メカナイズド・ハート 144話
ルーカスは腹立たしさを込めた幽鬼のような目で、大勢の若いおそらく志願で集まったであろう訓練兵たちを睨めつけていく。
しかし、何か得られるわけでもない非生産的な行動であることを自覚して目元を緩める。
数度息を整えたのち、副官の号令に合わせて話始める。
ルーカスは口を開きすでに何度かしゃべった訓示と全くもって同じ言葉を繰り返す。
どちらにせよ訓練生たちは気にしない、そしてルーカス本人も何度ももほや疲労が限界をこえ、一切きにしなくなった。
ルーカスは饒舌に口を回して適当で意味のない言葉を続ける。
ルーカスが饒舌になれるのは当然で、このしょうもない訓示の瞬間は今までは大量の書類と電話での打ち合わせから解放される素晴らしい瞬間だからだ。
しかし、そんな楽しい瞬間は光の速さで過ぎ去っていく。
「大尉殿・・・、次のミーティングが5分後に迫っています。そろそろ執務室に戻らないと間に合いません。」
訓示を終え、両手を組んで教官たちに先導されて訓練生たちがおのおのの宿舎へと送り込まれていく。その様子を腕を組んでみていると、耳元ににじり寄ってきた副官は耳に息がかかる距離でヒソヒソと伝えてくる。
愛する人から離れて一人寂しく仕事をしているルーカスには少し刺激が強い。しかし、幸いにもルーカスは体の端から端まで疲れ切っているために、一切体は反応しない。
そのような自分の体の状態を自覚するルーカスは、うんざりとした顔を副官に見せながら副官の手配した軍用車に乗り込み執務室のある建物に入る。
執務室に入ったタイミングは、執務室に備え付けられた黒電話がジリジリとわめくのとほぼ同時だった。ルーカスは部屋の半分を飛ぶように素早く移動し、1コール以内に取る。
「はい、もしもし?」
ルーカスはシーラカンス並みに古い黒電話の受話器を口と耳に当てて、すでに分かり切っている通話相手に対して電話をかけている相手が誰なのか名乗らせる。しかし、帰ってくる言葉から話している相手の声色で誰かわかる。
「よう、そっちには秘話機能はあるか?」
「ああ、一応あるぞ。」
「ならいいんだ、要件を話すぞ。」
イライラの混じった男性の声、セルゲイの声が聞こえてくる。
中隊長だったころはその腹立たしさはわからなかった。しかし、今やその感情が誰よりもわかる自信がある、本社から与えられる無理難題は常に寝る時にも自分の思考を圧迫しストレスを与え続ける。
「いいか?お前の機体は訓練機材と一緒に明日の22時ごろに届く、そしてそのなかに緑色のカーゴも届くだろう。そのカーゴは決してあけるな。いいな?」
「なぜ?」
「言えたらわざわざ秘話機能の有無なんて聞かないだろう?必要な時期が来た時にだけ開けろ。それまでは絶対に開けるな。カーゴの外見と書類はスペアパーツと書いてある。」
セルゲイからの電話の内容はシンプルで、配達されてきたルーカスの機体と訓練機材と一緒に厄介な積み荷もあるということだ。
どうやらセルゲイはルーカスのストレスを理解できても、それを緩めることはできないらしい。
GWのおかげか結構筆が進みます。




