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ゾンビ王国1

目を覚ますと光る天上が見えた。

金色に輝く優しい光。

子供の頃にも見た覚えがある。その事を氷依(ひより)に話したこともあったが。


「夢よ夢!忘れなさい!」


………と、この一言で終わった。

それが今、僕の目の前に広がっている。


「綺麗だ」


金色に輝くそれを手で触れてみる。

膜のような感じで広がっている金色の光はなんの抵抗もなく突き破り僕の手が光っているように見える。


「マスター!」


光の向こうから白夜の声が声がする。


「白夜?」


「はい!目が覚めたんですね。今そこから出しますから」


金色に輝く光の向こうから細い手が2本伸びてくる。

それが僕が伸ばしている右手を両手でつかみ引っ張る。


手を引っ張られ体を起こすとやはり抵抗なく体は光を通り外にでると見慣れた光景が白夜の背後に見えた。


「ここは繭?」


そう、亜弥音の揺りかごに僕は入っていた。

何故?と思い出そうとしても記憶にない。


「マスターは重傷だったんですよ。隼人の馬鹿が調子に乗って………殺してやろうかと思いましたよ。倒れたマスターを私が!私が背負ってこの場所までお連れしたのです!」


誉めて誉めてと笑顔で僕に迫る白夜にお礼を言って上半身だけ揺りかごからでている体勢から外に出ようとしたとき。


「あっ!マスター、待って待って下さい!」


「えっ?」


揺りかごから立ち上がった僕を見て白夜が慌てて止めにはいる。

あたふたと忙しく手を動かす白夜の視線は僕の下半身に集中している。あまりの食いつきに自分の下半身に目をやると………。


「なっ!なんで裸なの!」


僕はすぐさま揺りかごの中に隠れる。


「………可愛い」


「えっ?」


「え?………済みません!す、直ぐに着替えを持ってきますね」


………白夜に見られた事より、その後の可愛い発言に僕の心はへし折れた。


(まだ15歳なんだからしょうがないじゃないか………って落ち込むなよ僕、これからさ)


