さゆりちゃんとデート
直斗は人通りの多い大通りまで走った。
もちろん、さゆりちゃんをお姫様だっこして。
ここまで来れば安心だろうという場所でさゆりちゃんを下ろす。
さゆりちゃんの表情がまだ暗い感じがしたので、直斗はこの先に公園があるという看板を見てそこに向かうことにした。
公園に入り、空いているベンチにさゆりちゃんを座らせて、直斗は公園の中で移動販売をしている車を見つけて向かう。
さゆりちゃんは直斗が離れていく気配を感じたのか、不安そうな顔で直斗の服を摘まむ。
「大丈夫だよ、あそこに見える車まで行って来るだけだから。なにかあったら呼んでね」
「うん」
見える所に行くことの安心感からか、さゆりちゃんの指が服から放れる。
「なんのアイスクリームが食べたい?」
「………苺」
「わかった!ちょっと待ってて」
直斗は小走りで移動販売車に行くと注文する。
人がいないこともあってすぐに渡される。
アイスクリーム2個分のお金を払いさゆりちゃんのいる場所まで戻り、アイスクリームを渡す。
「わあ!ありがとう!」
ようやく笑顔になったさゆりちゃんに安心して、直斗はアイスクリームを食べた。
午前中のまだ涼しい時間帯で公園には親子連れが結構いる。
直斗は黙ってアイスクリームを食べていると。
「お兄ちゃん………、お母さんには内緒にして………」
「うん。いいよ」
「………ありがとう………」
それだけの会話だったが、さゆりちゃんの不安を少しは和らげることができたようだ。
「なぜ?あそこに居たの?」
「学校のともだち………いるの」
「あそこに?」
「うん。お母さんは近づいてはいけませんって………言われていたけど………友達だから」
「そっか………」
それっきり直斗とさゆりちゃんはアイスを食べ終わるまで会話をしなかった。
ジーと公園の風景を見ていた直斗は、ふと思い付いてスマホを取り出し自身のステータス画面を見る。
その画面を見て小さくため息を吐く。
(やっぱり経験値は0か)
期待はしていなかったが、これで人を倒しても経験値を得られるという事は無いらしい。
「さゆりちゃんはこれから何処か行くの?」
「………ううん。帰る」
直斗はさゆりちゃんを見ると彼女はまだ引きずっているように感じた。
「じゃあ、暇なんだ」
「暇じゃないもん。お家の手伝いで忙しいもん」
「そっか、忙しいのか~。残念だな街を案内してもらおうと思ったのに」
「!、いいよ。案内してあげるよ、お兄ちゃん」
公園を抜けてさゆりちゃんの行きたい場所でいいよと伝えて、彼女と一緒に街の中を歩く。
人混みが多くなってきたので、迷子にならないように手を繋いだ。
最初に案内されたのは、高級感あふれるお店が立ち並ぶ区画。
流石に高級店だけあって、直斗の所持金の十倍は軽くする。
「綺麗!ほしいな~」
お店のディスプレイに飾られている商品を外から見て、さゆりちゃんがチラチラと直斗を見る。
「うん。10年後、大人になったさゆりちゃんに似合うと思うよ」
「え~、もう大人だもん。お店のお手伝いできるし、むねだ……むぐ!」
「アハハ、こんな場所で変なこと言わないの!」
素早く直斗はさゆりちゃんの口を手で塞ぐ。
「む~、………えへ!ごめんね、お兄ちゃん!」
目元が笑っているところから、分かっていてやってるなと直斗はため息を吐く。
「お兄ちゃん!次いこ」
笑顔で直斗の手を引っ張るさゆりちゃんに直斗はおとなしく着いていく。
子供に見えて、巡る店は大人の女性が行く店が多い。
この辺が彼女の憧れの店なのだろうと思う。
一通り回ってさゆりちゃんは満足したようだ。
「次はね………遊技場に行こう!」
さゆりちゃんに連れて行かれた場所には広い空き地にテントがはられた娯楽施設のようだった。
「ここはね、一攫千金ができるかも」
「?、危険な場所なの?」
「違うよ~!えっとね、腕試しの場所なの」
「腕試し?娯楽施設じゃないの?」
「さゆりは来たことないけど、お客さんがよく話しているのを聞いたことがあるの」
「へぇ、さゆりちゃんは興味があるんだ。お母さんに怒られない?」
「たぶん………平気!見るだけだから!」
「わかった。少しだけ寄って行こうか」
テントの中に入るとそこには冒険者らしき人達が多く居る。
外から見た以上に中は広く、男や女の冒険者達が武器や魔法を使って何かをしている。
いろいろと興味を惹かれる光景に直斗達は一番近い人だかりに行き見学をすることにした。
「さあさあ!力に自信がある者たちよ。こいつに自らの力をぶつけてみないか?、掛け金に乗じて倍になるがどうだ!」
直斗達は人混みを掻き分け前の方に出ることができた。
そこには筋骨隆々の男が観客を見渡し、挑戦的な表情で語っている。
(あれは!)
