メカナイズド・ハート 119話
壁に耳あり障子に目あり
「各中隊に通達!!作戦終了!!撤収しろ!!」
炎と煙、ホコリが巻き誇るなかで本部にいるセルゲイからの指令が飛んでくる。
「聞いたな!?各機反転、縦列へと隊列を変えて帰投する!!」
ルーカスの指令で、各機はそれぞれ機体をその場で180度くるりと向きを変えて瓦礫と悲鳴があふれる市街地を背後に秩序だって縦列へと機体を並べ、少しづつ速度を上げながらルーカス機を先頭に駐屯地へと大通りを闊歩しながら帰っていく。
「中隊長殿?」
「よるところがある、お前らは先に帰れ。」
「了解です。」
ルーカスは一言だけ部下に伝えたうえで、十字路でまっすぐ行くべきところを機体を90度旋回させて駐屯地へと向かう道から離れる。
他の部下たちが、頭を疑問符で一杯にしながらもまっすぐ指定されたルートで帰投していく。
「ふん。」
ルーカスはまっすぐ基地へと帰っていく自分の中隊の部下たちが、秩序だって帰っていくことに満足しながらも機体の歩みを緩めることなく目的地へと突き進んでいく。
「そこのポッド停止せよ!!このルートの使用許可は出ていないぞ!!」
ルーカスは、テロと激しい報復攻撃で巻き起こるカオスの中であれば命令抜きの独自行動でも、通り抜けることができるかと想定していたが、思っていたほどうまくはいかず目的地まじかで親ポーランド警察部隊と歩兵、歩兵戦闘車の混成でできた部隊が行く手に立ちふさがる。
「非常事態のため、単独行動をしている!!ひかれたくなければどきやがれ!!」
「そのような事態は報告されていない!!上級部隊はどこだ!!指揮官は誰だ!!」
「お前たちこそ何の権利があって邪魔をしている!!こっちは師団長直属だぞ!!」
僅かな間、邪魔をする部隊の指揮官と言い合いになりコックピットハッチを開けて顔を突き出し怒鳴る羽目になる。しかし、ルーカスが師団長直属であると名乗ることにより問題は回避された。
ズンズンズンッ
ルーカスは、何かに突き動かされるようにしてカオスが巻き起こる大通りをまっすぐ進み目的地が見える。壮麗でありつつも落ち着いた外見で、周りの建物たちと比べても一目置かれているであろうことが容易に想像できる。
そして戦時でありながらも建物周辺には秩序と平和がある。周囲のブロックや市街地の中に巻き起こるカオスと悲劇を考えれば、むしろ目の前の建物とその周辺だけの方が異常だろう。
「お、おい!!何をしている!!」
付近にいた警備兵が大声で怒鳴るものの、ルーカスは無視してその建物へと機体を近づける。
ルーカスは、慎重に操縦レバーを操作して武装を一切懸架させていない左腕部をそっと動かして、位置を調整後一気に前へと突き出す。
ズズズズンッ
地響きと大量の粉塵、人々の驚愕と悲鳴は建物の周辺にあった秩序と平和は一瞬で消え去り建物内の一室を外気に触れさせる。その部屋の中にはルーカスがずっと探していた人物がいる。
「入りたいのならノックをしたまえ・・・。」
ルーカスが壁をこじ開けた先には、おだやかな顔で椅子に座り腕を組みながらルーカスの行動をたしなめる師団長、ヤロポルク・コジロウスキ少将がいる。老人でありながらもエネルギッシュで、見る人に力強くハキハキとした話しぶりとともに理想的な現場指揮官であるように思わせる。
しかし、今回ルーカスの目の前で彼は哲学者か何かのような異常な達観と冷静さを、いきなり壁が壊され巨大な鉄の巨人の顔が見えるという、誰もがパニックになるような事態においても維持している。
その冷静さが伝染しルーカスも自らを突き動かしていた不思議な感情から、いくぶんか距離を置くことに成功し、元の軍人としての礼儀を思い出す。そして派手な登場をしたことを目の前の老師団長に謝罪する。
「失礼いたしました。」
「よい、で何用かね?まさか壁紙を張り替えるために来たわけではあるまい?」
「違います、見ていただきたいものがあって来ました。」
なんとなく一か月早めの5月病になりそうな人はおとなしく喧噪から距離を置き休みましょう(一敗)