そうやって気分を上げていると白夜が戻ってきた。


「マスター!お待たせです。これを着て下さい」


白夜から渡された下着と服を揺りかごの中で着替えて外に出た。


よく見るとまだ耳の辺りが赤くなっている白夜と並んで通路を歩く。

目覚めたら五堂先生が話があるので来てほしいと言われていると白夜が言うので向かっている。


行きながら話を聞くとあれからまる2日たっているらしい。

どうりで腹がすごく減っていと感じるわけだ。

歩くたびにお腹が鳴り少し恥ずかしさを感じていた。


「これをどうぞマスター」


それをみかねてか白夜から差し出された温かい紙の包みを受けとる。


「これはオニギリ」


「はい。具なしで申し訳ないのですが急いで作ってきました………どうですか?」


包みを開けてみると大きめのオニギリが二個入っていた。

海苔なしのオニギリを口に入れる。


「………うん。美味しいよ。ありがとう白夜」


「いえ!当然のことですから!」


心配そうに見ていた白夜の顔が笑顔になった。

少し塩味が強いがそれがいい塩梅に感じた。

オニギリを食べ終え、水を貰い一息つく。


今、先生は何処にいるのかと白夜にたずねると自室にいるので来てほしいとのことなので其処に向かう。

地下四階から居住区のある地下三階に上がる。


先生の所に向かって歩いていると幾人かの人とすれ違う。

そんな中で女性の視線がすごく熱いような変な感じがした。


中にはあからさまに誘惑するような事はなかったが、やたらと体を触れる人もいた。


「ちょっと、マスターに触れるな!」


白夜がいなければちょっと危なかったかもしれない。

初めて別の意味で身に危険を感じた日だ。

それにしても白夜の感情表現が豊かになっているのは気のせいではないよな。


口調も砕けて見た目通りの少女のような感じがする。

進化するとここまで変わるのかと割りとどうでもいいような事を考えながら歩いていると先生の部屋の前に着いた。


「マスター、ここらしいですよ。ですが気を付けて下さい。ここの女は何処か変です!」


ここに来るまでの異様な程興奮している女性達を見て白夜が警戒心を強めている。


「まさか、先生は人妻だよ。白夜が警戒するほどのこともないさ」


「ですが………………わかりましたマスター。ですが私が先に入ります」


ドアの横についているチャイムを鳴らす。数秒で先生が出てきた。まるで来る時間がわかっていたかのような素早さだ。


「来たか直斗、入ってくれ。隼人はいないから気楽にな」


宣言どおり白夜が先頭で部屋の中に入る。

勧められるままに椅子に座った。

8畳程もある広い部屋だ。

ここで隼人さんと食事をしたりしているのだろう奥にキッチンがみえる。

部屋の中央に白く長いテーブルに椅子が6脚ある。


僕の隣に白夜が、テーブルを挟んで向かい合う形で先生が座る。

テーブルの上には人数分のお茶とお菓子が用意されていた。


「それで話とはなんですか?」


お茶で喉を潤しつつ先生に聞く。


「ああ、隼人に聞いたが中々の腕みたいだな。揺りかごから出て直ぐに戦闘に順応するとは見事だ。普通は心と体が別の生き物みたいになって行動を阻害するのだが直斗は適応が早い。しかも隼人を負かすオマケ付きとは恐れ入る」


「いえ、隼人さんも手加減していましたから」


「だが、最後は殴りあいで負かしたのだろう?やはり大したものだよ直斗。これなら次の段階にいっても良いと思って呼んだんだ」


「次の段階ですか?」


口調は面白がるような感じだが、先生の目は真剣だ。

それほどまでに重大な話なのだろうか?


「そうだ。本来なら先ずは体を慣らしてからが普通なんだが、直斗はそれの必要がないようだ。だから次に行ってもらう。それはレベル上げだ」


「レベル上げ?ここで上げる事ができるのですか?」


「ああ、もちろん可能だ。どこまで上がるかは直斗達次第だがな」


そう言うと先生は席を立ち部屋にある棚から鍵を取り出して持ってきた。


「それは?」


「秘密の部屋の鍵だ」


目の高さまで持ち上げてニヤリと笑う。


「秘密の部屋?ですか。そこでレベルを上げれと?」


「そうだ。白夜と共に潜りレベルを上げて戻ってこい」


先生はそう言うと僕の前に鍵を置く。


「マスターの身に危険はあるのですか?」


それまで黙ってお菓子やお茶を楽しんでいた白夜が先生に聞いた。


「当たり前だ。死の危険は常につきまとう。それはここでも同じだ。絶対に安全な場所などもう存在しない、一歩でも間違えは死だ油断はするなよ直斗と白夜」


本気で言っているのが伝わり僕と白夜は揃って頷いた。


「それでその部屋には何がいるのですか?」


これは聞いとかないといけない。

行くのが確定なら準備は万全にしたいからだ。


「そうだな、部屋というかダンジョンになってる。最下層の訓練施設の先に開かず部屋があるのだが、そこから隠しダンジョンに行ける。そこには死人(ゾンビ)が大量にいるからそれを倒してこい」


「ゾンビですか?なぜ放置しているんですか?」


なぜ大量のゾンビがいるのかは謎だが先生達なら供養ではないが全て倒せるはずだ……と思う。

そんな疑問に先生が答える。


「不思議だろう直斗。私達も努力はしたさ、だが倒しても倒しても湧き出てくる始末でな、どうも冥竜王ヴァルサスのせいらしい。奴は死者を操る能力があるらしい。そのことに気づいたから部屋を封印するしかなかった」


悔しそうな表情をする先生になにも言えなかった。

本当なら静かに眠らせてやりたいのは先生も同じなのだろう、その表情でよくわかった。


「………わかりました。倒せばいいんですね?でもどれだけ倒せばいいんですか?」


大量にいるというゾンビ、さすがに全部を倒してこいとは言うまい。

白夜と二人で固唾を飲んで先生の言葉を待っていると。


「好きなだけ倒してくるといいさ。沸いて出るほどいる。それと無理はするなよ?亜弥音の加護が届かない天然のダンジョンだ、帰りも歩きだから程ほどにな。あと未確認だが、最下層にはゾンビキングがいるらしいぞ」


