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亀テント

のんびりと寛いでいた双頭樋熊はいきなり殺気を向けられて、訝しげにその方向を見る。


ちっさいのとでっかいのがこちらに向かって来るのを確認した。

また来たのか?と左のと顔を見合わせるとニヤリと笑う。

餌が向こうから来たのだと。


直斗はゆっくりと立ち上がる双頭樋熊を走りながら見つめる、距離があったので奇襲は無理だと諦めていたので想定内だ。


(白夜、絶対止まるなよ)


(もちろんです、マスター。まだ力では圧倒できませ)


直斗は笑いそうになり、慌てて気を引き締めた。

白夜の言いようが時が経てばあの双頭樋熊を力で圧倒できると言っているようで。


(………………冗談だよね?)


それが本当に冗談だと確信できないことが、白夜の力を直斗が認めている証だった。


いつもは大森林の奥の方にいる双頭樋熊がここにいるのには理由がある。

いつものように餌を求めて大森林を歩いていると、小物の魔物達がある方向へと向かっているのを見かけた。


興味がでて、追いかけていくと知らず知らずにいつもより前の方へと出てしまった。

小物の魔物の姿が見えなくなり戻ろうとした時に、肉の焼ける美味しそうな匂いが鼻につく。


その匂いに誘われてフラフラと歩いていると肉の匂いがしなくなってしまった。

どうにかして見つけられないかと、さ迷い歩いてここで休憩をしていたのだ。


直斗は双頭樋熊が、こちらに気づいているのにもかかわらずに余り、警戒心を出していない事に驚く。

攻撃体勢をとってはいるが、敵意があまり感じられない。


(敵とは認識していない?)


(いいえ、マスター。油断は禁物です、あれ位になると一瞬で襲ってきますよ)


白夜の言葉で直斗は油断はしまいと強く誓う。

相手はデカイ熊だ、水牙大蛇と同クラスなら危険な相手で間違いないのだから。


直斗達が接近しても双頭樋熊は襲ってこない、四つ足を地面に着いている為に顔の位置が低いので、直斗は試しに右拳で右の顔を殴った。


その時に風が通りすぎた、直斗の左頬にうっすらと血が滲む。


「マスター!」


白夜の叫びで直斗は後方に飛んだ。

直斗のいた場所に双頭樋熊の左前足が叩きつけられる。


ズシン!


と地面が震えるとのっそりと双頭樋熊が歩きだした。


「マスター、注意を。頭を1つ攻撃しても、もう1つが直ぐに判断して攻撃をしてきます」


ゆっくりと近づいてくる双頭樋熊の様子を直斗は見つめる。

確かに白夜の言う通り、右の顔は直斗の攻撃でダメージを受けたらしく首を振っていて、攻撃をした雰囲気ではない。


ならと直斗は左の顔の奴を見ると直斗に向けて牙を剥いて威嚇している。


直斗は白夜に視線を送り、頷く白夜。二人は双頭樋熊に同時に攻撃を仕掛けた。


シンメトリー、左右対称の動きをする直斗と白夜。

二人は左右から同じタイミングと同じ場所に攻撃をして引く、まったく乱れないその攻撃を魅沙と花は感嘆の思いで見つめる。


(すごいです直斗さんと白夜さん)


(羨ましい、私も白夜さんほど直斗様を理解できれば………)


