セリナの領地への移動
セリナと婚約してしばらく経った頃、アレンは一つの問題に気づいた。
「セリナの領地まで行くの、面倒だな」
婚約者となったセリナは、時々実家の領地へ戻ることがある。
アレンも婚約者なのだから、一緒に訪問する機会は増えるだろう。
しかし、そこまでの道はあまり整備されていなかった。
「馬車で移動するだけで疲れる」
アレンはしばらく考えた。
そして執事長を呼び出した。
「セリナの領地までの道を整備してくれ」
「かしこまりました」
「それと、馬車で一日進める距離ごとに宿を作ってくれ」
執事長は少し考えてから尋ねた。
「宿を、でございますか?」
「そうだ。途中で泊まれる場所がないと面倒だからな」
「承知しました」
アレンの目的は単純だった。
自分がセリナの領地へ行くのを楽にするため。
領地間の交通を発展させるつもりなど、最初からなかった。
工事が始まると、道は徐々に整備されていった。
馬車が走りやすくなり、雨が降っても通行しやすくなる。
さらに、一定間隔で宿が整備されたことで、長距離を移動する商人たちにも便利な道となった。
「この道なら以前よりずっと早く行けるぞ」
「途中に宿があるのもありがたい」
「これならセリナ様の領地まで商売に行ってみるか」
商人たちが行き来するようになる。
人が増えれば商売も増える。
宿の周囲には食事処や商店まででき始めた。
やがてセリナの領地にも、以前より多くの商人が訪れるようになった。
「最近、領都が賑やかになったな」
「新しい商人が増えています」
「街道が整備された影響でしょう」
セリナの父親も驚いていた。
以前は領地の立て直しだけで精一杯だった。
それが、今では外から人や商品が入ってくる。
領地の経済まで活発になり始めていた。
そして、当然のようにアレンの評価も上がっていった。
「アレン様は本当にセリナのことを大切にしてくださっている」
「婚約者のために、ここまで街道を整備してくださったのか」
「おかげで商人まで増えた」
領民たちの間でも、アレンを歓迎する声が増えていく。
セリナの父親も感慨深そうに語った。
「娘を嫁がせたことで領地が救われただけではない。今度は領地そのものが発展し始めている」
一方、その頃のアレンはというと――。
「これならセリナのところまで楽に行けるな」
完成した街道を見て満足していた。
「宿もあるから途中で休める。これで移動も楽になった」
アレンにとっては、それだけだった。
商人が増えたことも、領地が発展したことも、特に気にしていない。
「自分が楽をするために作ったんだから、俺が一番得をしているな」
アレンは満足そうに頷いた。
しかし実際には、セリナの領地は大きな恩恵を受けていた。
そしてまた一つ、
「セリナの家は本当に良い婚姻を結んだ」
という評判が広がっていくのだった。




