戦いかたなんて変わらない
僕は亜弥音洞の地下6階の訓練所にいる。テニスコート2面程の広さで壁は平らにならされ、地面には柔らかい砂が敷き詰められている。
あの会議場の隅で最後は寝たふりをしていた隼人さんは先生に二日酔いを治すためだと言われ、無理やり水を胃に流し込まれ先生とトイレの間を行ったり来たりさせられていた。
とても治療しているとは見えないず拷問のような気がしたが、先生は笑みを浮かべて僕に言った。
「直斗、この馬鹿は昼過ぎには快復させる。午後1時になったら地下6階の訓練所に来い」
「はい!わかりました!」
おもわず敬礼をして白夜とミナホと共にその場を離れた。
背後から聞こえる隼人さんの苦しそうな声は無視して。
「ふう、死ぬかと思った。君も案外薄情だね直斗くん」
「いえ、夫婦間の問題ですので遠慮しました」
今僕は訓練所にて円形の線が書いてある中央にて隼人さんと向かい合う形で対峙している。
隼人さんは盾と剣だけを身につけ、防具はなくシャツとズボンだけという軽装だ。
対する僕は動きやすい革の防具の上下と盾と剣を持たされた。
「あの、今更ですが僕は剣も盾も使ったことがないんてすが」
「ハァ!お前さんどうやって狩人をやっていた?魔法の方が得意なのか?」
予想外なのかビックリさせてしまったが、素直に素手ですと告白するとあきれた顔をされてしまった。
「おいおい、そんな細腕で魔物と殺りあっていたのか?なら丁度いいから剣を覚えろ」
「何を言っている隼人!マスターの戦闘スタイルはあれで完成されていると言っても過言ではないのだぞ!」
僕の後で見学をしている白夜が隼人さんに噛みついた。ちなみに訓練所には僕たちしか居ない。ミナホも途中で別れこの場所にはいない。
「アホか、たとえ剣がダメでも他にも武器はある。今は生身だぞ、あの卑弥呼が創造した世界のようにいくか!現実世界でも素手なんて死にに行くようなもんだバカめ」
「ぐっっっ!」
悔しそうに歯噛みをする白夜を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる隼人さん。
僕はそんな二人を無視して与えられた剣を軽く振ってみる。
剣といっても訓練なので木剣を今回は使用している。
刃の部分にだけ鉄を張り付けそれなりの重量はあるが。
ちなみに盾も木の盾だ。
「あの、そろそろ始めませんか?」
軽く振ってみて以外と楽に振れた。
これなら少しは使えるかもしれない。
「ん、そうだなやるか。俺は防御だけするから好きに打ち込んでこい!」
それに頷いて構えている隼人さんに向かい木剣を振り上げる。
ガン!ボキ!
勢いよく振りおろし木剣を隼人さんは盾で受け止める。その瞬間、僕が握っていた部分から木剣が折れた。
「あっ!」
折れた木剣は横に飛び砂の上に落ちる。
「ん?不良品だったか?済まんな直斗。いま新しいものを持ってきてやる」
僕に背を向けて隼人さんは訓練所の壁に取り付けられている新しい木剣を取りに行った。
その間に折れた木剣を拾い処分しますと寄ってきた白夜に渡す。
「よし、こいつは新品同然に手入れをしているから安心して使え直斗」
「はい、ありがとうございます」
木剣を受け取り再び構える。
隼人さんの目の合図で先程と同じく木剣を振りおろした。
ガギ!ボキン!
「あっ!」
再び同じ光景が目の前で起きた。
握り部分から折れた木剣が今度は僕の真横を通り下に落ちる。
「………………」
流石に二度目となると偶然ではないと悟った隼人さんは無言で背を向けると再び武器を取りに行く。
取り残された僕は白夜が折れた木剣を拾い片付けるのを黙って見ていた。
「直斗、これなら折れんだろう。躊躇せずに遠慮なく来い!」
隼人さんに渡されたのは本物の剣だった。
ずしりした重みにキラリと光る刃。
あの異世界でさんざん見た鉄製の剣だが、手に持つと流石に緊張する。
「………これを使うのですか?」
「ああ、なんの冗談だかしらんが木剣では駄目らしいからな」
だから遠慮せずに来いと構える隼人さんの気迫溢れる姿を見て僕は鉄剣を構え隼人さんに打ち込むため前えと出る。
ガキン!
