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飢饉

今年は、いつもと少し様子が違っていた。


雨が少ない。


春先から降雨量が例年より明らかに少なく、畑の土も乾き気味だった。


農民たちは空を見上げては、今年の収穫を心配していた。


「今年は、あまり実りが良くないかもしれません」


領地の農業を管理する者から報告を受けたアレンも、畑の様子を見に行った。


確かに、作物の育ちはあまり良くない。


「凶作か……」


アレンは畑を眺めながら呟いた。


今年はどうやら、収穫量が落ちそうだった。


「まあ、仕方ないか」


アレンはそう言ってから、ふと思い出した。


そういえば、豊作だった年に税を増やしていた。


豊作なら農民にも余裕がある。


それなら多少税を多く取っても問題ないだろうと考えたからだ。


「……豊作のときに増税したんだから、凶作なら減税だな」


アレンはあっさり決めた。


「今年は農民の税を減らそう」


「よろしいのですか?」


執事長が驚いた顔をする。


「収穫が減るんだから、去年と同じだけ取ったら生活が苦しくなるだろ」


アレンにとっては、それだけの話だった。


しかし、これができる領地はほとんどない。


凶作になれば農民の収入が減り、同時に領主の税収も減る。


それでも領地を維持するための費用は変わらない。


そのため、凶作だからと簡単に税を下げることなどできなかった。


だが、アレンの領地には以前の豊作時に増えた税収を使って蓄えてきた食料がある。


さらに、アレンが以前から作らせていた豆も収穫の時期を迎えていた。


「豆はどうだ?」


「こちらは、それほど収穫量が落ちておりません」


「そうか」


主食となる作物の収穫量は落ちている。


しかし、豆まで大幅に減っているわけではない。


さらに倉庫には、豊作だった頃に蓄えた食料が残っている。


「減税しても、食料はある」


アレンは倉庫を見ながら呟いた。


「思ったより何とかなるな」


だが、問題はアレンの領地だけではなかった。


今年は国中で雨が少なかった。


周辺の領地でも作物の収穫量が落ち始め、食料価格が上がっていく。


最初は一部の地域だけの問題だと思われていた。


しかし、次第に状況は広がっていった。


「食料が足りない」


そんな話が各地から聞こえてくるようになった。


商人たちも食料を求めて動き回る。


だが、どこへ行っても余っている領地などほとんどない。


食料を買いたくても、売ってくれる相手がいない。


それほどまでに、今年の凶作は広範囲に及んでいた。


そんな状況の中、アレンの領地は比較的落ち着いていた。


税を減らしたことで、農民たちは少ない収穫でも生活に回せる金を残せた。


豆の収穫も、それほど落ちていない。


そして何より、豊作の年に増税して確保していた食料の備蓄がある。


平年と同じような生活ができるわけではない。


それでも、周辺の領地に比べれば影響はかなり小さかった。


アレンは倉庫に並ぶ食料を眺めながら、ふと前世の記憶を思い返した。


前世の自分の領地が、なぜ没落したのか。


詳しいことまでは思い出せない。


だが、飢饉や食料不足が原因の一つだったのではないか。


そんな考えが頭をよぎった。


「……もしかして、これも原因だったのか?」


食料がなくなれば、人は生きていけない。


農民が生活できなくなれば税も取れない。


税が減れば領地の運営も苦しくなる。


さらに食料を買おうとしても、周囲も同じ状況なら簡単には手に入らない。


「食料って、思ったより重要なんだな」


アレンは改めてそう思った。


そして、自分の領地が前世で没落した原因の一つが、こうした食料事情だったのかもしれないと考えながら、倉庫に積まれた備蓄食料を眺めていた。

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