そんな二人の事など目に入らないほど、双頭樋熊は困惑していた。

人間のそれもちっこい方の攻撃もおっきい方と同じぐらい体の芯に響く。


武器も持っていない人間の攻撃なんて効かんと甘くみていた。

一番怖いのは魔法の力だと双頭樋熊は考えていた、左の奴も使うがそれがあって今まで生き延びてきたのだ。


それなのに目の前の人間は拳で自分にダメージを与えている、双頭樋熊は怒りに震えると左の顔が吠えた。


直斗は左の顔が吠えたと思ったら、双頭樋熊の体が薄光りしたと思ったら衝撃波が双頭樋熊を中心に放たれる。

直斗と白夜は回避できずに後方にふっ飛ばされた。


それを見て、花が二人を風の魔法で包み支える。

魅沙はすぐに駆け寄って回復魔法を二人に使った。

体に傷はないが、衝撃波をもろに食らった為に軽い脳震盪みたいになったが魅沙のおかげで回復できた。


「直斗さん、大丈夫ですか?」


「え、ええ。ありがとう魅沙さん」


軽く頭を振って状態を確かめる直斗と白夜。

異常が無いこと確認して立ち上がると双頭樋熊を睨む。


「白夜、後どのくらい?」


「………後、7分です」


「わかった、あの攻撃は?」


「次は発動前に潰せます。マスター、合図をしたら奴の耳の裏に攻撃を」


わかった。と返事をしようとしたとき、双頭樋熊が直斗達に向かって突進してきた。


「全員!回避!」


直斗の言葉に四人はバラバラに散らばる。

双頭樋熊は勢いをそのままに直斗の前を通過して、その先の木をへし折り止まる。


のそりと、双頭樋熊が直斗に振り向く。

直斗と白夜は双頭樋熊が止まった隙に前へと出た。


先ほどの同じ事の繰り返しかと思ったが、拳に伝わる感触がおかしい?

直斗と白夜は双頭樋熊に攻撃を当てている、しかし双頭樋熊の体を殴りつけても肉体を打っている感触は薄く、拳と双頭樋熊の体の間に空気の層があるみたいに感じられた。


(その程度か?)


直斗は薄く笑い、攻撃を続けた。

目の前の人間の攻撃を封じたと思った双頭樋熊は状況がまったく変わっていない事に驚く。


先程の攻撃も突進力がいつもより無く、肉体へのダメージがおもいのほか効いていると感じた。


なんだこの人間は?と、双頭樋熊の右顔の方が恐慌状態に陥り、右腕をただ振り回す。


直斗と白夜はいったん距離をとる。

意味の無い攻撃をする右顔を見て、左顔は苦い表情をつくる。

攻撃をしていた人間が引いたのを見て、左顔は魔力を貯めると口からブレスを吐き辺りを凪ぎ払った。


「シールド!」


「風壁!」


直斗達を囲むように魅沙と花が防御壁を形成して、双頭樋熊のブレスを防ぐ。

花の風壁が双頭樋熊のブレスで砕け散る。

それでもブレスの威力を削り、魅沙の盾に当たると5枚の盾が消えたが双頭樋熊のブレスを相殺できた。


魅沙達のおかげで無傷ですんだ直斗と白夜は前に飛び出る。

ブレスで削れた地面に気を付けて接近する。


(残り5分です、マスター)


白夜が戦闘に参加できる時間があと5分。

直斗はさらに気合いを入れて双頭樋熊を攻撃する。


あいかわらず、風の膜みたいなものが双頭樋熊の体の表面にあるがそれがまったく役に立たないことに双頭樋熊は愕然とする。


双頭樋熊の内部はすでに、ボロボロであった。

理由はわからないが、体の中が壊されていく感覚に遂に左顔も恐慌状態になった。


右顔は力任せに攻撃をするのみで、左顔は直斗達を見るとすぐにブレスを吐こうとする。

ここまでくると後は強烈な一撃があれば片がつくのだが、それには風の膜を剥がさなければならない。


(白夜、次で最後だ。あの風を剥ぐ!)


(はい!マスター。場所は同じです、タイミングを合わせてください)


もはや回りが見えていない双頭樋熊に近づくのも大変な状況なのだが、直斗達はそれに構わずに前進する。


双頭樋熊はそれを見て立ち上がり、左右の腕を交互に振り回す。

直斗は双頭樋熊の右腕の下を掻い潜る、もちろん白夜も左の腕の下を掻い潜っている。


そのまま双頭樋熊の背後に移動をすると、立ち上がっている双頭樋熊の顔の前に7枚の盾が気を引くように回転していた。

魅沙と花が直斗を見て頷く。


直斗と白夜は無警戒になった双頭樋熊の背中を蹴って上空に舞う、違和感を感じたが双頭樋熊は目の前の盾を砕く事に夢中になり直斗達の存在を忘れた。


(今です、マスター!)


