↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/60

娯楽が欲しい

アレンは、最近になって一つの不満を抱えていた。


「この領地、娯楽が少なすぎないか?」


 領地の財政は好調だった。


 豊作によって税収も増え、増税によってさらに多くの金が入ってきた。商人を呼び込むために税や通行料を調整したこともあり、町には以前より人が増えている。


 商売は活発になった。


 港も整備され、街道も少しずつ便利になっている。


 領地は確実に豊かになっていた。


 だが――。


「食べるものは増えた。服も買える。家具も揃えた。……なのに、遊ぶものがない」


 アレンは自室でため息をついた。


 王都に行けば劇場もある。


 音楽を楽しむ場所もある。


 絵画や彫刻を見る機会もある。


 しかし、この領地ではそういったものがほとんどない。


 もちろん酒場や祭りはある。


 だが、アレンが求めているのは、もっと違う娯楽だった。


「僕が王都まで行かなくても、ここで楽しめるようにすればいい」


 アレンは、ふと思いついた。


「芸術家を呼ぼう」


 さっそく執事長を呼び出した。


「この領地に芸術家を集めたい」


「芸術家……ですか?」


「そう。画家、彫刻家、音楽家、劇作家。ほかにも何かいるなら呼んでくれ」


 執事長は少し驚いた顔をした。


「芸術家を呼ぶとなると、かなりの費用が必要になります」


「構わない。今は領地も潤っているからね」


 アレンは即答した。


「それに、芸術は豊かでなければ育たないだろう?」


「おっしゃる通りです」


「だから、こちらから環境を用意する」


 アレンは机の上に指を置いた。


「住む場所を用意する。活動する場所も用意する。必要なら材料を買う金も出す」


「そこまでなさるのですか?」


「ただし条件がある」


 アレンは少し考えてから続けた。


「この町で活動してもらう」


「王都へ戻ることは禁止、という意味でしょうか?」


「禁止まではしない。ただ、僕が支援する以上、この領地を活動拠点にしてもらう」


 芸術家にとっても悪い話ではない。


 金銭的な心配を減らしながら、作品を作ることができる。


 しかも、領主が後ろ盾になってくれる。


「パトロンになる、ということですね」


「そういうことになるのかな」


 アレンは頷いた。


「僕は芸術について詳しくない。だから、何が売れるとか、何が評価されるとか、そんなことまで口を出すつもりはない」


 ただし――。


「この町で活動してくれればいい」


 アレンの目的は単純だった。


 王都まで出かけなくても、娯楽を楽しめる場所を作りたい。


 それだけである。


「では、まず王都や近隣の都市から芸術家を探してみます」


「頼んだ」


 こうして、領主アレンによる芸術家の招致が始まった。


 最初にやって来たのは、一人の画家だった。


 次に彫刻家。


 さらに音楽家が数人。


 劇を作っている者までやって来た。


 アレンは彼らに工房や活動場所を用意した。


「ここを自由に使っていい。必要なものがあれば相談してくれ」


 芸術家たちは驚いた。


 領主が自分たちの作品に口を出すことなく、活動場所と資金を用意してくれたからだ。


「これほど自由に制作できるとは……」


「ありがとうございます、アレン様」


「気にしなくていい。僕が楽しむためでもあるから」


 アレンは本気でそう思っていた。


 だが、芸術家たちの活動が始まると、町の様子は少しずつ変わっていった。


 画家の工房には見物人が集まるようになった。


 完成した絵を見ようと、商人や貴族が町を訪れる。


 音楽家が演奏会を開けば、食事をしながら音楽を楽しむ客が増えた。


 劇作家が新しい劇を上演すると、町の劇場は満席になった。


 芸術家を目当てにやって来た人々は、宿に泊まり、食事をし、買い物をする。


 商人たちも新しい客を歓迎した。


「最近、町がずいぶん賑やかになりましたな」


 執事長が報告すると、アレンは満足そうに頷いた。


「そうだろう?」


 自分の考えが正しかった。


 これなら王都まで行かなくても遊べる。


「芸術家を呼んで正解だったな」


 アレンは新しく完成した劇場を眺めながら思った。


 このときのアレンは知らなかった。


 何年も経つ頃には、この町には画家、音楽家、彫刻家、劇作家だけでなく、多くの職人や芸術を学ぶ者まで集まるようになっていた。


 芸術家同士の交流から新しい作品が生まれ、町独自の文化まで育っていく。


 やがて人々は、この町をこう呼ぶようになる。


 ――芸術の町。


 豊かな領地が芸術家を支え、芸術家が町に人を呼び、人が集まることでさらに町が豊かになる。


 そんな好循環が生まれていた。


 その始まりとなった政策について、後世の人々はこう評価することになる。


 領主アレンが芸術文化の発展を見据え、長期的な視点から芸術家を保護したのだ、と。


 しかし本人の考えは、もっと単純だった。


「これで王都まで遊びに行かなくてもいいな」


 アレンは満足げに笑った。


「僕の領地で遊べるなら、それが一番楽だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。