メカナイズド・ハート 140話
「歴戦のパイロットだと聞いていましたが・・・、パイロットに向いていないのでは?」
そうヤン教官に言われて、ルーカスは思わず微笑みを見せる。
その笑みを見て顔をこわばらせながら、ヤン教官は話を続ける。
「そんなことを聞かれたのは初めてだよ。」
「そうでしょうか?」
「ああ、俺は自分を大量殺戮サイボーグだとおもっていたんだけどね。」
「私にはむしろまじめで善良な人間のように見えます。そうでなければ、そもそも自分の教えた生徒たちの未来など気にしませんよ。」
ヤン教官の生徒たちの行方を案じたりはしないという言葉を聞き、一瞬ルーカスはハトが豆鉄砲で撃たれたような顔をする。目は開かれ、言葉を返そうとしてうまい言葉が浮かばずに舌が口の中でもごもごと動くだけだ。
「私は会社をやめることをおすすめします。あなたは本当に善良でまじめなひとです、だれもがあなたが師団長に詰め寄って直訴したことを知ってますよ。」
ヤン教官をまっすぐルーカスに真正面から向き直りながら、畳みかける。
彼のまっすぐ見つめてくる目は一切の邪な感情も、意志もなく、ただ目の前で苦しんでいる人のためになることをしたいという司祭のような目だ。
「・・・そんなにぐいぐい押してきてどうした、ゲイか?」
「いいえ、ただ父親がこのまえPTSDで頭を撃ち抜いたので・・・。身近にいる人だけでも死んでほしくないのです。」
「身近な人・・・。」
「ええ、少なくとも訓練隊長殿はくだらないイデオロギーにも悪意にも支配されていない”人”です。」
その言葉を聞いてルーカスは押し黙る。
身近な人にだけは死んでほしくない、その考えは誰しもが持ち、ルーカス自身も持っている。エミーの死を想像したとき、ルーカスはその場に立っていることすらできない。
しかし、同時に軍を止めたところで徴兵組あがりの中途半端にパイロットの才能を持っただけの植民地人にまともな未来も行く先、帰る家すらもない。
かといって、散々病院の警官や師団長の瞳の中、セルゲイの言葉の中で見たような完全な悪意に自分自身の破壊まで任せることはできない程度には臆病だ。そうでなければ妹が消えていた時に自分自身の脳天を撃ち抜いただろう。
ルーカスは深い沈黙の時間を数分間、そばに立つヤン教官と共有した後で再び口を開く。
「俺のことを心配してくれてありがとう。ただ俺は大丈夫だ。それにエミーが前線で苦しんでるのに俺だけ足を抜けるわけにもいかないしな。」
「そうでしたか・・・。」
ルーカスは感謝の言葉を述べつつも、きっぱりとヤン教官の言葉を断る。
その一言だけ伝えると、ルーカスはとぼとぼと自分の宿舎へと街灯の光で長い影を作りながらも帰っていく。
「訓練隊長どの!!私はゲイではありませんが、先ほどの言葉は本心ですよ!!」
彼の心からの善意の言葉を背中で受けつつ、ルーカスは自分の執務室へと歩き出す。
明日は少々忙しいので投稿タイミングがわかりません。




