社交界への復帰
婚約者がいなかったアレンは、しばらく社交界を欠席していた。
一人で参加しても面倒なだけだったからだ。
しかし、今は違う。
婚約者ができた。
「これで社交界にも出られるな」
アレンは久しぶりに社交界へ参加することにした。
婚約者となったセリナは、元婚約者のマリンとは違って、婚約が決まるとアレンの屋敷で暮らすようになった。
アレンの生活について細かく口を出すこともない。
すでにいる妾やメイド、奴隷についても文句を言わない。
そして何より、世継ぎを残すことにも協力的だった。
「アレン様のお役に立てるのでしたら、私は嬉しく思います」
そう言うセリナに、アレンも特に不満はなかった。
「セリナは話が早くて助かる」
そんな二人が社交界に姿を現すと、周囲はすぐに反応した。
「あれがアレン様の婚約者か」
「セリナ嬢だな」
「しかし、あの家は領地がかなり苦しかったはずだ」
「そうだ。持参金も用意できなかったと聞いている」
貴族たちの間で様々な噂が飛び交う。
そして、こんな声も聞こえてきた。
「セリナの両親はうまいことやったな」
「持参金を用意できない娘を、あの家に嫁がせたんだぞ」
「しかも、アレン様から援助まで引き出して領地を立て直したらしい」
「娘を嫁がせただけで、家も領地も救ったわけか」
セリナの両親を評価する声がある一方で、別の貴族たちは顔をしかめていた。
「しかし、娘をあんなところに嫁がせるなんて……」
「セリナ嬢が可哀想だ」
「あのアレン様の婚約者になるんだぞ」
「しかも、すでに妾までいるのだろう?」
「家のためとはいえ、気の毒な話だ」
社交界では、セリナの両親を「うまいことやった」と見る者と、セリナを「可哀想だ」と見る者に評価が分かれていた。
アレン自身は、そんな噂を気にすることなく、セリナを連れて挨拶を続けていた。
「こちらが私の婚約者、セリナだ」
「初めまして。セリナと申します」
セリナも笑顔で挨拶を返していく。
そんな中、セリナは久しぶりに会った旧友から声をかけられた。
「セリナ……」
「久しぶりね」
「本当に大丈夫なの?」
「何が?」
「アレン様との婚約よ」
友人は心配そうな顔をした。
「あなたのことを可哀想だと思っている人も多いわ。家の事情があるとはいえ、もっと良い相手だっていたでしょうに……」
セリナは少し驚いた。
自分が同情されていることを、そこで初めて知った。
「そうなの?」
「ええ。だって、すでに妾もいるのでしょう?」
「そうね」
「それでも大丈夫なの?」
セリナはそんな友人を見て、笑った。
「心配してくれてありがとう」
そして、はっきりと言った。
「でも、私、今最高に幸せだよ」
「え?」
「お父様も領民も助かった。私も持参金を用意できないことで、婚約そのものを諦めなくて済んだ」
セリナは楽しそうに話す。
「それに、アレン様は私が屋敷に住むことも嫌がらないし、私のことを必要としてくれている」
「でも、妾がいるでしょう?」
「それも分かった上で婚約したの」
セリナは迷いなく答えた。
「私には不満なんてないよ」
友人は何も言えなくなった。
遠くではアレンが別の貴族と話をしている。
やがてアレンがセリナに声をかけた。
「セリナ、そろそろ次の挨拶に行くぞ」
「はい、アレン様」
セリナは友人に笑顔で手を振った。
「じゃあ、またね」
そしてアレンの隣へ向かっていく。
その表情には、少しも不幸そうなところはなかった。
むしろ、とても幸せそうだった。
社交界では今日も、様々な噂が飛び交っている。
「セリナの両親はうまいことやった」
「あんなところに嫁がされて、セリナ嬢が可哀想だ」
様々な評価が飛び交っているが、当のセリナ本人だけは、
「私、今最高に幸せ」
と胸を張っていた。




