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帳簿の確認

翌日。


 アレンは執事長の執務室を訪れていた。


「領地の状況を知りたいとのことでしたので、こちらをご用意しました」


 家老が机の上に大量の帳簿を並べる。


「これが税収の記録で、こちらが領地の支出になります。こちらは各村から提出された報告書で……」


「かなり多いな」


「はい。毎年かなりの量になります」


 アレンは帳簿を開いた。


 数字が並んでいる。


 税収。


 農作物の収穫量。


 人件費。


 道路の修繕費。


 警備費。


 その他にも細かな支出が大量に記録されている。


「こちらはどういう意味ですか?」


「はい。こちらは北部の村から納められた税でして……」


 執事長が一つ一つ説明してくれる。


 だが、アレンにはさっぱり分からない。


「なるほど……」


 分かったような顔で頷く。


 しかし、内心では困っていた。


 前世はサラリーマン。


 領地経営の知識などない。


 帳簿の見方も詳しくない。


 執事長の説明を聞いても、数字の意味までは理解できなかった。


 それでも、しばらく帳簿を眺めているうちに、妙なことに気づいた。


「……これ、おかしくないか?」


「はい?」


 アレンは一つの数字を指差した。


「ここ。三十個を銀貨五枚で売ったなら、百五十枚になるんじゃないのか?」


「…………」


 執事長が帳簿を覗き込む。


「……おっしゃる通りです」


 アレンは別のページをめくった。


 そこにも計算がおかしい箇所がある。


 さらにページをめくる。


「これも違うな」


「…………」


 執事長の表情が少しずつ険しくなっていく。


 アレンは計算自体は分かる。


 難しいことではない。


 前世で何度もやった程度の計算だ。


 そして、もう一つ気になるものがあった。


「これ、同じ請求書じゃないか?」


「……え?」


 アレンは二枚の書類を並べた。


 日付も内容も、金額も同じ。


 違うのは書類の番号だけだった。


「こちらにもあります」


 さらに探す。


 似たような請求書が何枚も出てきた。


「…………」


 執事長は言葉を失っている。


 アレンにも詳しい仕組みまでは分からない。


 だが、これは偶然ではないだろう。


「誰かが金を抜いているんじゃないか?」


 アレンが言うと、執事長は黙り込んだ。


 領地の支出はあまりにも多い。


 村から届く書類も多い。


 それを執事長一人で確認している。


 すべての数字を細かく確認するなど、到底無理がある。


「……確かに、私一人では全てを確認することはできません」


 執事長が苦々しく答える。


「これだけの量を一人で?」


「はい。私のところまで届いた書類を確認し、問題がなければ処理しています」


「なるほど」


 アレンは帳簿を見る。


 不正をしている人間がいる可能性は高い。


 だが、今すぐ誰がやっているのかまでは分からない。


 それに、アレンには領地経営そのものの知識がない。


 帳簿を見ても、細かいことまでは判断できない。


 ただ一つだけ、確認できたことがある。


「赤字にはなっていないんだな?」


「はい。少なくとも帳簿上では、黒字になっています」


「ならいい」


 アレンは少しだけ安心した。


 自分が知った未来では、侯爵家は没落する。


 しかし、現在のところ領地は赤字ではない。


 ならば、まだ時間はある。


「今日はこれでいい」


「よろしいのですか?」


「ああ」


 アレンは帳簿を閉じた。


 正直、数字を見続けているだけで疲れた。


 領地のことは何も分からない。


 だが、少なくとも今すぐ破綻するような状態ではないことは分かった。


 それだけでも十分だった。


「……少しずつ調べればいいか」


 アレンはそう言って、執務室を後にした。

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