第三話 : 慈悲
お久しぶりです。
続き投稿します。
魔物達の死体の中で使えそうなものをアイテムボックスへ入れていく。
また、魔物の体内にあった魔石を回収していく。
多くの魔物は体躯を補強する為に魔力を使用しており、魔法として使用する以外の魔力を維持や供給する為に体内に魔石を持っているものが多い。
もちろん、体躯に魔石の大きさは比例する。
青年は鑑定により、この魔石が換金できることを知り、ヒガシオ◯サカの路上で小銭を集めていた時のようにせっせと拾い集めていた。
しばらくの時が立ち、甲高い叫声のような吸気音の後、圧縮空気の爆ぜる音が草原に響く。
青年は風魔法と炎魔法を応用し爆発的な推進力を用いて地図に記されていた街の方へ飛ぶ。
青年は無益な労働の次に無闇に歩くのが嫌いだった。
遠出の際にわざわざハイヒールを履き、足が痛くなったなどと文句をつける女以上に無闇に歩くことが嫌いだった。
アルコールがもたらしてくれる高揚感は酩酊には程遠いが素面よりかはまだマシだった。
「早く街に着き、スト◯ロ…ではない、酒、ではない…スト◯ロ、いや、酒、いや、スト◯ロを飲まなければ…」
青年の思考回路は21の誕生日を迎える頃には既に「酒=スト◯ロ」の方程式となっており、気分によってスト◯ロの風味や期間限定商品を変えるだけで基本的にスト◯ロ以外は口にしなかったのだ。
一口、口にしてしまったが故の禁断症状。
老紳士の配慮故に知ってしまった飢えと渇き、それを満たそうと彼は街へ向かう速度を上げた。
街の付近へ着陸した青年は街へ向かった。
そのまま街にダイナミック着陸をすることも考えたがすんでのところで踏みとどまった。
禁断症状の中、ギリギリで彼の理性が踏みとどめたのだ。
むしろ、酒をより早く、より多く飲む為の最短ルートを彼は選択しているとさえ言える。
街でひと暴れすればそのまま敵対ルートとなり街を全て屠らなければいけない。
青年の倫理観はヒガシオ◯サカナイズされており、弱肉強食、そして弱者ともあれ全力で狩ること。
自らの死因となった歯の抜けた老人から学んだことだった。
アルコールの切れそうな中、そんな思考を逡巡させながら街へ入る門へ向かう。
「そこのローブを着た者、見慣れぬ顔だな、身分を証明出来るものはないか?」
自分と同じ年くらいの少し頬のこけた門番に止められ尋ねられる。
青年は前世の癖で懐を探った。
ヒガシオ◯サカ以外の場所で路上で寝ていたらよく尋ねられていたからだ。
(ヒガシオ◯サカでは当たり前の光景であり、警察や自警団もスルーする)
そして、いつものように最低限の小銭と原付のみ記載された免許証の入った財布を取り出そうとしたがそれらがないことに気づいた。
瞬間、思考加速魔法を発動し、様々な選択を考えた。
精神汚染魔法で、認識阻害魔法で、一度始末した後に隷属魔法で、あらゆる手段で表面上は問題なくこの場を切り抜ける手段をアルコールの入った脳で思考する。
そして、彼の至ったものは青年本人も驚くことに”慈悲”だった。
自分と同じようにロクな休みもなく働いているであろう同世代の人間。
異世界であっても彼は同情を覚えたのだ。
そして、穏やかな笑みを浮かべながら彼は一本の瓶を巾着から取り出した。
ここで、異世界ものあるあるが出てくるのだが、この世界のスライムの体液にもアルコール成分があった。
このホローの街周辺でよく見かけるホロースライムはあまりアルコール成分が高く含んでおらず、草原の草や魔物の死体を主な栄養源としている為、特有の青臭さと苦みがあった。
青年はそのまま飲んでいても最初はあまり気にしていなかったが
ス〇ゼロ成分が体内で薄くなるころ、飲むにはあまりに粗末なものだと判断し、
恵み(アルコール)を得ていた脳回路は瞬時に適正な加工方法を算出した。
スライムの体液を炎魔法で蒸留、アルコール濃度を上昇させる、氷魔法で冷却し、風魔法で炭酸化、それを冒険者が飲み捨てていたのであろう瓶に詰め、再度凍りそうなほどキンキンに冷やした。
(※聡明な読者諸君はその辺で落ちている瓶を使うときはきちんと煮沸消毒してから使いましょう、彼がヒガシオ○サカ人だから為せることです)
この瞬間こそ現代日本社会が生み出した"飲む介護"と呼ばれるチューハイ、それが異世界で芽吹いた瞬間だった。
青年は記念すべきこのチューハイ一号を"凍結"(350ml/アルコール含有量5%)と名付けた。
青年は慈悲の心と廃品処分の気持ちを持って、この"凍結"を渡した。
立派なアルコールではないか?と読者諸君は考えるだろうが、
アルコール9%以下は青年のような中毒s…もとい、信仰者にとってはただ味のついた水に過ぎず決してアルコール、酒ではないのだ。
(こ、この男、思考が読めない!危険すぎる!)
