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鬱展開大好き主人公VS優しい世界  作者: 石蕗石


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世間はそこそこ狭いもの

「学園の資料を見たい? 構わないよ!」


調査開始二日目。

まあまあ構えて向かった職員室にて、俺らの担任であるアークランド先生は全然まったく情報を隠しているふうもなく、朗らかに調査資料を開示してくれた。なんなら資料室まで案内してくれる親切っぷりである。

アークランド先生はこの学園のOGだ。つまり白いビグレルの噂話だって知っている。というか他の職員達だって有名な七不思議自体は知っているに違いない。

俺達は最初、だからといって出会うと死ぬなどという話を真に受けているとも思えないので、これについて自分たちでも調査する必要があると考えていたわけだが、この白いビグレルと呼ばれる謎の生物が実際に生息している可能性が高いと分かった以上、話はちょっと変わってくる。

俺達が被害を訴えた時点で、学園側はこれは例の魔獣の被害か、と理解していた可能性がある。だというのにそれを被害者である俺達やその保護者に伝えなかったのは何故なのか?

その答えも、アークランド先生はけろっと話してくれた。


「困ったことにというか、幸運なことにというか、この謎の魔獣、通称白いビグレルによる被害はここ三十年ほどは出ていなかったんだよね。だからすっかり油断していたようで、古参の教員達もそういえば昔の資料があったはずだって最近気付いたんだ」

「そんなに? なるほど、前回の被害の際調査にあたった職員は、今はもうほとんどいらっしゃらないのですか?」

「そういうこと。私もこの魔獣による被害が本当に度々あったなんて、今回初めて知ったよ」

「そうだったのですね」

「さては君たち、学園が白いビグレルの情報を隠蔽してるとか考えてただろ~」


にまっと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言ったアークランド先生に、俺達は各自視線を泳がせた。ノエルくんだけはしれっとした顔で先生を見上げてるだけだが。

そんな生徒達の様子に元気な女史は明るく笑った後、古びた紙の束を棚から取り出し資料室のテーブルの上へと置いた。すっかり黄ばんだそれは、三十年前の調査資料のようだ。


「まず気になっているだろう事から先に答えよう。白いビグレルに会うと一年以内に死ぬ、という噂はもちろんただの噂だよ。実際には、三日失神し目が覚めなかった事例が一番重い被害だ。五年ほどの追跡調査がされたこともあるが、不審死したなんていう報告は一つもない。まあ事故死や病死した例はあるけれど、これを白いビグレルの呪いと捉えるかは人によるだろうね」


細い指が紙をめくっていき、被害者の情報が羅列されたページを広げる。

似顔絵と名前の他に、被害に遭った当時の状況、体調、失神していた期間の長さ、その後の体調変化など気になる情報が一通り羅列されたページは、予想していたほど多くはなかった。

学園側が把握している被害者の総数は十四人。一つの学園で起きた魔獣被害としてはまあまあな数だろうが、百年間の総数と考えると少ないと言えそうな、微妙な数だ。

この十四人のうち、五年以内に死亡した人間は三人。一人は病死、一人は馬車との接触事故による怪我で死亡。もう一人は魔術研究中に不慮の事故で死亡。多いと言えば多いが、これについてもこの世界の医療レベルなどを考えれば、違和感があるとも言い切れない死亡率だろう。


「確かに……。しかも三十年前の被害も、十分ほどの失神ですぐに目覚めているのですね。一番古い記録では起きるまでに三日かかっているのに」

「そう、白いビグレルによる被害は年々規模が減少しているんだ。人数という意味でも、症状の深刻さという意味でもね」


俺と先生が話していると、しばらく紙面を眺めていたノエルくんが、被害者一覧の中の一番最初に書かれている人を指差した。


「……この人、死因は魔力欠乏による衰弱なんですね」

「そうだね。魔力欠乏は死に至らない症例も多いが、元々強い魔力を有していた者が魔力を生み出したり貯める機能を後天的に失った場合、体が著しく衰弱することがある。彼はその運の悪いケースだったようだ。

最初の被害者だったから、それこそ魔獣が原因かと詳しく調べられたんだけれど、そもそも入学前から病気の兆候があったらしい」

「なるほど。失神させた獲物から魔力を吸い取る性質の魔獣かもしれない、なんていう程度の仮説は、当時の職員達だってもちろん立てていたはずだ……」

「魔獣が人を襲う理由は、エサを得るためか縄張りを守るため、と考えるのは定番だからね。失神時に魔力や体力を奪われた可能性はあるけれど、長期的に、しかも死亡するほど吸い取られた可能性は、他の被害者にまったくその傾向がないことから考えにくいかな」

