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料理大会

アレンには、この世界の料理に一つだけ大きな不満があった。


「……やっぱり、物足りない」


屋敷の食堂で夕食を食べながら、アレンは呟いた。


前世では、料理に詳しかったわけではない。


それでも、様々な料理を食べてきた。


肉を焼くだけではなく、調味料に漬けて下味を付ける。


油で揚げる。


煮込む。


香辛料を使う。


前世では当たり前だった調理法が、この世界ではあまり使われていなかった。


そこでアレンは料理長を呼び出した。


「肉を焼く前に、調味料に漬けておいて」


「調味料に、ですか?」


「そう。味を付けてから焼いたほうが美味しい」


最初は料理長も半信半疑だった。


だが、実際に試してみると結果は明らかだった。


「……これは」


「どう?」


「確かに、今までとは違います」


それからアレンは、料理長にいろいろな調理法を試させた。


肉に下味を付ける。


油で揚げる。


香辛料を使う。


煮込む時間を変える。


焼く前に味を付ける。


料理長は最初こそ戸惑っていたが、すぐにアレンの意図を理解していった。


やがて、屋敷の食卓に並ぶ料理は大きく変わった。


「うん。これなら満足できる」


アレンは満足そうに食事をするようになった。


しかし、ある日ふと思った。


「……これ、屋敷の中だけじゃないか?」


料理長が腕を上げても、その料理を食べられるのは屋敷の人間だけだ。


町の食堂へ行けば、相変わらず焼いただけの肉や、味付けの薄い料理が多い。


「せっかく美味しい料理を知っているのに、町では食べられないのか」


アレンは考えた。


料理長の技術を町の料理人にも広めればいい。


だが、料理長を町へ派遣して一軒ずつ教えさせるのも面倒だ。


もっと簡単な方法はないか。


そこでアレンは思いついた。


「料理大会を開こう」


執事長に話をすると、少し驚かれた。


「料理大会、ですか?」


「そう。町の料理人を集めて、一番美味しい料理を決める」


「目的は?」


「町の料理を美味しくすること」


「……なるほど」


アレンは料理長にも参加するよう命じた。


「優勝してこい」


「私が参加するのですか?」


「当然だろう」


料理長は困ったような顔をした。


しかし、領主からの命令なら断ることもできない。


こうして町の広場で料理大会が開催されることになった。


当日は、多くの料理人が集まった。


食堂の料理人。


宿屋の料理人。


屋台の店主。


家庭料理を得意とする者までいる。


「随分と集まったな」


アレンは満足そうに会場を眺めた。


「これなら美味しい料理が食べられそうだ」


大会が始まる。


参加者たちは、それぞれ自慢の料理を作っていく。


焼く者。


煮る者。


香辛料を使う者。


様々な料理が並んだ。


そして最後に、屋敷の料理長が料理を完成させる。


審査員たちが一口食べる。


「これは……」


「美味い」


「同じ肉を使っているのに、ここまで違うのか」


結果は予想通りだった。


屋敷の料理長が優勝した。


「やっぱり料理長が一番か」


アレンは満足そうに頷いた。


だが、大会で起きたことは、それだけではなかった。


参加した料理人たちは、料理長の調理を間近で見ていた。


肉に下味を付ける。


調味料を使い分ける。


油で揚げる。


火加減を調整する。


料理人たちは、それぞれに気づきを得ていた。


大会が終わった後も、参加者たちは料理長に質問をしていた。


「この調味料は、どのくらい使うんですか?」


「肉を漬けておく時間は?」


「油の温度はどう判断しています?」


料理長も嫌な顔をせず答えていく。


そして数日後。


町の食堂に変化が現れ始めた。


「最近、あの店の料理が美味しくなったな」


「揚げた料理まで出すようになったぞ」


「肉に味が染みている」


料理人たちは大会で見た技術を、それぞれの店に取り入れていた。


一軒だけではない。


二軒、三軒と料理の質が上がっていく。


やがて町では、以前よりも様々な調理法が使われるようになった。


アレンは街を歩きながら、食堂の看板を見る。


「……料理大会、成功だったな」


自分が美味しい料理を食べたかっただけ。


それがアレンの本音だった。


「これで町でも美味しい物が食べられる」


アレンは満足した。


一方、町の人々は料理大会をきっかけに、町全体の料理が変わったことを喜んでいた。


料理人たちも互いに技術を競うようになり、新しい料理を考えるようになった。


アレンが自分の食事を改善するために始めた料理大会。


その結果、町の料理そのものが一段階上のものへと変わっていった。


「次は何を食べようかな」


アレンはそんなことを考えながら、次の食事を楽しみにしていた。

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