ホローの街を守る門番である彼、プラムは読心の魔術に長けていた。
彼の優れた読心の魔術は外敵やスパイ等の脅威からホローの街を何度も救っていた。
しかし、彼には学もコネもなかった。
その為、万年門番として昼夜問わず配置される日々。
年下で入ってきたコネ持ちの新兵は彼より遥かに不真面目な勤務態度、読心の魔術どころか空気も読めないにもかかわらず出世ルートを歩み、彼の倍ほどの賃金を得て家庭を築いていた。
一方、プラムは数少ない休みの前の日、安い賃金でギルド酒場のアルコールで独り口を湿らす日々。
プラムは心も体も限界だった。
(…め…ぞ…)
目の前の圧倒的威圧感を感じる得体の知れない青年の心が少しだが読めるようになった。
プラムは読心の魔術を強めた。
(…飲め…なるぞ…)
プラムはより集中し、青年の言葉を理解しようとする、そして…
(辛いならば飲め、楽になるぞ…)
青年は言葉を発さず、ただ巾着から何やら薄青色の液体の入った瓶を差し出し、菩薩のような穏やかな、深い哀しみも感じる薄い笑みを口元に浮かべていた。
プラムはその笑みを見て腰の剣へ伸ばそうとしていた手を翻し、思わず青年へ手を伸ばしていた。
そこには世界の隔たりなどなかった、哀しい男達の友情にも似た孤独な魂達の共鳴だけがそこにあった。
プラムは何の疑いもなく、それを受け取る。
「イタダキマス…」
プラムの口は勝手に動いていた、全く意味の分からない言語だが、食べ物や人に対し深い感謝を伝える言葉だということだけは頭ではなく心で判った気がした。
そして、瓶の中の液体を飲み込む。
瞬間、脳天を凍らされたかのような心地よい冷えが喉を通し、内臓までも潤していく。
なんだこの飲み物は!!
今までに感じたことのない酒精!
口の中で広がるさわやかな草原のような風味と苦味!
そして何よりも初めて感じる口の中で弾けるパチパチとした泡達!
そこの苦味や風味がそのままであればとても飲めたものではないだろう。
だが、それらを清涼感に転換し、潤してくれるのはこの泡と冷えのおかげであろう。
8連勤中のプラムの体には”凍結”のもたらしてくれる清涼感が神の恵みにも似た充足感を生み出していた。
「クゥー…!!!」
プラムは生まれて初めて喉を鳴らして酒を一息に飲み干し、身体の求めるままにその音を発した。
彼の目の前には青く生茂るオアシスが拡がり、その湖では絶世の美女達が泳いでいた。
プラムは迷うことなく湖へ駆け出し美女達と戯れる。
楽園だ、ここは楽園なのだ…
これまでの自分の日々はここに来る為の日々だったのだ…
「I feel it …」
現実世界のプラムは白眼を剥き、涙を流していた、所謂アヘ顔状態である。
プラムもまた低賃金労働者の中毒者(酒クズ)だったのだ、世界の隔たりなどはそこになく、青年は深くうなづきながらプラムが酒に浸る瞬間を見ていた。
しばらくの時が過ぎ去った後、二人の心は竹馬の友のように通じ合っていたが、プラムの深い感謝により絶対的主人と従者のように言葉を交わす。
「ありがとう…いや、ありがとうございました…なんと言ったらいいのか…こんなうまい酒は初めてでした…」
「(あれでうまい…?この世界の奴らの味覚は死んでいるのか?、まぁいい。)
飲みに行こう…名前は…?」
「プラム…プラムです…」
「プラム、そうか、行こう、プラム…」
「あ、あなたのお名前は!あなたのお名前は何と言われるのですか!」
「鳥井三郎、トリイ サブローだ」
「トリーサン!トリーサン!とお呼びしてよろしいですか!」
「好きに呼べばいい、それより酒場はどこだ」
「このまままっすぐ突き当たったところにギルド酒場ってのが!トリーサンのお口に合うかは分からないですが…」
「いい、今は酒が飲めればそれでいい…
あと、敬語はよしてくれ、少し堅苦しい…」
「お、おう!分かった!ただトリーサン呼びだけは続けさせてもらうぜ!!」
「好きに呼べばいいって言っただろ…」
二人は言葉を交わしながらギルド酒場へ足を進める。
-酒クズの仲間を1人増やし異世界での生活は続く、彼の異世界生活はまだ始まったばかり…




