婚約者内定
アレンの婚約者探しは難航していた。
家柄だけを見れば、婚約者の候補はいくらでもいる。
しかし、アレンにはすでに身近な女性がいる。
側室を置くことや、メイドや奴隷を身近に置くことを受け入れられる家は少なかった。
そんなある日、一人の貴族から面会を求められた。
その貴族は家柄こそ高かったが、領地の経営が安定していなかった。
長年の不作に加えて、今回の飢饉によって領地はかなり苦しい状況に陥っていた。
当然、娘の婚姻に必要な持参金を用意する余裕もない。
そのため、家柄は申し分ない令嬢でありながら、いまだ婚約者が決まっていなかった。
「事情は分かった」
アレンは話を聞き終えると、あっさりと言った。
「持参金はいらない」
「……よろしいのですか?」
「必要ない。代わりに、娘には俺のところへ嫁いでもらう」
貴族は驚いた。
「本当に、それだけで?」
「俺には婚約者が必要だからな」
アレンにとっては、それだけだった。
さらに条件を付け加える。
「側室を置くことも認めてもらう。それから、俺には身の回りの世話をするメイドや奴隷もいる。そこについても文句を言わないこと」
かなり自分勝手な条件だった。
普通の令嬢なら、簡単には受け入れられない。
しかし、その令嬢は父親から領地の事情を聞いていた。
自分の家が苦しいこと。
持参金を用意できないため、縁談すら進まないこと。
そして、このままでは領民の生活まで危うくなること。
しばらく考えた末、令嬢は静かに頭を下げた。
「……私でよろしければ、お嫁に行かせてください」
「決まりだな」
アレンは頷いた。
そして、婚約を成立させると同時に相手の家への援助を始めた。
飢饉を乗り切るための食料を確保し、来季の農業に必要な資金も用意する。
もちろん、それだけの金を出せばアレンの懐は大きく痛む。
持参金を受け取るどころか、こちらから大金を出しているのだ。
普通に考えれば、アレンの方が損をしている。
しかし、アレンはそれを気にしていなかった。
「持参金はなし。そのうえ俺から大金を出して婚約者を手に入れたか……」
少し考えてから、満足そうに頷く。
「金で婚約者を買ったんだ。悪役令息の鏡だな」
自分の金を大量に使ったことまで、悪役らしさとして自画自賛していた。
一方、援助を受けた貴族の領地では状況が大きく変わった。
飢饉を乗り切るための食料を確保できたことで、領民の生活が安定する。
さらに、来季に向けた種や農具も用意できたことで、領地経営を立て直す目処が立った。
翌年には収穫も回復し、領地は徐々に安定していった。
「これで領民を守ることができます」
令嬢の父親は深く頭を下げた。
「娘を迎えていただいたうえ、ここまで援助していただき、本当にありがとうございます」
令嬢もまた、自分が嫁ぐことで領民を救えるのなら、この婚姻には意味があると思っていた。
自分の家が苦しいからこそ、持参金を用意できない自分を受け入れてくれたアレンには感謝していた。
しかし、アレン本人はそこまで深く考えていない。
「これだけ金を使ったんだ。婚約者くらい手に入らないとな」
自分では大損していると思っている。
だからこそ、金で婚約者を買ったという感覚だった。
だが、周囲から見れば全く違う。
困窮していた貴族を救い、その領民まで救った。
しかも、持参金を用意できない令嬢を責めることもなく迎え入れた。
「なんと寛大な方なのだ……」
そんな評判が、また一つ広がっていく。
アレンはその評判を聞いて首を傾げた。
「俺は大金を使って婚約者を買っただけなんだが?」
本人だけが、自分を悪役令息だと思い続けていた。