(おっ?)
ただ振りおろしただけの鉄剣は折れずに隼人さんの構える盾に防がれる。
「良し!今度は大丈夫だな。直斗、続けてこい!」
安心したような笑顔を向ける隼人さんには悪いが何処か違和感が僕の手に残っている。
何処がとはハッキリと言えないが盾に打ち込んだ瞬間に僅かだがなにかが抜けた気がした。
その正体がわからないまま僕は隼人さんに促されるまま鉄剣を打ち込む。
ガキン!ガキン!ガキン!
ボキ!
続けざま3合を打ちこんだ瞬間だった。
三度、鉄剣が僕の目の前で折れた。
「うわ!」
折れた鉄剣が僕の目の前に飛んできたのを慌てて避ける。
「マスター!ご無事ですか?」
離れて見ていた白夜が慌てて僕の側に来た。
「ああ、当たってない。大丈夫だよ、怪我はしていなから」
僕の体を恐る恐る触りながら心配そうに見つめる白夜を安心されるために笑顔で答える。
「な、なんでだ?」
頭上から次々と折れる剣を前にして首を傾げている隼人さんの声がきこえた。
見れば瞳も大きく開き動揺している。
「な、直斗。すまん、この武器を使ってみてくれないか」
差し出された両手持ちの鉄のメイスを受けとる。
あまりにも剣が折れるので、絶対に折れることのないも物を持ってきたようだ。
メイスを持つのに邪魔な盾を白夜に預けて訓練を再開する。
ズッシリと重いメイスを構え力任せに隼人さんの構える盾に打撃した。
ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!
バギィン!
「あっ!」
もはや言うことがない。
絶対に折れないと渡された武器が目の前で折れた。
隼人さんは髪をかきむしり苦い表情をしている。
僕は手元近くで折れたメイスをぼーぜんと見つめる。
「マスター、それを」
ガラクタとなったメイスを近づいてきた白夜に渡す。
「どういうことだ?何故折れる???」
疑問に満ちた呟きに白夜が答える。
「それはだぶんマスターのスキルのせいでしょう」
「ん、どういうことだ白夜?」
「まだ名はありませんがマスターの持つスキルには打撃の強さによって衝撃波のようなものを飛ばします。それが剣を折る原因でしょう」
「な…に、じゃあ持ち手の部分から折れるのはそれが原因か………。だとすると剣を使わなかったのも頷ける………」
隼人さんがその場で考え込んでしまったので、僕は壁際に飾られている各種の武器を白夜と見て回る。
一通りの武器が壁に飾られているが、訓練用なので刃の部分は潰して斬れないようにしてあった。
「マスター、剣はダメっぽいですけどこの弓とかはどうです?」
白夜に言われ壁に飾れている弓に視線を向けるが僕は首を横に振る。
「使った事はあるけど僕には才能が無かったよ。あの世界での事が事実なら僕は味方に当てる自信がある」
自信満々に言う僕を白夜は何て言ったらいいのかと微妙な表情で見つめる。
いつもは肯定的な白夜でも反応に困ったようだ。
だがそれが事実なのだから仕方がない。
僕に武器の扱い方を教えてくれた花さんが絶対に弓は使用してはいけませんと本気で頼んだほどだ。
結局、どの武器も使えなくて素手での格闘がメインになってしまったけど、彼女達は今頃どうしているだろうか。
「………直斗」
「マスター、隼人が呼んでますよ」
えっ?
クイクイと服の裾を白夜に引かれて気づく。
「なんですか?」
呼ばれたのに気づき振り向くと渋い表情の隼人さんが僕を見ている。
「このままでは訓練にならん。仕方がないから素手でこい」
盾と剣をその場に捨てた隼人さんは素手でのみとなり構える。
左足を前に両拳を胸の前に上げて僕を睨み付ける。
「来い!」
壁際から隼人さんまで五メートル、その声に反応して僕は前に出た。
武器を持っていないせいか思っていた以上に体が軽い。
これなら行けるかとおもい両腕でガードをする隼人さんの腕に拳を叩きつける。
流石は筋肉の固まり、全力で殴り付けてもダメージを与えられないのが伝わる。
それに微かだが自身の動きがイメージと違うのを感じた。
左右に体を振り隼人さんに的を絞らせないように拳を叩きつけるが、上手くいかない。
相変わらず防御のみに専念をする隼人さんの表情には余裕がみえる。
「どうした?こんなものかよ」
お互い顔がつきそうなほどの接近戦、余計な間をとらずに体さばきのみで打ち付ける。
隼人さんの顔にはいまだに余裕の表情があり、僕はどんな顔をしているどうだろうか?
