温泉旅行
アレンはセリナ、側室となったマリア、そしてアリス、リサ、サキを連れて、騎士団の護衛とともに温泉地へやって来ていた。
ここは以前、アレンが友人のレオンの領地を訪れた際に気に入り、自分の領地にも作らせた温泉地だった。
アレンにとっては、あくまで自分が快適に過ごすための避暑地である。
今回も目的は単純だった。
「せっかくなら、みんなでゆっくり過ごすか」
仕事から離れ、温泉に入りながら休暇を過ごす。
アレンは温泉宿を利用した長期の休暇を、跡継ぎのことも考えるための合宿のようなものだと考えていた。
馬車を降りたアレンは、久しぶりに訪れた温泉地を見渡した。
そして、すぐに違和感を覚える。
「……なんだこれ?」
「どうしました?」
セリナが尋ねる。
「前に来たときより建物が増えてないか?」
アレンが指差した先には、以前にはなかった建物がいくつも並んでいた。
温泉宿だけではない。
食事処や商店、土産物を扱う店まで増えている。
少し離れた場所には、新しい宿まで建設されていた。
「そうなんですか?」
セリナは初めて来たため、以前の様子を知らない。
「俺が最初に来たときは、もっと何もなかったんだ」
「そうなんですか?」
セリナが改めて周囲を見る。
「俺は自分の避暑地として作らせたはずなんだけどな……」
すると、アリスが周囲を見渡して口を開いた。
「本当ですね。前に来たときより、ずいぶん建物が増えています」
アリスは以前、この温泉地に来たことがある。
そのため、以前との違いがはっきり分かった。
「やっぱりそうか」
アレンは納得する。
「宿も増えてますし、お店も増えていますね」
「俺が温泉に入りたかっただけなのに、いつの間にかこんなことになってるな」
「アレン様が作られた温泉が評判になったのでしょうね」
セリナが言う。
「まあ、俺が困ってるわけじゃないからいいか」
アレンは深く考えることをやめた。
自分のために作った避暑地が勝手に発展している。
いつものことだった。
「それより、早く温泉に入ろう」
アレンの関心は、建物が増えた理由より温泉そのものに向いていた。
宿に荷物を置くと、一行は温泉へ向かった。
初めて温泉に入るセリナとマリアは、最初こそ少し戸惑っていた。
「これが温泉ですか」
セリナが湯に浸かり、ゆっくり息を吐く。
「……気持ちいいですね」
マリアもすぐに気に入ったようだった。
「でしょう?」
アリスは以前から温泉を知っているため、少し得意げだ。
「ここ、本当に気持ちいいんですよ」
「アリスさんは前にも来たことがあるんですよね」
「はい。だから温泉が好きなんです」
「なるほど」
セリナも温泉の心地よさを気に入ったらしく、すっかり寛いでいる。
リサとサキも温泉を楽しんでいた。
「ここなら何日でも過ごせそうです」
セリナがそう言う。
「俺もそう思う」
アレンは満足そうに答えた。
温泉から上がった後は、宿で食事を楽しむ。
普段の屋敷とは違う料理を食べながら、皆でゆっくり過ごす。
仕事の話もほとんどしない。
領地の問題について考える必要もない。
温泉に入って、食事をして、ゆっくり休む。
アレンにとっては理想的な休暇だった。
「これは毎年来てもいいな」
アレンが言う。
「私は賛成です」
セリナがすぐに答える。
「私もまた来たいです」
マリアも笑顔で続く。
「私もです」
リサとサキも頷く。
アリスは当然のように賛成していた。
「じゃあ、恒例行事にするか」
アレンは満足そうに頷いた。
こうして、アレンたちの温泉旅行は恒例行事になっていった。
最初はアレンが自分のために作った避暑地だった。
しかし、温泉が評判になり、人が集まり、宿が増え、店が増え、いつの間にか温泉街へと発展している。
それでもアレン本人に領地を発展させようという考えはなかった。
「来年もここに来るぞ」
アレンはただ、自分が気に入った温泉を楽しむことだけを考えていた。