直斗は見覚えのある物体が目の前に置かれている事に驚いた。
「やり方は簡単だ!渾身の力で的を倒してくれればいい。簡単だろ?後はその力でかけ上がる鉄球が鐘を鳴らせば掛け金が3倍になる!どうだ腕に覚えがある者たちよ」
満面の笑みで口上をたれる男の言葉に周りの冒険者達から数人が押し出されるように前に出る。
「おっ!挑戦者が現れました!皆さん拍手を!」
その声に促されてか、囃子たてる声と拍手が挑戦者に浴びせられる。
「さあ!お兄さん。掛け金はいくらにする?」
ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべ冒険者の男を見る筋肉男。
冒険者の男が数枚の札のお金を渡し的の前に立つ。
それを興味津々の様子で見つめるさゆりちゃん。
(さて、お手並み拝見といこうか)
冒険者の男は腰に下げていた剣を抜くと的に向かい構える。
冒険者の男の体が少し光って見えたと思ったら的から打撃音がきこえてきた。
直斗は的の後ろに設置してある。鉄球が勢いよく登っていくのを見た。
(おっ!いくか?いや、ダメだな)
およそ7メートルぐらいの天辺に取り付けられてる鐘に向かい勢いよく鉄球が上がるさまを見て、当たるのかと思ったが5メートルを過ぎて勢いが落ちて止まった。
周りから残念がる声が多く聞かれた、当の本人も肩を落として放れる。
その後、幾人か挑戦したが誰も鐘を鳴らせなかった。
「お兄ちゃんはやらないの?」
クイクイと服を引っ張られて視線を落とすと、さゆりちゃんが期待に満ちた瞳を向けてくる。
それに気づいたのか筋肉男がニヤリと笑う。
「じゃあ、やってみようかな?」
直斗は前に進み出ると筋肉男に500円を払う。
「何回でも挑戦していいのか?」
「おう!失敗ならいいぞ。成功者はなしだ!」
「わかった。魔法の使用も認められるか?」
「当たり前だ。俺は力をみせるなら剣をでも魔法でもいいと言っているから安心しろ」
それを聞いて直斗は頷き、的の前に立った直斗は無造作に右ストレートを的にぶちこむ。
右腕に伝わる違和感に首をかしげる直斗に注目している人は居なく、観客は鉄球の行方を見ている。
鉄球はやはり5メートル程で勢いをなくして落下した。
「おっ、残念だったな!まだやるかい?」
直斗は頷き財布から1万円を取り出し筋肉男に渡す。
小銭だけになった財布をしまい、少し驚いた表情をしている筋肉男を無視して的の前に立つ。
(やっぱり、パンチングマシンだ。学園の施設にもあるし強化設定は最高の5かな?)
直斗はスマホを取り出し、装備画面をだして精霊装備をオンにした。
直斗の両腕に黒く輝くガントレットに赤いラインの装備が装着される。
いきなり装着された武具に驚いている人もいたが、直斗は構わずに的に向かいかまえる。
「いきます!」
直斗は大きく踏み込み、右ストレートを的にぶちこむ。
やはり何かしらの違和感を直斗は感じたが、鉄球は勢いよくかけ登る。
5メートルを余裕でかけ登り、鐘まで勢いを殺すことなく見事に鐘を鳴らした。
カーン!………。観客の一瞬の静寂、それから大歓声で直斗は観客から迎えられた。
「ひっく、おめでとう少年!」
顔の端を引き釣らせつつも筋肉男は直斗を称賛して、掛け金の3倍の3万円を直斗に渡した。
それを財布にしまい直斗は笑顔のさゆりちゃんの元に戻ると彼女が飛び上がりながら直斗に抱きついて来たのを優しく受け止める。
「きゃー!お兄ちゃんすごい、すごい。格好いいよ」
「おっと。ありがとう、さゆりちゃん」
周りから称賛に頭を下げつつその場から放れる。
後ろでは直斗が成功した為か再び盛り上がっていた。
その後、さゆりちゃんと他の出し物を見てまわる。
射的のような物や、手を使わず物をすくうなど昔の記録映像で見た、 祭りの出店のような感覚を直斗を覚えた。
どの店でも掛け金をかける仕様だったが、直斗向きの店は少なく氷依達を連れて来たらひと財産できそうだなと直斗は思った。
さゆりちゃんと楽しくまわり、お昼の時間だからとお家の帰ると言うさゆりちゃんと別れた。
さゆりちゃんに送って行くよ?と言ったのだが、もう大丈夫だからと笑って別れた。
(良かった。さゆりちゃんに笑顔が戻って………ん?)
なにか電子音が鳴っている?と直斗は音のする方へ顔を向けると、直斗のポケットから聞こえる。
首をかしげながらもスマホを取り出すとそこには
ーレベルアップおめでとうー
と書かれていた。