「そうですね。他の被害者は魔獣と鉢合わせた時に失神したこと以外、その後の体調変化に共通点がない」

「そして被害者自身の特徴にも共通点がない。まあ、目撃例があった当初の生徒達は白いビグレルを探し回って人気のない場所を歩いていた、という共通点があるにはあるけれど。

……さて。見てもらったとおり、白いビグレルと呼ばれる魔獣は年々危険性が薄れている、というかそろそろ寿命なんじゃないか、と我々は考えている。

元々出会った相手を気絶させて逃げる程度の、攻撃性の薄い魔獣のようだから、ほんの数分魔法を作用させることしかできなくなった今では、あまり危険視する必要も無いだろうね。ま、気を失うときにどこかに頭でも打ったら大変だが、きみたちの証言からすると、魔法を使われてから倒れるまでの間に頭を庇う程度の時間の余裕はありそうだ。

そもそもこれは人間にはあまり近づかず、人気のない場所で偶然出くわしでもしない限り、まず見つからない魔獣のようだしね?」

「そうですね。廃墟に住んでいるのかも」


しれっとそう答えるノエルくんは多分、先生から、きみらが旧寮の廃墟になんてわざわざ潜り込まなきゃ起きなかった事件なんだから今後は自重しようね、と釘を刺されていることにすら気付いてないだろう。代わりに周りで俺達が気まずい顔をしておいた。反省していそうな素振りをすることは、人間社内で生きていくうえでは大事なコミュニケーションだからね。

先生から与えられた情報が確かなら、俺達は白いビグレルの謎を追う必要も無いし、七不思議で囁かれているような死の影に怯える必要も無い。ただちょっとばかり珍しい体験をしたね、と青春の一ページに加えれば良いだけだ。

しかしノエルくんは依然、考えることを止めていない様子だった。被害者一覧のページをめくっては情報を読み込み、その他の、白いビグレルとの遭遇場所やら頻度を纏めたページや、使っていると予想される魔法の種類なんかの情報をしげしげと眺め、そして再び最初の被害者情報のページへと紙面を戻した。

俺達はその様子を、ちょっと気まずい顔のままでじっと見守っている。ついでに言うなら先生もまた、普段の溌剌とした笑顔を若干引っ込めて、思案顔をノエルくんの横顔へと向けていた。


先生が言った、被害者には共通点がない、という言葉には若干の誤りがある。たしかに纏められた情報の中では、学園生徒であるから全員子供と言って良い年齢であること以外に大した繋がりはない。出身地、得意な魔法、魔力量、体の丈夫さ、持病の有無、年齢性別身長体重、学年やクラスや寮の部屋、その他諸々に多少の被りはあれども共通点と呼ぶには弱い。彼らは時に友人同士だったりクラスメイトだったりしたのだろうけれど、基本的には各地からやってきた様々な特徴を持つ赤の他人同士だ。

しかし今回に限って、一点だけこれまでとの違いがあった。

といっても、発見されたのは白いビグレルに遭遇した被害者の共通点ではなく、とある被害者とノエルくんの共通点でしかないんだけどな。

じいっと熱い視線を注がれているのは、百年前の、一番最初に白いビグレルと遭遇したと思われる生徒の情報だ。

得意科目は精神魔法。在学中から頭角を現し、新魔法を開発した若き天才。ただし夭折の天才だ。

入学前から魔力欠乏症を患っていたらしき彼は、魔術理論の研究に秀でていたものの、実践には向かなかった。にもかかわらず魔術研究に没頭したことも、彼の寿命を縮めた一因かもしれない。

白いビグレルの目撃から五年後、十八歳という若さで亡くなった彼の直接の死因は、著しい衰弱による心停止だそうだ。

紙面上の氏名を指先でなぞりながら、ノエルくんは先生の顔を見上げた。


「微妙なところですが、少なくともこれまでに比べれば、彼と俺は少しは共通点のある被害者のようですね」


そう言って珍しく肩を竦め、冗談ですよという雰囲気を出すノエルくんの姿に、先生は苦笑して頷いた。

この場の全員の注目を集める被害者の名前は、シエル・スレイド。精神魔法の名手として有名なスレイド家の三代前の当主の弟。

つまりノエルくんのご先祖様だ。


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― 新着の感想 ―
アークランド先生は女史なのでOGのような気がする! 白ピグ、複数存在せずに昔から同一個体ならかなりの長寿ですね。 血縁者! なんからの因果! いやあ盛り上がってきましたね。このご先祖の弟さんから是非と…
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