↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/60

商人を呼びこむ税制優遇

アレンは定期的に街へ買い物に出ていた。


服、家具、装飾品、食器、菓子、酒――。


侯爵家の嫡男として、庶民には簡単に手が届かないような品を次々と買っていく。


もちろん、目的は領民に富を見せつけるためだ。


「これくらい買っておけば、僕が金持ちだということも分かるだろう」


買い物を終えたアレンは満足そうだった。


だが、そんな買い物を何度も繰り返していると、ある問題が起きた。


「……欲しい物がない」


店を見回しても、以前買った物ばかりだった。


新しい服も、家具も、食器も、すでに十分な量がある。


装飾品も増えすぎて、置き場所に困るほどだった。


「どうして商人はもっと頻繁に来ないんだ?」


アレンは不満そうに呟いた。


欲しい物があるのに買えない。


それはアレンにとって、かなり深刻な問題だった。


そこで、アレンは執事長を呼んだ。


「商人がこの街に来る回数を増やせないかな?」


「商人を、ですか?」


「そう。もっと色々な商品を持ってきてほしい」


「それでしたら、商人が来やすい環境を作る必要がありますね」


執事長は少し考える。


「この領地は王都や他領と比べると、商人にとってあまり旨味がありません」


「なぜ?」


「通行料や市場の使用料、それにいくつかの商業関係の税が、周辺領地より高いのです」


アレンは眉をひそめた。


「それなら下げればいい」


「よろしいのですか?」


「商人が増えれば、僕の欲しい物も増えるだろう?」


「……なるほど」


執事長は納得した。


アレンは商人を呼び込むため、いくつかの税制を見直した。


領地を通過する際の通行料を引き下げる。


市場を利用する商人から取っていた使用料も減額する。


新しく店を出す商人には、一定期間の税を軽減する。


さらに、他領から商品を持ち込む商人についても、一部の税を免除することにした。


「これで商人は来やすくなる?」


「かなり来やすくなるでしょう」


「なら、これでいい」


アレンは即決した。


数か月後。


街の様子が変わり始めた。


以前よりも多くの商人が訪れるようになったのだ。


王都から来た商人。


隣領から来た商人。


遠くの地方から珍しい商品を運んでくる商人。


街の市場には、以前より多くの商品が並ぶようになった。


「最近、この街は随分と賑やかになりましたね」


「税が安くなったからな」


「これならわざわざ別の街を通るより、ここに寄ったほうがいい」


商人たちの間でも評判になった。


しかも、商人が増えれば、それを目当てに買い物へ来る人も増える。


宿屋には客が増え、食堂も賑わう。


荷物を運ぶための人足も必要になる。


馬車を扱う者にも仕事が増えた。


街全体に少しずつ金が回り始めた。


そんな報告を受けたアレンは、満足そうに頷いた。


「やっぱり税を下げるのは正解だったな」


「はい。商人からも非常に歓迎されております」


「そうか」


アレンは満足した。


これで商人が増えれば、今まで見たことのない商品も入ってくる。


珍しい食材や家具、服、装飾品。


欲しい物が見つかる可能性も高くなる。


「これでまた買い物ができるな」


アレンは上機嫌だった。


だが、執事長は別の意味で今回の政策を評価していた。


「商人が増えれば、領内で消費される金も増えます。市場が活発になれば、店を出したい者も増えるでしょう」


「そうなのか?」


「はい。結果として税を下げた以上に、領地全体の収入が増える可能性があります」


アレンは少し考えた。


税を下げたのだから、当然収入は減ると思っていた。


しかし、商人が増えて取引そのものが増えれば、別の税収も増えるらしい。


「……まあ、僕が損をしないなら好きにすればいい」


アレンはそう答えた。


本当のところ、税収がどうなるかよりも、欲しい物が買えることのほうが重要だった。


街では、別の評判が広がっていた。


――この領地は商人に優しい。


――新しく店を出しやすい。


――商売を始めるなら、あの領地がいい。


商人たちにとって、税の軽減は大きな魅力だった。


結果として、以前より多くの商人が領地を訪れるようになった。


アレンはその様子を見ながら、満足そうに笑った。


「これで僕の買い物にも選択肢が増えるな」


富を見せつけるために始めた買い物。


欲しい物がなくなったから始めた税制優遇。


その結果、領地には商人が集まり始めていた。


アレン本人だけが、その政策が商業振興になっていることをあまり理解していなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。