婚約者問題
アレンは正式にマリンとの婚約を解消した。
これでアレンには婚約者がいなくなった。
侯爵家当主を継ぐことが決まっている以上、これからは今まで以上に社交界へ顔を出すことになる。
そこでアレンは、ある問題に気づいた。
「……婚約者がいない状態で社交界に出るのか?」
侯爵家当主ともなれば、当然のように妻や婚約者を連れて社交の場に現れる。
そんな中で、自分だけが独身で参加する。
それを想像すると、アレンは少し嫌だった。
別に独身でいること自体が悪いとは思わない。
だが、侯爵家当主という立場になると話が違う。
周囲からすれば、
「あの侯爵家は、まだ後継者を決めていないのか」
「婚約者すらいないのか」
と見られることになる。
何より、毎回一人で社交界に出ていくことになる。
「これは……普通に恥ずかしいな」
アレンはそう思った。
世継ぎの問題については、派閥内でも心配されている。
まだアレンには子供がいないのだから、それは当然だった。
ただ、派閥内の人間はアレンの女性関係も知っている。
そのため、世継ぎについては、
「メイドを複数置いておけば、そのうち何とかなるだろう」
くらいに考えている者も多い。
派閥内では、正妻以外の女性を複数置くこと自体は、それほど問題視されていない。
ところが、派閥外ではまったく違う。
そんなことはあり得ない。
侯爵家当主が正妻以外の女性を複数囲うなど、普通の貴族社会では受け入れられない。
当然、そんな家に娘を嫁がせたいと思う貴族も少ない。
では、派閥内から妻を探せばいい。
そう考えれば簡単な話にも思える。
しかし、侯爵家当主に相応しい家柄で、なおかつ婚約者のいない令嬢はそれほど多くない。
高位貴族の令嬢ともなれば、すでに婚約していることのほうが普通だからだ。
もちろん、派閥には別の方法もある。
すでに婚約している令嬢であっても、派閥の力を使えば婚約を解消させることはできる。
家同士で話をつけ、その令嬢をアレンの妻にする。
それ自体は不可能ではない。
むしろ、派閥の人間からすれば、それほど難しい話でもない。
だが、アレン自身はその方法に乗り気ではなかった。
「そこまでして相手を連れてくるのは、どうなんだ?」
自分が侯爵家当主だからといって、他人の婚約を壊してまで妻を用意する。
できるかどうかなら、できる。
だが、やりたいかと言われれば別の話だった。
その女性には、その女性の人生がある。
今の婚約者と結婚するつもりでいるかもしれない。
そこへ自分が侯爵家当主だからという理由だけで割り込むのは、アレンには抵抗があった。
とはいえ、社交界に一人で出るのも嫌だった。
侯爵家当主として参加する以上、周囲から見られることになる。
婚約者すらいないという状況は、どう考えても格好がつかない。
「……困ったな」
領地のことなら、思いついたことを適切な人間に丸投げすればいい。
実際、アレンはこれまでそうしてきた。
だが、結婚相手についてはそうはいかない。
相手の人生まで、自分の都合で丸投げするわけにはいかなかった。
「社交界に出るためだけに結婚するのも、違う気がするしな」
侯爵家当主としての立場。
社交界での体面。
世継ぎの問題。
そして、相手の人生。
いくつもの事情が絡み合い、アレンは珍しく簡単に答えを出せずにいた。




