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悪役令息に転生した俺は改心しない  作者: まゆな


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美味しい酒を求めて

芸術家を呼び込み、町に劇場や工房が増え始めた頃。


 アレンには、また新たな不満が生まれていた。


「……酒が不味い」


 夕食の席でグラスを傾けながら、アレンは眉をひそめた。


 この世界には酒がある。


 ビールもあれば、ワインもある。


 酒そのものが存在しないわけではない。


 しかし、問題は味だった。


「これなら日本で千円くらいで売っていたワインの方が美味しいな……」


 アレンにとっては、それくらいの差だった。


 高級品を飲みたいわけではない。


 ただ、普通に美味しい酒が飲みたい。


 王都に行けば、もっと品質の良い酒があるのかもしれない。


 だが、わざわざ王都まで酒を飲みに行くのは面倒だった。


「……ないなら、作ればいいか」


 アレンはそう考えた。


 翌日から、領地の葡萄を買い集めるよう命じた。


「葡萄を?」


 執事長が聞き返す。


「そう。領内で作られている葡萄をできるだけ集めてくれ」


「用途をお聞きしても?」


「ワインを作る」


 アレンは即答した。


「葡萄の品種によって味が違うんだろう? だったら、まず色々試してみたい」


 さっそく領内の各地から葡萄が集められた。


 村ごとに育てている品種が違う。


 甘みが強いもの。


 酸味の強いもの。


 香りが強いもの。


 粒が大きいもの。


 見た目は似ていても、食べ比べれば違いが分かる。


 アレンはそれらを原料にして、試作品のワインを作らせた。


 完成したワインが並ぶ。


「これは……酸味が強いな」


 一口飲んで、次へ。


「こっちは甘い」


 さらに次。


「これは香りがいい」


 アレンは一本ずつ飲み比べていった。


 執事長や料理人たちは、その様子を黙って見ていた。


「アレン様、本当に全部お飲みになるのですか?」


「飲み比べなんだから当然だろう」


 アレンにとっては真剣な仕事だった。


 何種類もの葡萄から作ったワインを比較し、自分が一番気に入ったものを探す。


 そして何日も試した結果――。


「これだ」


 アレンが一本のワインを指差した。


「これが一番好きだ」


 香りと酸味のバランスが良い。


 甘すぎず、食事にも合う。


 何より、アレンが美味しいと思えた。


「この葡萄を増やそう」


「どのように増やしますか?」


「接ぎ木だ」


 アレンは迷わなかった。


「この葡萄を育てている村だけで作らせるんじゃない。各村に苗を渡して、接ぎ木で増やしてもらおう」


「承知しました」


 こうして、アレンが気に入った葡萄の栽培が領内各地で始まった。


 最初は一部の村だけだった。


 しかし、数年もすると状況が変わっていく。


 葡萄畑が増えた。


 収穫量も増えた。


 ワインを作る醸造所も増えた。


 さらに、領内で作られたワインは町でも販売されるようになった。


「このワイン、最近評判がいいらしいぞ」


「領主様が気に入った葡萄から作っているらしい」


「王都の商人まで買い付けに来ているそうだ」


 評判は領内だけに留まらなかった。


 酒は保存が利き、運びやすい。


 しかも、品質の良いものには高い値段がつく。


 商人たちは積極的に買い付けに来るようになった。


 酒の販売量が増えるにつれて、領地に入る税収も増えていった。


「アレン様、酒造業の税収がかなり増えております」


 執事長が報告する。


「そうか」


「葡萄を栽培する農家も増え、醸造所や樽を作る職人も増えています。輸送を担当する商人も増加しております」


「それはよかった」


 アレンは満足そうに頷いた。


 領地がさらに豊かになっている。


 葡萄を作る農家にも利益が出る。


 醸造所も儲かる。


 商人も儲かる。


 領主であるアレンにも税収が入る。


 まさに理想的な産業だった。


「これなら、もっと酒を作ってもいいな」


「はい。領地の新たな主要産業になる可能性があります」


「どんどん増やそう」


 執事長は満足そうに頭を下げた。


 領主が新たな産業を育て、農民の収入を増やし、商業を活性化させ、領地を豊かにしている。


 周囲から見れば、実に見事な政策だった。


 しかし――。


「これで美味しいワインがいつでも飲める」


 アレンは新しく完成したワインを眺めながら、嬉しそうに笑っていた。


 そもそもの始まりは、領地の発展でも農民の生活向上でもない。


 ただ――。


「王都まで行かなくても、美味しい酒が飲めるようになったな」


 アレンが自分で美味しい酒を飲みたかった。


 それだけだった。


 結果として領地はさらに潤い、後にこの地域は良質なワインの産地として知られるようになる。


 だが、本人はそんなことを大して気にしていなかった。


「次は……もっと美味しい酒を探すか」


 アレンの欲望は、まだ尽きそうになかった。

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