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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第七十五話:出陣の夜と、小さな従騎士

カミラからの警告から数日後、恐れていた事態は現実のものとなった。

エストリア帝国が王国に対し、正式な宣戦布告を行ったのだ。国境線には、ゼノスが狂気の中で完成させた「ホムンクルスの自律思考回路」を搭載した、無数の魔導機甲兵団が集結しつつあった。


王宮の謁見の間は、重苦しい緊張感に包まれていた。だが、その中心に立つ国王代理アレスの放つ覇気は、帝国の軍勢などよりも遥かに恐ろしいものだった。


「――作戦は単純だ。僕が前線に立ち、帝国の軍勢ごと、あの忌まわしき皇太子をこの世から消滅させる。それだけだ」


アレスの冷酷な宣言に、並み居る将軍たちは誰も異論を挟めなかった。彼らの目には、今のアレスが「国を守る英雄」ではなく、「愛する王妃の領域を侵された魔王」にしか見えなかったからだ。


軍議を終え、アレスが「要塞」と化した王妃の離宮に戻ると、そこにはすでに旅支度を終えたルナの姿があった。

ただし、いつもの華やかなドレスではない。髪を高くまとめ、王国の精鋭騎士が身にまとう、小ぶりな銀色の軽装鎧を着込んでいる。


「ルナ……。その格好は一体、何の冗談だ?」


アレスの瞳が、一瞬で危険な深紅へと染まった。周囲の空気が凍りつき、結界が彼の不機嫌に反応して低く鳴動する。


「冗談じゃないわ、アレス。カミラ様からの情報によれば、帝国の機甲兵団の弱点は、その制御中枢にある。私の無属性魔導でなければ、奴らの防壁アンチ・マジックは破れない。だから、私も戦場へ行くわ。あなたの『従騎士』としてね」


ルナは凛とした表情で、アレスの前に歩み出た。

当然、アレスの独占欲と過保護本能がそれを許すはずがなかった。アレスはルナの肩を強く掴み、その顔を覗き込む。


「絶対に認めない! 戦場がどれほど凄惨な場所か、君は分かっていないんだ。あそこには、君の美しい髪を汚す血と泥しかない。君を、あのゼノスの視界に再び入れるなど、死んでも御免だ。君はここで、僕が帰るのを大人しく待っていればいい」


「待っていたら、あなたが本当の化け物になってしまうわ!」


ルナの叫びが、部屋に響いた。

ルナはアレスの胸に手を当て、その激しい鼓動を感じながら、優しく、しかし確固たる意志を込めて言葉を続ける。


「アレス、今のあなたの魔力は、怒りで黒く濁っている。私を傷つけられた怨みだけで戦えば、あなたは帝国を滅ぼした後、その罪悪感で壊れてしまう。私は、あなたを人殺しの魔王にしたくないの。あなたに、誇り高き王国の守護者であってほしい。だから、私を連れて行って。私がいれば、あなたのブレーキになれるわ」


「ルナ……。僕は、君を守るためなら、世界中を敵に回しても構わないと言ったはずだ」


「ええ。だから、その世界の中に、私も入れて。あなた一人が背負う必要なんてないのよ」


ルナはそっと爪先立ち、アレスの硬く結ばれた唇に、自ら深く、熱い口づけを交わした。

その接吻は、アレスの狂おしいほどの焦燥感を、一瞬でせき止めるほどの威力を持っていた。アレスは大きな溜息をつき、降伏するようにルナをきつく抱きしめた。


「……本当に、ずるいな、君は。そんな顔で頼まれたら、僕は悪魔に魂を売ってでも、君の願いを叶えるしかない。……分かった。僕の視界から一歩も出ないこと。僕の影から離れないこと。それが条件だ」


「ええ。約束するわ、私の愛しい旦那様」


こうして、ルナの「戦場密航作戦」が始まった。

アレスは表向き、ルナを王宮の結界内に完璧に隠蔽したと発表し、全軍を欺いた。そして、自らの「影」の中にルナの魔力を偽装して潜ませ、最高機密の従騎士として戦陣へと伴ったのだ。


数日後。王国と帝国の国境である「バルカ荒野」。

地平線を埋め尽くすのは、帝国の黒き機甲兵団。その中央には、魔導戦車の上に立ち、狂気の笑みを浮かべるゼノスの姿があった。


「アレス王子! ついに来たか! 今日こそ、あの王妃のすべてを我が手に収め、この大陸を帝国のものとしてみせる!」


ゼノスの宣戦布告に対し、王国軍の先頭に立つアレスは、ただ冷酷に剣を抜いた。

そのアレスのすぐ後ろ、漆黒の兜を深く被った小柄な従騎士――ルナは、戦場の風を浴びながら、胸の内でカミラから受け取った通信を反芻していた。


(カミラ様は、帝国の後方補給路を断つために動いている。私がこの前線で、ゼノスの機甲兵団のシステムを狂わせれば、勝機はある……!)


「ルナ。合図とともに、僕が前線を切り裂く。君は僕の背中だけを見ていろ」


アレスが影を通じて、ルナの脳内に直接、甘く冷たい声を響かせる。


「ええ、アレス。私たちの未来のために、すべてを終わらせましょう」


両軍が激突する轟音が響き渡り、ついに第二章の大決戦、その幕が上がった。アレスの無双の武力と、ルナの転生者としての知略、そして新しく生まれたカミラとの絆。そのすべてが、狂気の皇太子ゼノスを追い詰めるための、最強の歯車となって動き出したのだった。

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