悪友レオンと娼館
その日、アレンの屋敷に一人の客が訪れていた。
「久しぶりだな、アレン」
「レオンか」
やって来たのは、伯爵家の令息レオンだった。
二人は昔から付き合いのある悪友である。
「最近のお前、領地のことばかりやっているらしいな」
「別に好きでやっているわけじゃないよ」
「そう言いながら、税を変えたり、騎士団を強化したり、港まで作っているじゃないか」
「僕が快適に暮らすために必要なんだ」
「お前らしいな」
レオンは笑った。
しばらく屋敷で話をしていたが、やがてレオンが立ち上がる。
「せっかく俺が遊びに来たんだ。今日は領地の話を忘れて遊ぼうぜ」
「それはいいな」
最近のアレンは領地のことばかり考えていた。
たまには何も考えずに遊ぶのも悪くない。
「どこへ行く?」
「決まっているだろ」
レオンが向かったのは、街でも有名な娼館だった。
アレンはその建物を見上げた。
「ここか」
「ああ」
この世界における娼館は、単なる裏社会の施設ではない。
そこで働く女性たちは、男性客を癒やす専門職として扱われている。
接客や会話、身だしなみなどにも高い技能が求められ、人気のある女性ともなれば、貴族の社交界でも一目置かれるほどだった。
娼館を経営する者の中には大きな財産を築いている者もいる。
働く女性たちも、本人の意思でその職業を選んでいる場合が多く、社会的にもそれほど低く見られてはいない。
だが――。
アレンはそんな、この世界の常識をまだよく知らなかった。
前世の感覚が残っているアレンにとって、娼館はどうしても「貴族の遊び場」という印象が強かった。
「なるほど……」
アレンは建物を見ながら考える。
侯爵家の嫡男が娼館へ遊びに行く。
なんとなく悪そうだ。
「これは悪役令息らしいな」
「何をぶつぶつ言っている?」
「いや、何でもない」
レオンは慣れた様子で店へ向かう。
アレンもその後に続いた。
店の前には貴族の馬車も何台か止まっている。
中から出てくる客も、決して珍しい存在ではない。
「結構普通なんだな」
「何がだ?」
「いや……もっと秘密めいた場所なのかと思っていた」
「お前、娼館に来るのは初めてか?」
「まあね」
レオンは意外そうな顔をした。
「侯爵家の嫡男なのに?」
「そういう機会がなかったんだよ」
二人はそのまま店の中へ入っていった。
――そして、しばらくして。
店から出てきたアレンは、どこか満足そうだった。
「今日は良い遊びをしたな」
「そうだな」
レオンも満足そうに笑う。
アレンは馬車へ向かいながら考えていた。
「これで少しは悪役令息らしいことができたかな」
最近のアレンは、領地の税を下げたり、使用人の環境を改善したり、騎士団を強化したりしている。
周囲から見れば、むしろ領主として評価されるようなことばかりだ。
だからこそ、今日は少しくらい悪そうなことをしてみたかった。
「娼館に行くなんて、いかにも貴族の放蕩息子って感じだ」
アレンは満足していた。
しかし、この世界では娼館で働く女性たちは、社会的にも認められた専門職である。
そこへ行くこと自体も、貴族の娯楽の一つとして珍しいものではない。
つまりアレンが思っているほど、悪役らしい行動ではなかった。
「次はもっと派手に遊んでみるか」
アレンはそんなことを考えながら、屋敷へ戻っていった。
また一つ、悪役令息らしいことをした。
本人はそう思っていた。




