の水面が恐怖に震えるように激しく波立ち、別荘の壁に亀裂が入る。


「アレス! 違うの、この子は――」


「違うものかッ!!! 君は僕を裏切った! 僕との約束を破って部屋を出て、そんな素性の知れないゴミ屑を、僕の代わりにその腕で抱きしめている……!」


アレスの一歩。彼が踏み出すたびに、足元の砂浜が結晶化して砕け散る。彼の独占欲は、ルナが自分以外の存在に注意を向け、慈悲を与えているという事実に、完全に理性を焼き切られていた。


「殺す……。今すぐ、その女を肉片一つ残さず消滅させてやる。そうすれば、ルナはまた僕だけのものに戻る……。僕だけを見て、僕の愛だけを求めて泣くようになるんだ……!」


アレスが左手を掲げると、少女の頭上に、空間ごと対象を圧殺する「超重力の楔」が形成された。


「ひっ……、あ、あああ……!」


記憶を失った少女は、アレスの放つ、神の如き殺気と威圧感の前に、声も出せずにガタガタと震え、泡を吹いて卒倒しかけていた。


「やめて、アレスッ!!!!! この子を殺したら、私は一生あなたを許さないわ!!!」


ルナは咄嗟に少女の前に立ちはだかり、両腕を広げてアレスの攻撃の軌道を遮った。

そのルナの「命懸けの拒絶」に、アレスの動きがピタリと止まった。彼の深紅の瞳が、激しいショックと、歪んだ怒りによって激しく刻動する。


「ルナ……、君は、僕に『許さない』と言ったのか……? その、どこの馬の骨とも知れない女のために、僕を拒絶するのか……? ああ、そうか……。僕の愛が足りないから、君は外のゴミに目を向けるんだね……。だったら、その女を殺した後、君のその美しい両足の腱を切り落として、僕のベッドから一生出られないようにしてあげなくちゃいけない……!」


アレスの口から漏れ出たのは、ハネムーンの甘い雰囲気など微塵もない、かつての、いや、それ以上の「本物の魔王の監禁台詞」だった。彼の愛は、ルナを失う恐怖によって、完全に「暗黒の独占欲」へと先祖返りしていた。


ルナは、恐怖で心臓が潰れそうになりながらも、ここで引いては全員が破滅すると理系脳で計算した。

ルナは一歩も引かず、逆にアレスの真っ黒な魔力の渦の中へと歩み進め、彼の冷え切った身体に、自ら真正面から強く抱きついた。


「――バカ。バカアレス。私があなた以外の誰かを愛するわけないでしょう!!!」


ルナの叫びが、アレスの胸に突き刺さる。


「この子は、私の前世……私があなたに出会う前の、遠い故郷の服を着ているの。この世界の人間じゃないわ。記憶も失っているのよ! 私が興味があるのは、この子がどうやってあなたの『絶対結界』を破ってきたか、その『システム』だけよ!」


ルナはアレスの胸に顔を埋め、彼の漆黒の衣類を強く握りしめた。


「私はあなただけのものよ、アレス。あなたがいない一時間、寂しくて死にそうだったわ。だから……お願い。私を信じて。私の大好きな、優しくて、ちょっと過保護なあなたに戻って……!」


ルナの、涙ながらの「極上の嘘(※半分は本音)」と、身体を張った愛の証明。

その瞬間、アレスの周囲を渦巻いていた漆黒の魔力が、まるで嘘のようにピタリと霧散した。


「……ルナ……。僕だけの……もの……?」


アレスの瞳に、昏い正気と、いつもの「ルナに甘やかされたい旦那様」の光が戻ってくる。彼は、自分の腕の中にいる本物のルナの温もりを感じ、自分がどれほど恐ろしいことを口にしたかを自覚して、急激に青ざめた。


「ああ……、すまない、ルナ……。僕は、また君を怖がらせるようなことを……。君が僕以外のものを見ていると思って、頭が狂ってしまったんだ……」


アレスはガタガタと震えながら、ルナの背中に腕を回し、彼女を貪るように強く、強く抱きしめ返した。彼のヤンデレな恐怖心は、ルナの「あなただけのもの」という言葉によって、どうにか鎮静化されたのだ。


アレスをどうにか宥め、胸を撫で下ろしたルナ。

しかし、二人の足元で気を失っている「セーラー服の少女」の胸元で、アレスの魔力に反応するように、微かな「量子波形」の光が明滅しているのを、ルナは見逃さなかった。


アレスの神域の監禁結界をスルーし、この世界に漂着した、地球の記憶を失った少女。

彼女の存在が、ルナとアレスの甘い蜜月を終わらせ、この世界の「構造そのもの」を揺るがす、第三章の「大いなる謎」の幕開けとなるのであった。

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