初めての領地視察
アレンは自室で帳簿を眺めていた。
領地の収入と支出。
税収、農作物の収穫量、兵士への給与、道路の修繕費。
数字を見ても、アレンにはどこを改善すればいいのか分からない。
前世ではサラリーマンだったのだから、当然だ。
それでも毎年の収支を確認しているうちに、一つ気になることがあった。
「……ずっと黒字だな」
多少の増減はある。
だが、赤字になった年はない。
むしろ毎年、安定して利益が出ている。
「これで将来、家が没落するのは不自然じゃないか?」
未来では領地経営に失敗し、重税で領民から恨まれ、最後には自分まで殺される。
だが、今の帳簿を見る限り、そんな兆候は見えない。
帳簿だけでは分からないこともある。
ならば、一度自分の目で領地を見てみるべきだろう。
「領地視察に行くか」
アレンはさっそく準備を始めた。
騎士団から護衛を借り、身の回りの世話をするメイドも同行させる。
そして、訪問予定の町や村には先触れを出した。
「領主が視察に行くと伝えて」
「かしこまりました」
「それと、歓迎の宴を開くように。費用はこれで」
アレンは十分な金を持たせた。
さらに少し考えてから付け加える。
「僕の滞在中、退屈しないように女性の接待役も用意しておいて」
「承知いたしました」
アレンにとっては、それくらい当然の要求だった。
そして視察当日。
最初の町に到着すると、大勢の住民が出迎えていた。
「アレン様、ようこそお越しくださいました!」
広場には料理が並び、酒も大量に用意されている。
アレンが費用を出しているため、住民たちも遠慮なく宴を楽しんでいた。
「領主様が来るなんて久しぶりだ!」
「今日はただで飲み食いできるぞ!」
町はちょっとした祭りのような騒ぎになった。
アレンも料理を楽しみながら、用意された歓待を受ける。
自分のために用意された女性たちもおり、アレンは上機嫌だった。
次の村でも同じだった。
その次の村でも、歓迎の声が上がった。
どこへ行っても、料理と酒が用意され、住民たちは楽しそうに騒いでいる。
アレンはその様子を眺めながら、少しずつ安心していった。
「今のところ、問題はなさそうだな」
未来では領民に恨まれて殺される。
だが、少なくとも今の領民は領主に不満を抱いているようには見えない。
むしろ、領主が金を出して宴を開けば大喜びしている。
「帳簿も黒字だし、領民にも嫌われていない」
アレンは満足した。
「なら、将来どうして没落するんだ?」
今のところ、未来の破滅に繋がるものは見当たらない。
だからこそ、アレンは領地をさらに見て回ることにした。
自分が殺される未来を回避するためにも、原因を見つけなければならない。
少なくとも今は――。
「領民に嫌われてはいないな」
アレンはそう結論づけた。




