ゾンビ王国6
(白夜、叫ぶ前に倒すよ)
(わかっています。マスター)
蘭丸と名のる男が去って、残された僕達は暫くその場を動けなかった。
どれだけの時間をそこで過ごしたかわからないが痛みに呻く亮さん、それを支える桜を連れて僕達は3階層の奥まで進んできた。
この階はかなり広くここまで来るのに2回の休息を挟んだ。
僕の目の先には下に下りる階段が見えるが、階段の背後の壁の穴から次々とゾンビが呻き声をあげながら這い出てきて今にいたる。
ア~とかウ~とか言いながら向かってくるゾンビを片っ端から白夜と桜を入れて3人で倒していく。
桜が参戦したのは兄の亮さんのためだ。
持ってきた回復薬で多少は痛みを押さえられたけど常時痛む姿を見て桜が少しでも早く進み兄を助けたいと参戦を申し出た。
今の段階では問題なく倒せるが大声を叫びながら来るやつは厄介だった。
どこでスイッチが入るのか不明だが大声で叫びだすとゾンビの集まるスピードが上がり、狂暴性が増すように感じる。
この声をだすのが次の段階へ到達したゾンビなのだろう。
このゾンビをレベル3とし、迫り来る奴等を倒していく。
「いい加減、打ち止めにしてもらいたい」
「全くですマスター」
「同意する」
お互いをフォローできるように離れずに戦っているんだが、穴から際限なく這い出てくる。
ちなみに亮さんは後方の安全な場所で身を隠している。
僕と白夜は拳で、桜はナイフを投げたり突き刺したりしている。
広範囲の魔法でも使えたらもっと楽になるのだが。
「マスターそろそろ終わりのようです」
すでに1時間は戦っている、両腕も重くなってきたところに希望の声を聞いた。
「ハアハア、しんどいです」
「そうだね。でももう打ち止めみたいだ。桜、気を抜かないでね」
ゾンビレベル3の後方を見ると穴から這い出てくるゾンビの姿が見えない。
白夜の言う通り先が見えてきた。
「これで………終わりだ」
最後のゾンビレベル3を殴り飛ばし戦闘が終わった。
さすがに疲れたのでその場に腰をおろす。
見渡す限り倒したゾンビが横たわっている。
臭いがしないだけましなのだが、こんな場所で休みたくはない。
だが我慢して休憩をとる。
「兄さん………」
桜が声をかけた方へと視線をやると青い顔をした亮さんが痛む右腕を押さえこちらに歩いてくる。
「クッ、すまない。世話をかける」
弱々しい声を発しながら亮さんは桜の手を借りて近くに腰を下ろす。
(マスター、自業自得です。サポートが勝手に飛び出して怪我をしたのですから必要以上に気にかける事もないかと………)
まぁ………そうなんだが、足手まといだからといって置いていくわけにもいかない。
一応二人に戻るか行くか聞いたら桜に助けて下さいと頭を下げられた。
亮さんにも連れていってほしいと頭を下げた。
僕自身、目をつけられたので向かうしかないので了承した。
(白夜の言うこともわかるよ。でも僕が目をつけられたのも事実だ、目の前で死なれない程度の世話はするべきだと思う)
(………わかりました。マスターの望のままに)
軽い食事と暖をとるために火をおこしていた桜が沸騰したお湯からお茶をいれて皆に配る。
白夜とは心話で会話をしていた為に聞かれる心配はなかったので笑顔でお茶を受け取った。
「私はまだ戦える」
温かいお茶で落ち着いた雰囲気のところ、桜が神妙な顔で言う。
まさか先程の心話の内容が………とも思ったがそんなわけがない。
「どうしたの?」
「怖い顔をして火を見つめていたから、私が足手まといだから迷っていたのかと………」
白夜との心話をしていたときジッと火を見つめていた。
その時の事を言っているのだろう。
それにしても僕はそんなに怖い顔をして火を見つめていたのかとおもうと反省しなければと思う。
「いや、桜の戦いに文句はないよ。いい腕をしていると思っているし、精霊の守護がないのに凄いと思うよ」
精霊がいなければレベルなんてチートぽい力の上昇は普通ない。
生身であれだけ動けるならある程度は身を守れると思う。
「置いていかない?」
「ああ、約束するよ」
「そう………良かった」
僕の言葉に安心したのか桜の顔に笑みが浮かぶ。
白夜は何か言いたそうだったが僕の隣で黙していた。
「ウッ」
「兄さん」
痛みに顔をしかめる亮さんに桜が側に行き痛み止め変わりの回復薬を飲ませる。
「ウッ………………ありがとう桜。だいぶ落ち着いたよ」
痛みだす間隔が短くなっている。
回復薬異常摂取の影響だろうか?
