人口増加策
アレン一は領地の人口について考えていた。
領地の人口は少しずつ増えている。
新しく仕事が生まれれば人が集まり、商売が盛んになればさらに人が集まる。
人口が増えれば消費も増える。
そして何より、領主として見逃せないものがある。
「税収だな」
アレンは一人で呟いた。
人が増えれば、それだけ税を納める人間も増える。
もちろん、子どもが生まれてすぐに税を納めるわけではない。
育てるための食費も必要になるし、成人するまでにはかなりの年月がかかる。
それでも、一人の人間が大人になって働き始め、その後何十年も暮らすことを考えれば、長期的に納める税金はかなりの額になる。
「だったら、子どもを増やすために多少金を使ってもいいんじゃないか?」
アレンはそう考えた。
例えば、子どもが一人増えるたびに一定額を支給する。
最初は領主が金を払うことになる。
だが、その子どもが成長して働くようになれば、税を納める側になる。
さらに、その子どもが領地で暮らしていれば、食事をする。
服を買う。
家を建てる。
商店を利用する。
つまり、税金だけではなく領地内で金が回る。
「一時的に金をばらまいても、長い目で見れば回収できるな」
アレンにとって、これは投資だった。
もちろん、出産する家庭を支援すること自体にも意味はある。
子どもが増えれば、将来的に働く人間が増える。
農業でも商業でも工業でも、人手は必要になる。
領地が発展して仕事が増えている以上、人間が多いことは悪いことではない。
「よし。やろう」
アレンはさっそく執事長を呼んだ。
「少し制度を作りたい」
「どのような制度でしょうか?」
「出産した家庭に一時金を支給する」
執事長は少し驚いた顔をした。
「出産一時金、ですか?」
「ああ。子どもが生まれたら、一定額を支給する」
「……かなり思い切った制度ですね」
「そうか?」
アレンは首を傾げた。
「子どもが一人増えれば、将来的にはその子が税金を納める。それを考えれば、最初に少しくらい金を出しても損にはならないだろ」
アレンは紙を取り出し、簡単な計算を書いていく。
「これくらいなら支給できる。双子なら二人分。三つ子なら三人分だ」
「なるほど……」
「もちろん、制度を悪用されないように条件は決めてくれ。実際にこの領地で暮らしている家庭を対象にすること。細かい部分は任せる」
「承知しました」
執事長は書類を受け取り、頭を下げた。
こうして、アレンの領地では出産一時金の制度が始まった。
最初は、それほど大きな変化はなかった。
制度ができたからといって、すぐに子どもが生まれるわけではない。
しかし、領民の間では評判が良かった。
「子どもが生まれたら領主様からお金がもらえるらしいぞ」
「それなら安心ね」
「子どもを育てるには金がかかるからな」
制度の話は、少しずつ領地の外にも広がっていった。
すると、別の変化も起き始めた。
仕事を求めて領地へやって来る人間が増えた。
商売を始める者も増えた。
さらに、結婚を機に領地へ移住する人間も出てきた。
そして、そこで暮らす夫婦に子どもが生まれる。
子どもが生まれれば、一時金が支給される。
領地の人口は少しずつ、しかし確実に増えていった。
アレンは定期的に人口統計を確認していた。
「人口が増えているな」
「はい」
執事長も頷く。
「昨年よりかなり増えております」
「仕事も増えているからな」
アレンは特に気にしていなかった。
人口が増えれば税収も増える。
商売も活発になる。
領地が発展する。
最初に支給した金など、長い目で見れば十分に取り戻せる。
それどころか、予想以上の効果が出ているようにも思えた。
だが、アレンは知らなかった。
数年後。
アレンの領地は、国内でも類を見ないほど人口増加率の高い領地になっていた。
出産一時金だけが理由ではない。
仕事があり、商売ができ、生活が安定している。
そこへ子育てを支援する制度まで加わった。
結果として、多くの人間がこの領地で暮らしたいと考えるようになったのだ。
「人口が増えれば税収も増える」
アレンは相変わらず、そんな単純なことを考えていた。
自分の決めた制度が、国内最大の人口増加率を生み出すことになるとは知らずに。




