約得ではなく使命
貴族にとって、跡取りを残すことは重要な使命だった。
特にアレンの家は侯爵家。
しかも、アレンは珍しく一人っ子だった。
もしアレンに何かあれば、侯爵家の血筋が途絶えてしまう。
そのため、婚約者との結婚を待たず、早い段階から後継者を確保しておきたいという事情があった。
アレン自身も、その事情については理解している。
ただし、前世の記憶を取り戻した今のアレンには、少し別の認識があった。
「……僕は立場を利用しているだけだと思っていたんだけどな」
これまで自分の身の回りに置かれていたメイドたち。
アレンは、自分が侯爵家の跡取りだから断りにくいのだろうと思っていた。
だからこそ、少々都合よく考えていた。
しかし実際には違った。
彼女たちは、侯爵家の後継者問題を考えた上で選ばれ、本人たちもその事情を理解して仕えていた。
つまり、アレンが勝手に立場を利用していたつもりだった行動は、侯爵家側からすれば最初から想定されたものだったのだ。
「……僕だけが得をしていると思っていたのに」
アレンは複雑な気分になった。
自分では悪徳令息らしい振る舞いをしているつもりだった。
だが、実際には侯爵家の跡取りとして必要な役割を果たしていただけだったらしい。
しかし、そんな事情を知らない者もいる。
その代表が、婚約者のマリンだった。
マリンは、アレンがメイドたちと親しくしていることを知っていた。
そして、それをひどく嫌っていた。
婚約者がいる身で、結婚前からメイドに手を出す。
マリンにとって、それは到底受け入れられることではなかった。
しかもアレンは、そのことを悪いと思っている様子がない。
それが余計にマリンの反感を買っていた。
だが、アレンはそのことを知らない。
自分がメイドたちと関わっていることが、マリンからそこまで嫌われる理由になっているとは考えてもいなかった。
「なんで僕が婚約破棄されるんだ?」
アレンにとっては、むしろそちらのほうが不思議だった。
侯爵家の跡取りを残すことは必要。
自分は一人息子。
家のためにも準備しておくのは当然。
そう考えていたからだ。
もちろん、婚約者であるマリンとの結婚とは別の話だと思っている。
アレンにとっては、将来の家を残すことと、自分が快適に暮らすこと。
その二つを両立させることが重要だった。
まさか自分の行動が、婚約者からこれほどまでに嫌われる原因になっているとは知らない。
そして、その認識のズレこそが、やがて婚約破棄へとつながっていくことになる。