どんな原理で傷口が塞がっているのかわからなかったので痛みが引くまで飲ませたのが原因だろう。
残りの回復薬も残り少なくなっている。
急いで4階層を抜ける必要がでてきたが、ここまで来るのに時間がかかりすぎた。
たぶん、もたないだろう。
その時は………………。
時間がないことは全員が一致しているので、さっそく4階層に下りる。
なぜか下に行くほどダンジョン内が明るくなる。
この階からダンジョン内に
変化があった。
いままで自然の洞窟のような感じだったのが綺麗に整備されたような構造にかわっていた。
幅が広くなり平に整備された道、不自然に整えられた壁。
だが天井までは手がまわらなかったのかゴツゴツとした岩や土がむき出しになっていた。
そしてもう1つ、階下に下りると目にはいったのが目の前にある扉だ。
「罠は無い。開ける?」
僕と白夜に仕掛けてある罠を見破るスキルはない。
と、いうよりゾンビしかいないダンジョンで罠なんて想像していなかった。
ゾンビキングがいるかもとは聞いたが戦闘力が高いゾンビでいても探す気もなかったし戦う気もなかった。
ほどほどにレベルを上げて帰るつもりでいたのに、全くもって予定通りとはいかないものだ。
レベルにしても白夜が7に上がり、僕は1つ上がって6だ。
あれだけ倒してこれしか上がらないとは徒労しか残らないよ。
だから4階層に下りて目の前にある扉を見て迷いに迷った。
意を決して扉を開けようとすると桜が僕の手を掴みそれを止めた。
「私に任せて」
僕を後ろに下がらせて桜が扉の鍵穴へとなにかをしている。
神経を集中して作業をしているので声をかけることもできずにいると。
「心配はいらない。桜は戦闘では力不足な感があるけど罠発見と解除に才がある。役にはたたない能力だと思っていたけど役に立って良かったよ」
亮さんの姿から桜に対する信頼が見えた。
作業が終わって安全が確認できたところに白夜が桜の前にと進む。
「それは私の役目です。桜は下がってください」
慎重に扉を開ける白夜。
「!」
何を見たのか素早く扉を閉める白夜。
「マスター!」
「どうしたの?」
「居ます!」
「?………なにが?」
「ゾンビです。目があいました!」
「は?目があったの………それでゾンビは何体いたの?」
「変な鎧を着た奴が1体です」
1体だけ?
それにしては白夜の驚きようが異常だ。
それに扉からそれが出てくる気配もない、白夜に気づいたのなら襲って来てもいいはずなに?
「今度は僕が見るよ。皆は下がっていて」
なにがあってもいいように亮さんを後方へと下がらせてから慎重に扉を開ける。
目の前にいることも考えて身構えるが扉の隙間からは見えない。
恐る恐る顔だけ中にいれて部屋を見ると明るい部屋の中で確かにゾンビがこちらを見つめている。
僕とゾンビが見つめあう。
「遅いぞ!まったく。待ちくたびれたわ!」
いきなり怒鳴られてビク!としてしまった。
確かに白夜の言う通り、強面のゾンビが1体椅子に座ってこちらを見ている。
しかも変な鎧?
いやアレはドラム缶だと思う。
素足の下半身を露出し、上半身は顔と手だけをドラム缶から出している変態おじさんゾンビだ。
「いきなりは襲わないから部屋に入ってこい。我は王より力試しを任された五郎と申す」
う~ん………………。
確かにあの肌と精気のない顔に白濁した瞳を見ればゾンビとわかるが、この段階で言葉にだけではなく知性まである変態ゾンビと出会うのは予想外だ。
「えっと、お邪魔します」
いつまでも待たせると更に怒らせそうなのでいそいそと部屋の中に全員で入った。
「それで、力試しと言ったけどどうすれば?」
部屋はかなり広く20畳くらいある。
ガランとした殺風景な部屋の真ん中にゾンビの五郎さんがいて、3メートルほど離れて僕達が横に並んで向かい合う。
「言った通りに王命によりお前達の力を見たい。全員でもいいし、1対1でも良い好きな方を選べ」
「王?その言い方だと国があるように聞こえるんだが?」
「あるぞ。この下に俺達の国が存在する。第六天魔王様が支配する国がな、俺はその兵士だ」
「え~!!!」
驚いた。
まさかゾンビが国を造っているなんて。
この目の前のゾンビがその国の兵士だという。
下の階層に行くにつれて段々と人間ぽくなっていくなとは思っていたけど国を造るまでになっているとは………………。
「おい!呆けてないで誰が戦うかハッキリとしろ!」
ハッ!
ゾンビの五郎の大声で我にかえる。
僕達は顔を見合わして相談することにした。
「済みません。いま決めますんで相談させて下さい」
「おう。早くしろよ」
了解を得たので亮さんを連れて後ろの方へと向かう。
戦うにしても後方の安全な場所にいた方がいいからだ。
その理論で桜も亮さんの護衛として残ってもらった。
戦いの最中になにが起こるかわからないからだ。
「………わかった。お願い」
納得したとはいえない表情だが、兄である亮さんを守るためだと聞けば反論しずらい。
これで桜は良いとして残るは白夜だが、こっちは絶対に一緒に戦うと言って僕の右腕を両腕で抱え込み離れない。
「私はマスターと共に戦います」
と、力強い視線を僕に向けている。
「わかったよ。頼むよ白夜」
さすがにいつまでも待たせるわけにもいかないので白夜の力を借りることにする。
「お待たせしました。僕と白夜が相手をします」
「そうか、死んでも恨むなよ。ちっこいの」
「ちっこくありません!普通です。あなたがデカイのです」
どっこいしょと立ち上がった五郎さんは大柄のゾンビだった。
僕が172㎝ぐらいだから頭2つ分高い五郎さんは180㎝はあるだろう。
「さて、力試しだが俺の膝を地面に着ければ良しとしよう。王の命だから本気で行くぞ」
ドラム缶を着た五郎さんが身構える。
とても動きにくそうだなと思ったが身構える雰囲気が尋常ではない。
ハッキリと言ってダメだろうこれはレベルが違いすぎる。
それでも頭の中でムクムクと、どう倒そうかと考えている自分がいる。
さて、本当にどう倒そうか?




