騎士団の野外演習
婚約者とのお茶会を終えた数日後。
アレンは騎士団の野外演習に参加していた。
領主になる以上、騎士団の実力くらいは自分の目で確認しておきたい。
「始め!」
号令とともに騎士たちが動き出す。
隊列を組み、互いに連携しながら訓練を進めていく。
アレンはしばらく眺めていた。
「……思ったよりちゃんとしているな」
素人の自分から見ても、動きは揃っている。
騎士団長に聞いてみると、周辺の領地と比べても練度はかなり高いらしい。
「なるほど」
これなら領地の治安については、今すぐ心配する必要はなさそうだ。
そのとき、アレンは一人の兵士に目を留めた。
他の兵士より明らかに動きがいい。
剣を振る速度も速く、周囲への指示も的確だった。
「彼は?」
「ああ、あの者ですか」
騎士団長が答える。
「平民出身の兵士です」
「平民?」
「はい。腕は確かなのですが、家柄がありませんので」
アレンは首を傾げた。
「強いんだよな?」
「はい。騎士団でも上位の実力です」
「なら、なんで役職についていないんだ?」
騎士団長は少し言いにくそうに答えた。
「貴族出身者を差し置いて役職につけるのは、なかなか難しいのです」
アレンはその話を聞いて、すぐに決めた。
「今後は身分に関係なく、能力で決める」
「……!」
「僕の領地を守るための騎士団なんだろ?」
アレンにとっては、それだけの話だった。
「だったら、優秀な人間を遊ばせておく意味がない」
騎士団長が驚いた顔をする。
そして、その話を聞いていた平民出身の兵士たちから歓声が上がった。
「ありがとうございます!」
「実力を見てくれるんだ!」
訓練場が一気に騒がしくなる。
アレンは少し驚いた。
「そんなに嬉しいことなのか?」
騎士団長が苦笑する。
「平民出身の者にとっては、大きな意味がございます」
「そうか」
アレンとしては、単純に能力のある人間を使いたいだけだった。
身分だけで無能な人間を上に置き、優秀な人間を下に置く。
そんなことをしていたら、いざというときに困る。
それだけだ。
その後、野外演習の合間に昼食が出された。
アレンも兵士たちと同じ食事を食べてみる。
「……まずい」
思わず口から出た。
「申し訳ございません!」
兵士たちが慌てる。
「誰が作っている?」
「兵士が交代で作っております」
「そうなのか」
アレンは料理を見た。
量はある。
栄養も最低限は考えられているらしい。
だが、とにかく味が悪い。
「料理を専門にする人間を雇おう」
「料理人を、ですか?」
「そう。兵士は戦うのが仕事だろ。料理までやらせる必要はない」
アレンはさらに考えた。
「それと、兵士の家族で働ける人間がいるなら優先して雇えばいい」
「それは……」
「特に、殉職した兵士の妻がいるなら優先していい」
アレンは淡々と言った。
「夫を失ったあと、生活に困っているなら仕事くらい用意してやればいいだろ」
騎士団長は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
周囲の兵士たちからも声が上がった。
「ありがとうございます!」
「亡くなった兄の家族も、これなら……」
「本当にありがとうございます!」
アレンは少し困惑した。
自分としては、兵士に料理をさせるより料理のできる人間を雇ったほうが効率がいいと思っただけだ。
それに、働ける人間がいるなら雇えばいい。
「……なんでこんなに感謝されるんだ?」
アレンにはよく分からなかった。
ただ、騎士団の実力を確認できた。
優秀な人間を身分で埋もれさせる必要もなくなった。
食事も改善される。
結果として、騎士団の士気まで上がった。
「まあ、悪くないか」
アレンはそう思いながら、まずい昼食の残りを見つめた。
次の演習からは、少なくとも食事だけは期待できそうだった。