隼人さんと同じく笑っているだろうか、それとも苦しそうな表情をしているだろうか?
………おそらく後者だろう。
とにかく体が重く前にでない。
無理に体を動かしているような感覚がする。
「ゴフッ!」
腹部に強烈な痛みが走る。
見れば隼人さんの右拳が僕の腹に突き刺さっていた。
続いて動きの止まった僕の顔面を隼人さんの左拳がめり込み後方に飛ばされた。
「どうした、隙だらけだぞ。いつまでも防御だけとはおもうな直斗」
ズキズキと痛む腹と顔。
口端が切れ喉の奥からも込み上げる異物感。
それをなんとか押さえ込み口端を拭う。
久しく感じなかった血の味と痛み。
(ああ、これだ。この感覚が懐かしい)
ゆっくりと体を起こし立ち上がる。
隼人さんは追撃をせずにジッと見つめ立ち上がるのを待っている。
「マスター!」
心配そう表情で声をかける白夜に軽く手を上げ隼人さんと向き合う。
「まだいけるか?」
それに頷き僕は駆け出した。
交差する拳、イメージ通りに動く体。
顔は腫れ視界が歪むが僕は心の底から歓喜が沸き上がるのを押さえられない。
「………なにを笑っている」
かなりのダメージを与えているのに倒れない僕に隼人さんが問う。
(そうか………笑っているのか………)
もう顔も口の中も血だらけだがそれすら楽しい。
5発に1発打ち込んだ拳が今は3発に1発は打ち込めるようまでなった。
まだまだ隼人さんの顔面は狙えないがボディには当たる。
鍛え上げられた隼人さんの肉体は硬い。
僕の攻撃は無力と判断したのか隼人さんは攻撃に専念しだした。
「ハアハア………なんだ………息切れだと?」
何度となく僕を地面に叩きつけた隼人さんが肩で息をしながら呟く。
血まみれ砂まみれの顔、ダメージが重くのしかかる体を起こし僕は立ち上がる。
(やっと効いたか)
現在、レベル1の僕がどれだけ隼人さんに接近して攻撃を当てられるかが勝負だった。
体はボロボロだが隼人さんの筋肉を抜けて内蔵にダメージを与えることに成功したようだ。
使い勝手が良いのか悪いのか考えものだがこの戦いかたしか知らない。
腫れた瞼で隼人さんを見つめる。
荒く息を吐き動きも悪いように感じる。
いずれにせよ次が最後だ。
僕の体も限界が近い、最後に隼人さんの顔面に拳をぶちこみ脳を揺らす。
お互い睨み合うなかで僕は両拳を強く握りしめて隼人さんに向かっていった。
「「オオー!」」
雄叫びを上げる二人、突っ込む僕に前蹴りを放つ隼人さん。
その蹴り真下に滑り込むようにかわし隼人さんの背後に回り込む。
「もらった!」
背後からの攻撃に素早く振り向いた隼人さんの顔面に向けて右拳を放つ。
「うおー!」
回避できないと判断したのか、右拳に向けて隼人さんは不安定な体勢から頭突きをしてきた。
ゴン!
鈍い音が訓練所に響く。
僕の右拳が砕ける音、皮膚が裂け血が吹き出る。
隼人さんはニヤリと笑い拳を振り上げた。
動かない体のまま僕は黙ってそれを見つめる。
(………よくやった方か)
やけに遅く感じる、僕はくるであろう攻撃に覚悟を決めた。
「あっ?」
ドサ!
間の抜けた声をだし隼人さんが倒れた。
「えっ?」
「マスター!」
背後から強くて抱き締められた。
「………白夜?」
「マスターの勝ちです!流石です」
喜びと哀しみが混じったような声を聞いて僕は地面に崩れ落ちると意識を失った。