(ああ、任せろ!)


夢中で盾を壊している双頭樋熊の上空から二人は落下する、無防備になっている耳のつけねに二人は同時に拳を当てた。


ギャアオウー!!!


突然の痛みに双頭樋熊が叫び暴れる。

攻撃後、空中で逃げられない直斗と白夜は暴れる腕に巻き込まれ左右に吹き飛ぶ。


「いっ!………氷依、任せた!」


吹き飛ばされた直斗は地面に激突した痛みに顔をしかめながらも氷依の名を呼ぶ。


「ええ!任せなさい!。アイスランス!」


今まで隠れていた氷依は直斗の合図で飛びだすと魔法発動させた。

隠れながら機会をうかがっていた氷依は溜めていた魔法を解き放つと2本の氷の槍が双頭樋熊の頭を貫いた。


………………ドン!!!


地面に倒れる双頭樋熊。

氷依は油断せずに近づき息の根を止めたのを確認した。


「やったわ!倒したのよ!」


氷依が歓声を上げる。

それに釣られてエリーナが身を潜めていた場所から飛び出して直斗の元へ向かう。


「大丈夫ですか直斗さん?」


エリーナは直斗の体を起こして、怪我がないかを確認している。

白夜はどうしたかと見ると、魅沙に手を借りて立ち上がっていた。


「ありがとう、エリーナさん。大丈夫、受け身はとったから怪我はないよ」


そう言うと直斗はエリーナの手を借りて立ち上がり、服についた土を払う。


「やったな直斗、たいしたもんだぞ。アレを怪我も無く倒すなんて」


直斗の近くに来たティーアが労いの言葉をかけてきた。


辺りを見ると双頭樋熊のブレスで、キャンプができそうなぐらい平地になっているのを見て、直斗は今日はここを夜営地にすることを決めた。


双頭樋熊を倒した事に喜んでいる氷依達にその事を伝えると、てきぱきと夜営の準備を花さんと始めた。


ティーアが早速、邪魔な双頭樋熊を袋にしまう。

やっぱり、大きさなど関係ないのかと直斗はそれを見て思った。


「皆さん、ご覧ください!」


魅沙の楽しそうな声が聴こえて、直斗は振り向くと魅沙が地面を魔法で掘り起こし土の盾を造っている。

何故?と思いながら直斗は見ていると。


「いきますよ!」


魅沙の掛け声で氷依達が組み立てた女性陣ようの大きめのテントと直斗用のちんまりしたテントを覆うように魅沙が作った盾が組み上げられていく。


「どうです?この魔法、盾創造の魔法です。強度もありますから見張りは不要ですよ!」


「………………入り口は?」


完成した魅沙のテントの完成形を見て、直斗はあるべき物が無いのに気づいて魅沙に聞いた。


「あ~、それならこの色の違う盾をこうやって外してくれれば一人が通れるスペースができます!」


直斗の疑問に魅沙が実際やってみせる。


「そう。で、空気穴は?」


直斗は次に隙間無く組み上げられた盾テントを見て呟くように聞いた。


「ああ!それなら氷依さん、まだ固めてませんので穴を幾つか開けてもらえますか?」


魅沙のお願いに氷依は頷いて、両方の盾テントに穴を開けていった。


「これで完璧です!」


テントの中に入り顔だけだす魅沙。

それを見てティーアが言った。


「亀みたいだぞ!」


シーンとする一同、直斗は確かに亀に見えるなと思ったら笑いが込み上げてきた。


「クク………」


直斗が笑った瞬間、氷依達も大爆笑して辺りは暫く賑やかな雰囲気に包まれた。


「亀テントですか?………いいかも」


一人、唖然と笑い会う皆を見ていた魅沙はそう言うと皆と一緒に笑顔になった。

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