王都の食料危機
凶作の影響が国中に広がる中、アレンの領地には次々と商人が訪れていた。
その理由の一つが、領地にある港だった。
この港は、もともとアレンが王都へ移動する時間を短縮するために作らせたものだった。
陸路で山や街道を迂回するより、船を使ったほうが圧倒的に早い。
アレンにとっては、自分が移動するための便利な設備に過ぎなかった。
しかし、せっかく港を作ったのだからと商人にも開放していた。
すると、いつの間にか港の周囲に店が増えていた。
倉庫が建ち、宿ができ、食堂ができ、商人向けの施設まで増えていった。
気がつけば、港を中心に一つの町ができていた。
「港町って、勝手にできるものなんだな」
アレンは最初こそ驚いたが、商人が集まれば領地にも利益がある。
特に困ることもなかったので、そのまま利用させていた。
そして今回、その港が大きな意味を持つことになった。
「他国から食料が入ってきています」
執事長から報告を受けたアレンは、少し意外そうな顔をした。
「他国は凶作じゃないのか?」
「はい。どうやら今年は雨が十分に降った地域が多いようです」
なるほど、とアレンは頷いた。
国中で凶作が起きていると思っていたが、どうやら被害は国境の外までは広がっていないらしい。
他国では例年通りの収穫があり、余った食料を売るために商人たちが動き始めていた。
その商人たちが、港を利用してアレンの領地へやってきている。
港には次々と船が入り、食料を積んだ荷物が運び込まれていった。
「これ、王都なら高く売れるんじゃないか?」
アレンは荷物を見ながら言った。
「はい。王都では食料価格がかなり上昇しております」
「じゃあ、王都で売ってきてもらおう」
アレンは簡単に指示を出した。
「ここで売るより、王都まで運んだほうが儲かるだろ」
商人たちは少し驚いた。
アレンの領地では、他の領地ほど凶作の影響が出ていない。
そのため、ここで食料を売っても、王都ほど高値にはならない。
しかし、王都では深刻な食料不足が起きている。
他国から来た商人たちは、その事情を十分に理解していなかった。
彼らにとっては、
「凶作の影響が比較的少ない領地に食料を持ってきた」
というだけだった。
まさか、その先の王都でさらに高い値段で売れるとは思っていなかったのである。
アレンの領地を経由することで、商人たちは王都まで安全かつ効率的に食料を運ぶことができた。
しかも、アレンが王都での販売を勧めたことで、大きな利益を得る商人が続出した。
「ありがとうございます!」
「まさか、王都でこれほどの値段になるとは思いませんでした」
「次もぜひ、この港を使わせてください!」
商人たちは口々に感謝を伝えてくる。
さらに、その食料を購入した王都の人々からも感謝された。
食料不足で困っていたところに、他国から大量の食料が入ってきたのだ。
少しでも市場に食料が増えれば、それだけ多くの人が食事を手に入れられる。
「アレン様のおかげで助かった」
そんな話まで王都で広がっていった。
しかし、当のアレンはというと。
「いやあ、儲かったな」
それだけだった。
港を作ったのも王都への移動を楽にするため。
商人に開放したのも、使わせておけば領地が儲かると思ったから。
他国の食料を王都へ運ばせたのも、王都のほうが高く売れると考えたから。
人々を助けようなどという大それた考えは、アレンにはなかった。
「港を作っておいてよかったな」
アレンは満足そうに頷いた。
その背後では、商人たちが利益を得て、王都の人々が食料を手に入れ、そしてアレンの領地にはさらなる商人が集まり始めていた。
本人だけが、それを単純な商売の成功だと思っていた。




