温泉が欲しい
アレンは悪友レオンの領地に遊びに来ていた。
「どうだ、アレン。気に入ったか?」
レオンに案内されてやって来たのは、領地でも評判の温泉施設だった。
「かなり気に入った」
昼間から宴会場で料理を楽しみ、酒を飲みながらレオンと騒ぐ。
「お前、昼間から飲みすぎじゃないか?」
「せっかく遊びに来たんだ。楽しまないともったいないだろ」
「まあ、それもそうか」
二人でしばらく騒いだ後、温泉へ向かった。
湯船に浸かると、アレンは大きく息を吐いた。
「これはいいな……」
「だろ? うちの領地自慢の一つだ」
「宴会をして、温泉に入って、疲れたらまた休む。完璧じゃないか」
「お前、完全に遊びに来た貴族の発想だな」
「遊びに来てるんだから当然だろ」
宿では手厚い歓待まで受けられる。
アレンはすっかり満足していた。
「レオン」
「なんだ?」
「これ、俺の領地にも欲しい」
「温泉を?」
「ああ。俺が好きな時に遊びに来られる場所が欲しい」
「自分の領地に作ればいいだろ」
「そうする」
あまりにも即答だったので、レオンは笑った。
「お前、本当に自分の欲望には行動が早いな」
「欲しいものを我慢する理由がないからな」
「領地経営のためじゃないのか?」
「もちろん俺が楽しむためだ」
レオンは呆れたように肩をすくめた。
「お前らしいよ」
アレンは領地に戻ると、さっそく執事長を呼び出した。
「領地内に温泉が出ている場所はないか?」
「温泉でございますか?」
「レオンの領地にあったんだ。かなり良かった」
執事長が調査すると、領地の山間部に温泉が湧いている場所があることが分かった。
「ございます。ただ、現在はほとんど利用されておりません」
「そこを整備しよう」
「目的をお伺いしても?」
「俺の避暑地にする」
執事長は一瞬だけ黙った。
「……かしこまりました」
こうして山間部の温泉は整備され、宿泊施設や食事を楽しめる建物まで作られた。
完成すると、アレンはさっそく足を運んだ。
「うん。いいな」
「ご満足いただけましたか?」
「最高だ。これなら夏はここで過ごせる」
完全にアレン個人のための施設だった。
ところが後日、アレンは騎士団を連れて温泉を訪れることになった。
行軍訓練の途中で立ち寄ったのだ。
「団長、ここで休憩にするのか?」
「はい。若様が用意された温泉施設です」
騎士たちは半信半疑だったが、訓練で疲れていたこともあり、温泉に入るとすぐに表情が変わった。
「……これはいいな」
「疲れが一気に抜けるぞ」
「こんな施設を若様はいつの間に……」
アレンも湯船に浸かりながら満足そうにしていた。
「だろ? ここは俺の自慢の避暑地だ」
騎士の一人が尋ねる。
「若様、我々も利用してよろしいのでしょうか?」
「俺が使っていない時なら構わない」
「ありがとうございます!」
別の騎士が団長に声をかけた。
「団長、ここを行軍訓練の目的地にしませんか?」
「私もそう思っていた」
「温泉に入れるなら、行軍訓練も頑張れそうです」
「お前たちは温泉が目的になっていないか?」
団長の言葉に騎士たちが笑う。
「しかし、実際に疲労回復には効果があります」
「それなら訓練の目的地として使う価値はあるな」
こうしてアレンが自分のために作った温泉施設は、騎士団の行軍訓練における目的地の一つとなった。
「まさか温泉まで役に立つとはな」
アレンはそう言いながら、湯船にゆっくりと浸かった。
本人はあくまで、自分が楽しむために作っただけだった。




