競馬
町の娯楽施設をレオンと見て回った翌日。
アレンは屋敷で一人、ぼんやりと考えていた。
「そういえば、前世では競馬が人気だったな」
馬が走る。
それを大勢の観客が見て楽しむ。
単純だが、かなり面白い娯楽だった。
「競馬場を作ってみたいな」
アレンはそう思った。
しかし、ただの娯楽施設として競馬場を作るとなると、少し大げさだ。
何か自然な理由が必要になる。
「優秀な馬の品評会として集めさせて、ついでにレースをすればいいか」
この領地には騎士団がいる。
軍馬の質は軍事力に直結する。
優秀な馬を集めて品評会を開くという名目なら、広い会場を用意しても不自然ではない。
「これなら競馬場を作りたいなんて言わなくても実現できるな」
アレンはさっそく騎士団長を呼んだ。
「軍備を増強したい」
「軍備増強、ですか?」
「ああ。騎士団で使う優秀な馬が欲しい」
騎士団長の表情が引き締まった。
「確かに、軍馬の質は重要です」
「そこで、優秀な馬を各地から集めて品評会を開いてくれ」
「承知しました!」
騎士団長は即答した。
アレンの思惑通りだった。
「品評会では馬を走らせてみたい」
「なるほど。実戦を想定した走力の確認ですね!」
「……まあ、そんなところだ」
アレンは適当に答えた。
騎士団長は完全に軍事目的だと思い込んでいた。
それから準備が始まった。
騎士団は各地に知らせを出し、優秀な馬を持つ者を領地へ呼び寄せた。
最初は軍馬を選ぶための品評会だったはずが、騎士団は思った以上に力を入れていた。
せっかくの機会なのだからと、会場も立派なものが用意された。
馬が走るための広いコースが整備され、観客が見られる場所まで作られていく。
「ずいぶん大きくなったな」
完成した会場を見て、アレンは呟いた。
「騎士団にとって重要な軍馬選定の場ですからな!」
騎士団長は胸を張っている。
「そうか……」
アレンは特に否定しなかった。
そして当日。
会場には大勢の人が集まった。
町の住民だけではない。
商人や貴族まで見物に訪れている。
「始まるぞ!」
歓声が上がる。
集められた馬が次々とコースを走っていく。
何頭もの馬が一斉に走り出し、速い馬が他の馬を追い抜いていく。
観客から歓声が上がった。
「いいな」
アレンは貴賓席から、その様子を眺めていた。
ただ馬が走っているだけだ。
それなのに、不思議と見ていて飽きない。
アレンはすっかり夢中になっていた。
一方、騎士団は真剣だった。
走力だけではなく、体格や持久力、性格なども細かく確認している。
騎士団にとっては、あくまで軍馬を選ぶための重要な行事なのだ。
品評会が終わると、騎士団は優秀と判断した馬を次々と購入していった。
「いい馬が揃いましたな」
「ああ」
騎士団長は満足そうだった。
アレンも満足していた。
優秀な馬は騎士団に購入された。
領民は新しい娯楽を楽しんだ。
そしてアレン自身も、念願だった馬のレースを見ることができた。
「また開催したいな」
アレンが小さく呟く。
「もちろんです。軍馬の更新もありますからな!」
「……そうだな」
騎士団長は、軍備増強のための定期的な品評会が必要だと思っている。
アレンは、競馬を見るための口実ができたと思っている。
二人の目的はまったく違っていた。
こうして軍備増強を名目に開催された軍馬品評会は、大成功に終わった。
騎士団は優秀な軍馬を手に入れ、領民は新しい娯楽を楽しんだ。
そしてアレンは、競馬場を作るという目的を隠したまま、競馬を楽しむことに成功したのだった。




