表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔面S級冷酷無双ヤンデレ王子と転生令嬢  作者: はるさんた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/73

第七十二話:深淵の鏡像と、王子の咆哮

エストリア帝国の北端、万年雪に覆われた極寒の地。その地下深くに、ゼノス皇太子が私物化している「禁忌の研究所」は存在していた。

地上では吹き荒れる吹雪がすべての音を消し去っているが、厚い岩盤に守られた地下施設では、不気味な魔導炉の重低音が鳴り響き、どす黒い紫の魔力が毛細血管のように壁面を伝っている。

アレスとルナは、カミラから送られた暗証コードを用いて、転移魔法で施設の最深部へと降り立った。

「……ここが、ゼノスの牙城ね。嫌な予感がするわ。空気が淀んでいる……」

ルナは自ら展開した無属性魔導の防壁で周囲を覆いながら、警戒を強めた。その隣では、アレスがかつてないほどの殺気を放っている。彼の銀髪は微かに逆立ち、深紅の瞳は暗闇の中で野獣のように光っていた。

「ルナ、僕から三歩以上離れるな。……ここにあるものすべてが、僕にとっては君を害する敵に見える。僕の理性が切れる前に、すべてを消し去ってしまいたい」

アレスの独占欲は、この異様な空間でさらに尖鋭化していた。彼は左手でルナの腰を抱き寄せ、右手にはいつでも空間を切り裂けるほどの魔力を凝縮させている。

二人が広大な実験ホールへと足を踏み入れた瞬間、天井の魔導灯が一斉に点灯した。

中央に鎮座するのは、巨大な培養槽。その中に浮かんでいる「モノ」を見た瞬間、ルナは息を呑み、アレスの周囲の空気が凍りついた。

「……嘘でしょ……」

培養槽の中で静かに目を閉じているのは、数多の魔導回路を全身に繋がれた、ルナと生き写しの少女たちだった。

それも一人ではない。十体、二十体と、ルナの容姿を完璧に模倣したホムンクルス(魔導人形)が、緑色の薬液の中に揺らめいている。

「ようこそ、我が至高の庭へ。アレス王子、そして麗しきルナ・ノート」

ホールの奥から、ゼノスが悠然と姿を現した。彼の顔半分は、前回の研究所爆発の際の後遺症か、黒い紋様が浮かび上がり、その瞳からは正気が失われていた。

「素晴らしいだろう? ルナ、君の数式を解析し、その『無属性』という特異な魔力特性を再現しようとした結果だ。君自身が手に入らないのなら、君を量産すればいい。この人形たちに君の知識を流し込み、私の忠実な兵士、そして――『愛玩物』として育てるのだ」

「――貴様ッ!!」

アレスの咆哮が、地下施設全体を震わせた。

それはもはや人間の声ではなかった。神の領域に等しい怒りが具現化した、絶対的な拒絶の叫びだ。

アレスの足元から、真っ黒な影が津波のように広がり、周囲の機械装置を瞬時に噛み砕いていく。彼の独占欲にとって、愛するルナの容姿が「量産」され、他者の手に触れられること。それは、魂を直接汚される以上の耐え難い侮辱だった。

「僕のルナを、模造品ゴミにするな! その不浄な瞳で、彼女の姿をこれ以上視界に入れることも許さない! 全員……全員、魂の塵一つ残さず消滅させてやる!」

アレスの魔力が暴走寸前まで膨れ上がる。彼の背後に浮かび上がったのは、巨大な死神の鎌のような魔力の結晶。一振りすれば、この研究所どころか、上の山ごと消し飛ばしかねない威力を秘めていた。

「待って、アレス! 今爆発させたら、地下の魔導炉が連鎖して、近隣の村まで吹き飛ぶわ!」

ルナは狂気に染まりかけたアレスの腕を掴み、必死に彼を現実へと引き戻そうとした。だが、今のアレスにはルナの制止すら届かないほど、深い嫉妬と怒りが勝っていた。

「離せ、ルナ! 君を模したあの不快な人形たちが、あのアレスという男の指先に触れられるのを許せというのか!? 僕は認めない、世界中にルナは君一人だけでいい! 君の美しさも、知恵も、存在も、すべて僕だけの聖域だ!」

アレスの絶叫に近い叫びは、愛という名の狂信だった。

その時、実験室の隅で拘束されていたカミラが、必死に声を上げた。

「お姉様! アレス殿下! ゼノスの狙いはアレス殿下のその『暴走』よ! 殿下が全放出した魔力を、あの魔導炉に吸収させて、人形たちを一斉に起動させるつもりなの!」

「……くく、気づくのが遅かったな」

ゼノスが不敵に笑い、スイッチを入れた。

アレスから放たれた膨大な怒りの魔力が、床に隠された吸収陣を通じて中央の培養槽へと流れ込む。ルナそっくりの人形たちが、一斉に目を見開いた。その瞳は、意思のない虚無の青。

「さあ、動け。アレス王子の魔力を糧に、本物の王妃を排除せよ」

二十体の「偽ルナ」たちが、薬液をぶち破り、一斉にアレスとルナへと襲いかかる。

自分と同じ顔をした人形たちが、無機質な動作で殺意を向けてくる異様な光景。ルナは一瞬怯んだが、すぐに自身の魔力を展開した。

「……私の姿を、こんな悲しいことに使わないで!」

ルナは転生令嬢としての矜持を胸に、現代科学の知見を応用した「魔力分解数式」を空中に描いた。人形たちの動きを止めるには、核となっている魔導核を直接書き換えるしかない。

一方、アレスは襲い来る人形たちに対し、かつてないほどのジレンマに陥っていた。

偽物だ。殺すべき敵だ。そう理解していても、その顔が、声が、大好きなルナのものと同じであることが、彼の剣をわずかに鈍らせる。

「……クソッ、汚らわしい。僕の愛を、こんな形で利用するとは……!」

アレスは人形たちの腕を叩き折り、吹き飛ばしながらも、その「顔」を破壊することに無意識の拒否反応を示していた。それは、彼の「ルナへの愛」があまりにも純粋で、かつ歪んでいるがゆえの弱点だった。

「アレス、私を見て! 偽物に惑わされないで! 私はここにいる、あなたの隣にいるわ!」

ルナの声が響く。彼女は迫り来る人形の一人の胸元に手を当て、複雑な魔導式を流し込んだ。

停止シャットダウン――!」

ルナの叫びと共に、一体の人形が糸の切れた人形のように倒れ込む。しかし、残りはまだ十数体。

ゼノスはそれを見ながら、狂ったように笑い続けていた。

「アレス王子、苦しいだろう? 愛する女を殺す感触を、存分に味わうがいい。君の愛が深ければ深いほど、この人形たちは君を苦しめる鎖となるのだ!」

崩れゆく研究所。

自分と同じ顔をした軍団を相手に、ルナの知略とアレスの狂愛が試される。

アレスが「本物」を守るために、自身の愛という名の呪縛をどう乗り越えるのか。

そして、この忌まわしき量産計画を止めるため、ルナが用意した「一か八かの秘策」とは――。

帝国決戦、その前編が、激しさを増していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