メカナイズド・ハート 162話
自殺行為を覚悟で数に勝る敵軍に突撃して不利な状況にいる友軍のための時間を稼ぐ。あまたのフィクション作品や歴史の中で輝いて映る英雄的な場面だ。
剣林弾雨の地獄の中を突き進む彼らの肉体は一瞬でボロ雑巾にされて、戦いが終われば哀れな骸を雨風に晒しカラスに眼球を啄まれていただろう。
しかし、果たしてその場面で英雄的な行いをした将兵たちのうち何割程度が喜んでその立場に身を置いたのだろうか?
少なくともルーカスは一切喜んでいなかった。
「クソクソクソクソクソ!!」
ルーカスは悪態をつきまくりながらもペダルを踏み込み、スラスターレバーを握り押し込み機体を加速させていく。適度に足でフットペダルを左右踏み込むことで敵の見越し射撃の偏差を誤魔化しながら、敵艦隊に向けてグングンと突き進んでいく。
敵の砲弾が自機を掠めて、前方に向けて構えるシールドを敵弾が引きちぎりデコボコに変形させていく中で、適度にルーカスも120mm砲や懸架された数発のミサイルを敵の艦隊に向けて撃ち返す。
コックピット正面のスクリーンに乱射した120mm砲の弾の一つが、運良く敵艦隊のポッド部隊のうちの一機に命中してポッと炎の花を咲かせているのが見える。
ただのラッキーパンチだがルーカスの口角は上がる。しかしラッキーパンチの1発以外は全て敵機に防がれるかそもそも敵に命中しない。
ルーカスが左右上下へと乱数回避するのと同じように敵艦隊も秩序だって回避軌道を取りつつ、砲弾やミサイルを突っ込んでくるルーカス大隊に雨あられのように降らせているのだ。
しかし、幸いながら散開したルーカス大隊とは異なり敵艦隊は、火力の優位性を手放すことを恐れて隊列を崩さず回避軌道を取るために、十分な速度が稼げずルーカス大隊に喰らい付かれる。
「ハハハッ!!逃げるのが遅い!!」
ルーカスは哄笑をあげる。
ルーカスはシールドを投棄してレーザーブレードを抜刀して機体を右へ左へ高速で移動させながらそれ違い様に、敵ポッドたちを切り捨てる。
ルーカスが最先頭で敵艦隊に突っ込んでいったおかげか、追いかけてきたルーカス大隊の残りも次々とルーカスの突入で混乱している敵機たちの横っ腹に喰らいつき、敵機を一つまた一つと落としていく。
一方的な虐殺だ。
しかしルーカスが感覚を広げて戦場全体を見渡してみれば、戦場のいくつかの箇所で混乱せずに組織的に戦ってルーカス大隊を数で圧倒している。なぜそんなことができるのか?答えはシンプルで優秀な指揮官あるいは先任のパイロットが周囲をまとめて、部隊としての統率を維持することに成功しているからだろう。
「そこにいるのが敵の部隊長か。」
ルーカスは一言つぶやくと、機体を加速させて目標目掛けて獲物を追いかけるドーベルマンのように獰猛に突撃する。




