探せ! おもしれー奴!
『鬱展開大好き主人公』二巻、本日3/25発売です
今日はいよいよ入学式!
初めての学生生活にドキドキワクワク!
いったいこれから、どんな素敵な物語が始まるんだろう~!
俺だ。まだ正気だ。
でもまあ、俺の情緒がおかしくなっている原因はわかりますよね?
そう、クラスの雰囲気が良いのである。
当然のことながら、俺以外の誰もそんなことを問題視するはずがない。今日も今日とて俺だけがこの世界にアウェイ感を抱いているわけだが、今更なので強く生きていこうな。
それにまだ入学式が終わって、自分のクラスに来たばかり。学園生活の序盤も序盤なのだから、心配には及ばない。ここからクラス内の人間関係がギスる可能性はいくらでもある。ちなみに入学式では留学生徒挨拶および来賓挨拶みたいなことをやらされました。
というわけで、時はホームルーム前、場所は教室。
上流階級および成績優秀者が集められた特別なクラスであるこの場所は、教室と言うよりは貴賓室をちょっと地味にしました。という印象の優雅な内装だ。窓も大きく天井も高く、なんかわからんが良い匂いもする。大きな机と座り心地の良い椅子が適度な距離感で配置されており、人数は二十人弱ってとこだな。まだ埋まっていない席も少数ながらあるが、もうほとんど集合済みだ。
教室内のグループは現在おおむね二つに分かれている。一つは今日から入学し、慣れない学校生活というものに緊張しつつもドキドキワクワクしている上流階級グループ。二つ目はもっと幼い頃から入学して勉学に励んでおり、上流階級に交じっても問題ないと判断された優秀な平民グループだ。こっちは進学組なので学園生活自体は慣れているだろうが、貴族と同じ教室にいるせいで表情に緊張の色が濃い。
いまのところは双方ちらちらと視線を向け合っている程度で、この二グループに交流はないが、お互い特に嫌悪や侮蔑を向け合うような気配もないという状況だ。単純に好奇心はあるのだけれど、交流の仕方がまだわからないのだろう。
このグループごとに二人三人と集まって会話をする者も居れば、俺みたいにちょっと階級が高すぎて声をかけてもらえない奴もいる。
そう、大陸一の大国の第三王子こと俺は、ちょっと困ったことにこのクラスで一番社会的立場が高い。既に浮いていると言って過言ではないんだよなこれが。ついでに言うとこのクラスは年齢が十二歳から十五歳とばらついており、俺が数少ない最年少組なのも浮きっぷりに拍車をかけている。
まあ俺くらいになってくると、急にクラスのど真ん中で皆さんに向かって自己紹介を始めて社交を開始できる程度の図太さはあるわけだが、ひとまず今は人間観察を優先するとしよう。
例えば窓辺にいる女子グループ。アルニウラの侯爵令嬢を中心に、貴族の少女達が数人固まってお淑やかに歓談している。合間合間に他国からの留学組令嬢や、平民の才女のグループにちらちらと視線を向けては目をキラキラさせ頬を染めているので、そちらにも話しかけに行きたいのだろう。いかにも好意的な空気である。チラ見されている少女達も、視線が合うと時折はにかみながらにこりと微笑んでいるので、今日の夕方にはもうクラス内の女子達は大体皆打ち解けているかもしれない。
教室後方に固まってわいわいと挨拶を交わしているのは、この国の高位貴族の子息および留学組の高位貴族の子息達。ここから俺に向けられる視線が特に露骨だ。いや、本人達は失礼にならない程度に俺の様子をうかがっているつもりなんだろうが、バレバレである。こいつらも当然のように目がキラキラの笑顔がピカピカで、友達百人できるかなという希望に満ちあふれていそうだ。あとで挨拶しとくか。
廊下側に固まっているのは、成績優秀者の男子グループと女子グループ。早速分厚い本を開いては、社交と言うより議論中。このへんは多分このクラスに上がる前からの学友かなんかだろう。
あとは一人で席に着いている人間も何人か。俺みたいにちょっと地位が高めなので、クラスの自己紹介かなんかで正式に全員に挨拶したあと個別で話そっかな、みたいな事情だろうタイプと、我関せずで本をめくってるタイプ、ちょっと引っ込み思案っぽい子。まあいろいろだ。
思春期の子供達を集めたんだから、最初は多少ぎこちないのが当然だろう。今のところはどこにも不和ってほどの気配はない。むしろ年の割に自制心がありそうな振る舞いが目立っている。つまり俺の望みとは若干違う。
まあ……これからだから……。どこにだって諍いの芽はひょいひょい生えてくるものだから……。内心死んだ目でそう思いつつ、俺は窓際最後列の一つ前、という主人公の友人ポジションが座っていそうな席で大人しくしていた。そういや後ろの席の子はまだ教室に到着していないようだ。
そう思った瞬間、扉が開いた。やってきたのは丁度いましがた考えていた、到着が遅れていた生徒だ。こういうタイミングに遅れてやってきた人間の宿命として、クラス中の視線がその生徒へ注がれる。そこまでは普通の出来事だが、ここでアルニウラ出身の生徒達があからさまにちょっとひるんだ。
学園から提出された資料およびうちの国の諜報機関の身辺調査が正しければ、注目の的になっている少年の名前はノエル・スレイド。数年前に事故死したエドガー・スレイドという魔術師の息子で、現在は成績優秀者として学園や高位貴族から援助をもらいつつ寮生活をしている苦学生のはずだ。
エドガー・スレイド氏の専門分野は精神魔法。心を読む魔法の開発に成功したという噂もある優秀な魔術師だったが、正式な論文を発表する前に、雷に打たれるとかいう爆裂低確率事故で死んでしまったらしい。
心を読む魔法。それは神話の中にしか使い手が存在しないような、超高難易度魔法の代名詞である。人間にはまず扱えない、と女神から太鼓判が押されているほどなので噂が事実だった確率はまあまあ低いが、そんな噂が立つならスレイド氏が優秀だったことは間違いないとも言える。その息子であるノエルくんも当然優秀なのは、この成績優秀者および英才教育漬けの貴族しかいないクラスに居る時点で明白だ。
経歴を読んで目を付けていた生徒の一人ではあったのだけれど、周囲からのこの反応はいかにも訳あり感があって、期待が高まっちゃうな。ノエルくんは仏頂面を僅かに顰めただけで、教室中から向けられた視線にたいして反応することなく、真っ直ぐに割り当てられた席へと歩いてきた。つまり俺の後ろへ。
なるほど。なるほど。
大変よろしい。
学園生活で最初にするべきことが決定した俺は、くるりと後ろを振り返り、にっこりと笑って片手を差し出した。
ノエルくんは握手を求める俺をまじまじと見た後、困惑した顔でほんの少しだけ首を傾げる。
「はじめまして! 僕の名前はライア・エル・ファルシール。もしよければ、友達になってくれると嬉しいな!」
「え、嫌だけど……」
想定外のセリフにとりあえず笑顔を維持する俺。絶句する周囲のクラスメイト達。隣国の王子からの友好的な挨拶を完全に袖にし、え? なんすか? なんか問題だったんすか? みたいなきょとん顔をしているノエルくん。
先程までの和やかで穏やかな空気が完全に冷え切って固まったところで、再び扉が開いた。
「やあ、諸君! 入学おめでとう!
……あれ? なんだい? 凄く静かじゃないかい? なにかあったのかな……?」
凍り付きまくっている異様な空気に、可哀想なタイミングでやってきた担任教師はすっかり怯えている。その声をBGMに、俺は手強そうな友人候補をうまいこと籠絡する作戦を脳内で粛々と立てることにした。
ひょっとすると訳ありとかじゃなくて、空気が読めなさすぎるせいで恐れられているだけの可能性が芽生えてしまったが、ひとまずよしとしよう。
温い環境に舞い降りたひとしずくの不和のかけらを確保できるか否かは、今後の学園生活の充実度に直結するからな。
この程度のことで俺から逃げられると思うなよ……!