本当か嘘かわからない微妙な表情を見せる先生。


「ゾンビキングですか………強いのですか?」


「さあな、私達も見た者も戦った者もいないから判断がつかん」


誰も見たものがいないのに何故ゾンビキングがいる話になるのだろうと首を傾げる。


「不思議か。まあ、そうだろうな。私も死人(ゾンビ)から話を聞いただけだからな」


「???」


「からかっているのですか茜」


意味がわからない僕と先生にからかわれた思った白夜が剣呑な雰囲気を醸し出す。


「落ち着け白夜、からかってなどおらんよ。私達が確認したゾンビ達には強さの基準があるようでな、最弱が音だけに反応する奴、次に臭い、視覚までは確認したその上に思考力まであり会話ができるゾンビがいた。私達も偶然穴に落ちている奴を見つけて止めをさそうとした時に此方に話しかけたゾンビがいてそいつが言っていたんだ、俺達を統べる王がいるとな」


真剣な顔で話す先生を見てそれが嘘ではないと思った。

白夜からも剣呑な雰囲気が消えているところから先生の話を信じたのだろう。


「わかりました。気をつけます先生」


真面目な顔で頷く僕を見て真剣な表情を崩す先生。


「きりの良いところで帰ってこい直斗、無理はするなよ?お前はここの女達の希望なのだからな」


「へ?」


最後に先生が変な事を口走る。

ここの女性達の希望?どう意味だろうか嫌な予感がする。


「わからないか?バレるのも時間の問題だから言っておこう。ここに住む者達の血は濃くなりすぎたのだ。その弊害も昔から多くでていてな、私達には直斗の新しい血が必要なんだよ」

こちらの方がゾンビキングの話より重要なのだろう真剣さが2倍増しに見える。

隣の白夜も攻撃的気配が増している。


「マスター!、マスターの体は白夜が守ります!」


「それは無理だぞ白夜、こちらは種の存続がかかっている。女の欲望を甘く見るなよ」


睨みあう二人、それこそ冗談かと思ったがどうやら本気のようだ。

あの女性達の目は獲物を見定める目だったかと思うと身がブルっと震える。

僕が襲われる危険があるのは理解したが1つ気になる事ができた。


「先生………新しい血と言いましたが僕はここに住む人の血をひいていないのですか?」


「そうだ。お前の両親は不明だ。直斗は赤子の時に転送陣の上にいつの間にかいたんだ。それを私達が保護して検査をした結果、直斗は日本人の血をひいているのを確認した。なので両親の事を聞かれても我々ではわからない、済まんな」


「いえ、教えてくれてありがとうございます先生」


心配そうに見る先生に頭を下げる。

卑弥呼の世界の家で見た画面越しの両親は偽者だったのかと半ば納得した。

物心ついた時から僕の両親と思っていた存在は霞のようにぼやけ画面の向こうから話しかけていた。


真実は呆気なく単純だった。

僕の両親はその存在すらわからなかったのだ。

その時、ふと卑弥呼ならなにかを知っているのではと脳裏に過るが、その考えをすてる。


(卑弥呼がこの場所を知っているはずがない。僕の両親の事は………一先ず忘れよう)


押し黙ったままの僕を気遣ってか先生も白夜も話しかけてはこなかった。


「先生、行きます。どうすればいいですか?」


雰囲気が変わったのを察して先生の表情が和らぐ。


「最下層にいる隼人の所へ行け、ゾンビの所へ行く準備をしているから話を聞くといい。気を付けてな直斗」


椅子から立ち上がりハイと返事をして白夜と共に先生の部屋を後にした。


亜弥音の加護により使用できるようになった亜弥音洞のエレベーターを使い最下層まで降りる。

地下二階から最下層まで通じる便利な乗り物だ。

地上まで行きたい場合は亜弥音の本体の中を通る道しかないとミナホが言っていた。

ふと横を見ると隣の白夜の雰囲気が重い。


「白夜、どうかした?」


声をかけた僕の顔を真剣な表情で見つめた白夜が腰に手を回し抱きついてきた。


「?」


「マスター、白夜はずっと一緒です」


心の中が一瞬温かく感じた。

僕はなにも言わずに最下層に着くまで白夜の頭を撫でてやった。

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