表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第五話:定番

「ス〇ゼロ…」

ふいにトリイは故郷の母を思うように、然して、異国に住む恋人を想うかのようにポツリとその言葉をこぼしていた。


「トリーサン、やっと喋れるようになったか!よかったよ!

さすがあんな美味い酒を飲ませてくれたトリーサンだな!

飲んでる様を見てあっけにとられて話かけられなかったぜ!

ところで、そのス〇ゼロってのは何なんだい?

何度も繰り返しうわ言のように言ってたし…

おそらく酒と見受けるが…」


「ス〇ゼロは世界だ。」


トリイはプラムが言い切るか否かのタイミングではっきりと言い切った。

そして、重厚かつ、軽快に弾丸を射出する機関銃のように言葉を続ける。


「ストゼロは聖母だ、孤独を虚無感をシルクのタオルで抱きかかえるように包み込む。

 ストゼロは悪魔だ、金も記憶も何もかも奪い去る。

 ストゼロは福音だ、カシュッという音は世界に幾億とあるどんな名曲も敵わない最高の音だ。

 ストゼロは呪詛だ、缶を揺らした時に僅かな水滴が缶の底を伝う音は友人の訃報のように悲しみを告げる音だ。

 ストゼロは、天に昇るほどの喜びを齎してくれる

 ストゼロは、地の底で嘆き続けるような悲しみを連れてくる

 この世の全てが愛しくなる程の快楽をくれる夜もあれば、

 この世全てを恨むような苦痛を伴う朝を迎える日がある

 かといえば、全てが自分中心に世界が動いているような朝を生み出してくれる日や

 何もかもを空虚に感じ、そのまま深い暗闇に呑み込まれてしましたいほどの夜を齎す日もある。

 ―満たされ、失い、満ち溢れ、滅び、 それを幾度となく繰り返す…

 だから、ストゼロは世界だ」


プラムは仰天していた。

先程、自分があれほど感動した凍結を「あれは全然だめだ」と切り捨てた男が、

飲みに行こうと言ってきたのにこちらからの問いかけに対する簡単な受け答えしかしなかった男が演説家を思わせるほど饒舌になるほど、

そして"凍結"をダメと言わせるまでの美味い酒があるのか。


プラムはそのス◯ゼロというものに興味が湧いた。


「なぁ、トリーサン、そのストゼロって酒…」


「ほう、そんな酒があるなら飲んでみたい物だなぁ!」


プラムがトリイに尋ねようとした瞬間、

トリイの飲みっぷりを見に来ていた他の客たちを掻き分け身長が180はあろう筋骨隆々の大柄な男が群集の前に出てきていた。


「リオレッド!」


「よう、プラム門にお前が居ねえと思ったらこんなとこで飲んだくれてたのか」


リオレッドと呼ばれた青年は鬼のような角を持ち、ほのかに赤い肌を筋肉の鎧で固め、その上には明らかに上等品であろう竜の鱗をあしらった防具に身を固めていた。

事実、リオレッドは名の知れたA級の冒険者でありホローの街ではトップクラスの実力者だった。


そして、リオレッドは訝しげにトリイの方を睨みつけながらこう告げた。


「そんな酒精の弱い酒やいくら飲んでも飲んだうちには入らねぇなぁ!

それにそんな酒をガブガブと飢えた野犬のように飲んでいるただの行き倒れが酒の良し悪しなんざ分かるわけがねぇ!

十中八九、ほら話だろ?」


トリイはリオレッドと呼ばれた青年をひと睨みし、再び酒と皿に視線を戻し言葉を返した。


「(ただでさえそこそこの)酒がまずくなる、その女子供のようにうるさい口を閉じて、とっとと失せろ。」


リオレッドはトリイの言葉に苛立ちを覚え、トリイに近づき、顔を睨めつけながら怒気と共に言葉をはっした。


「女子供の飲むような酒を飲んでいる奴が俺のことを女子供呼ばわり?笑わせるなぁ!

どうせ、そのス◯ゼロとやらも野良犬の与太話だろう?

仮に万が一、億が一に存在したとしてもお前のような奴が飲む酒だ!ロクなもんじゃねぇことは確かだなぁ!?」


「今なんと言った?」


リオレッドが言い切るか、言い切らないかの瞬間、トリイはリオレッドのコメカミを潰さんとするまでに握っていた。

所謂アイアンクローの状態である。


「おい、リオレッドやめろ!トリイさんも落ち着いてくれ!」


プラムは2人の間に入りトリイの手からリオレッドを離そうとするがビクともしない。


(力自慢のリオレッドが全力で引き剥がそうとしているのにビクともしねぇ…!

このパワー…只者じゃぁねぇ!トリイさん、あんた一体何者なんだ…!?)


「テメェ!やりやがったな!離しやがれ!」


リオレッドも只では済まさぬと蹴りをトリイの腹に何発か入れているが、

トリイは樹齢、数百年の大木のようにその身を全く動かしてことはなかった。


(小煩い…身体強化魔法を使い、このまま頭を握り潰すか…?)


トリイの頭にそんな考えが過ぎった時、

バーカウンターから轟いたオコウの声がその場を支配した。


「テメェら!どつき合いなら外でやれ!!

 うちの店でケンカしてぇってなら飲み比べしか認めねぇぞ!!!」


「飲み比べ?」


トリイはその言葉を聞き、掴んでいたリオレッドの頭を離した。


リオレッドは床に尻餅をつく形になり、トリイを睨みつける。


「いいぜ、野良犬、やってやろうじゃねぇか…

オコウ、あの酒を出してくれ!それもただの飲み比べじゃねぇ!”死亡遊戯”でやるぞ…

殴り合いはその後だ…」


ー異世界定番のギルドでの絡まれイベントが起きたトリイ。

死亡遊戯とはなんなのか?

そして、あの酒とはなんなのか?

トリイの異世界での旅はまだ始まったばかり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