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顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


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第七十三話:偽愛の破砕と、真実の抱擁

地下研究所に響き渡る、無機質な足音。

ルナの姿を模した二十体の人形たちは、感情の欠片もない瞳でアレスを包囲していた。その光景は、アレスという男にとって、神聖な聖域を泥足で踏み荒らされる以上の屈辱であった。


「……アレス王子、どうした? 攻撃が鈍っているぞ。愛する女と同じ顔を斬るのは、流石の君でも躊躇われるか?」


ゼノスの嘲笑が、崩落の始まったホールに反響する。

実際、アレスの動きには微かな迷いがあった。本来の彼ならば、空間ごと敵を消滅させることなど造作もない。しかし、目の前にいる「モノ」たちの肌の質感、髪の色、そして怯えるような瞳の造形までもが、あまりにも愛するルナに似すぎていた。


「……黙れ。その口で、二度と彼女の名を呼ぶな」


アレスの声は地を這うように低く、殺意で煮え立っていた。

一方、ルナは防壁を展開しながら、必死に魔導解析を進めていた。人形たちの胸部で明滅する魔導核――それが自分自身の魔力波形を模倣していることを突き止めたのだ。


「アレス、聞いて! この子たちの核は、私の魔力に同調するように作られているわ。私が直接、強制停止のコードを流し込めば止められる! でも、全個体に同時にアクセスするには、私が魔導炉のメインコンソールと繋がる必要があるの」


「ダメだ! そんな無防備な真似、許せるわけがないだろう!」


アレスが即座に絶叫した。ルナがその白く細い指先を、忌まわしきゼノスの機械に預けるなど、アレスの独占欲が耐えられるはずもなかった。


「お願い、アレス。私を信じて。私が作業をしている間、この子たちを……私と同じ顔をしたこの子たちを、止めておいて。あなたにしか頼めないの」


ルナの真っ直ぐな瞳が、アレスの燃え盛る理性を貫いた。

アレスは唇を噛み締め、血が滲むほどに拳を握りしめた。彼は理解した。ここで自分が躊躇い続ければ、本物のルナを危険にさらす。偽物を守るために本物を失うことほど、彼にとっての地獄はない。


「……分かった。ルナ、君の望む通りにしよう」


アレスの瞳から、最後のためらいが消えた。

彼はルナをメインコンソールへと優しく突き放すと、襲い来る「偽ルナ」たちの群れへと向き直った。その背後には、天を衝くほどの漆黒の魔力が立ち昇り、もはや王子の姿は闇に溶け、魔王の如き威圧感を放っていた。


「……いいか、模造品ゴミども。君たちの存在すべてが、僕にとってはルナへの冒涜だ」


アレスが虚空を掴むと、そこから漆黒の魔剣「絶影」が現れた。

一歩。アレスが踏み出す。

次の瞬間、最前列にいた人形の首が宙を舞った。


「あああああッ!!」


アレスは叫んだ。それは歓喜ではなく、愛する者の姿を自らの手で壊さねばならない痛恨の咆哮。だが、その手は止まらない。

人形たちの腕を断ち、胸を貫き、ルナと同じ美しい顔を、情け容赦なく粉砕していく。


「お姉様! アレス殿下が……なんて悲しい戦いなの……!」


拘束を逃れたカミラが、涙を流しながらその惨劇を見守っていた。

アレスは、人形が倒れるたびに「これはルナではない」「ルナは後ろにいる本物だけだ」と、自らに言い聞かせるように心を削りながら戦っていた。返り血――偽物の体に流れる疑似血液――がアレスの美しい顔を汚していく。


「狂っている……。実の愛妃の姿を、これほどまでに無慈悲に破壊できるとは……。アレス、貴様こそが真の化け物だ!」


ゼノスが戦慄し、後退りする。

そんな中、ルナは魔導炉の深部へと意識をダイブさせていた。


(……見つけた。この人形たちの根幹、私の理論を悪用した不完全な部分! 現代知識プログラミングの概念を魔導式に上書きすれば、制御は奪える!)


ルナの周囲に、幾何学的な光の紋章が幾層にも重なり、高速で展開されていく。

「全個体、強制同期開始オーバーライド――リセット・コード、実行!」


ルナの叫びと共に、研究所全体を眩い白光が包み込んだ。

襲いかかっていた残りの人形たちが、一斉に動きを止め、膝をつく。それらはもう、アレスを襲う兵器ではなく、ただの抜け殻へと戻ったのだ。


「……終わったのか?」


アレスは剣を消滅させ、肩を震わせながらその場に立ち尽くしていた。彼の足元には、無残に破壊された「かつてルナの姿をしていたもの」が散乱している。

アレスの心は、限界まで引き絞られた弓のように張り詰めていた。


「アレス……!」


ルナがコンソールから駆け寄り、血と汚れにまみれたアレスの背中にしがみついた。


「ごめんなさい、辛い思いをさせて……。でも、もう大丈夫。本物の私は、ここにいるわ」


「……ルナ、ルナ……っ」


アレスは狂ったようにルナを振り返り、その肩に顔を埋めた。

彼はルナを離すまいと、肋骨が軋むほどの力で抱きしめる。その腕は、まだ微かに震えていた。


「怖かった……。君を殺すような感触が、この手に残っている……。嫌だ、ルナ、僕から離れないでくれ。君が死ぬくらいなら、僕が君の姿を模した世界ごと、すべてを殺してしまうところだった……!」


アレスのヤンデレな情念が、涙混じりの言葉となって溢れ出す。

ルナはそんな彼の乱れた髪を優しく撫で、幾度も「大好きよ」「私はここにいるわ」と耳元で繰り返した。


だが、この惨劇の元凶であるゼノスは、まだ死んではいなかった。


「……ふふ、あはははは! 素晴らしい! 絶望に濡れたアレス王子の顔が見られただけで、この計画には価値があった!」


ゼノスは崩落する天井の下で、転移石を掲げた。


「だが、これで終わりではないぞ。我が帝国は、君たちが思っている以上に深く、闇を抱えている。ルナ・ノート、君の知恵は必ず我が手に……!」


「――逃がさないわ!」


カミラが叫び、魔導の矢を放ったが、ゼノスの姿は一瞬早くかき消された。

崩壊が加速する地下研究所。


「お姉様、アレス殿下! ここはもう持ちません! 早く!」


カミラの誘導に従い、アレスはルナを抱き上げ、最後の魔力を振り絞って転移魔法を展開した。


地上へと脱出した三人の目に映ったのは、静寂に包まれた雪原と、昇り始めた朝日だった。

しかし、ルナを抱きしめるアレスの腕に、緩みは一切なかった。


「ルナ……。城に帰ったら、もう二度と、僕の視界から出さない。……今回のことで分かっただろう? 世界は君を汚そうとするゴミに満ちている。僕の腕の中だけが、君が唯一、安全でいられる場所なんだ」


アレスの瞳の奥に宿る「守護」という名の監禁願望。

それは、今回の事件を経て、もはや誰にも止められないほど強固なものへと昇華されていた。


ルナは、そんな彼の執着を受け入れながら、朝日を見つめた。

ゼノスは逃げた。帝国との戦争の火種はまだ消えていない。

だが、隣で自分を壊れ物のように抱きしめるこの男の愛がある限り、どんな困難も――たとえそれが、重すぎる愛ゆえの「監禁」であっても――乗り越えてみせると、ルナは心に誓うのだった。


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