領地視察と行軍訓練
ある日、アレンは執事長から報告を受けていた。
「アレン様、領地の村から視察を行っていただきたいとの要望が届いております」
「視察?」
アレンは少し考えた。
以前にも領地を視察したことがある。
そのときは各村に事前に知らせ、歓迎の宴を開かせた。
村人たちの前で贅沢を楽しみ、領主としての威厳を見せつける。
アレンにとっては、それも悪役令息らしい行動の一つだった。
「また贅沢できるということか」
「……そのように考えてよろしいかと」
「なら、行こう」
アレンはすぐに決めた。
「視察する村を選んでおいてくれ」
「かしこまりました」
アレンは知らなかった。
前回の視察で、アレンが各村に金を渡して歓迎の祭りを開催させたことが、村々の間で評判になっていたことを。
領主が来れば宴が開かれ、村には金が落ちる。
食料や酒、祭りに必要な品も大量に購入される。
前回視察した村は、その恩恵を受けていた。
だからこそ、他の村も同じような恩恵にあずかりたいと考えていた。
そんな事情があるとは知らず、アレンは別の目的も兼ねて視察に向かうことにした。
増員された騎士団の行軍訓練である。
「せっかく人数が増えたんだ。村まで行軍させれば訓練にもなる」
出発の日。
アレンは騎士団とともに街道を進んでいた。
隣には騎士団長が馬を並べている。
「騎士団長、増員してからどうだ?」
「かなり余裕が出てきました」
「そんなに違うのか?」
「はい。以前は巡回だけで手一杯でしたからな」
騎士団長は前方を見ながら答えた。
「今では巡回部隊を出しながら、訓練に参加する人数も確保できます」
「なるほど」
「今回の行軍も、以前ならなかなか実施できませんでした」
「なら、増員して正解だったな」
「はい。ありがとうございます」
騎士団長は嬉しそうに頭を下げた。
アレンは満足した。
自分を守る兵士が増えただけでも十分なのだが、騎士団の運営にも余裕ができたらしい。
「騎士団長」
「なんでしょう?」
「今後も定期的に行軍訓練をした方がいいんじゃないか?」
「もちろんです。ただ、訓練だけを目的にすると、村々への負担も考えなければなりません」
「なら、視察と一緒にやればいい」
「視察と?」
「僕が村を回るついでに、騎士団も行軍する。そうすれば一度に二つできるだろう」
騎士団長は少し目を丸くした。
「なるほど……確かに合理的です」
「だろ?」
アレンは満足げに頷いた。
「それに、僕が行けば村も歓迎してくれるだろう」
「前回の視察も盛大だったと聞いております」
「今回も楽しみだな」
アレンはすでに、どんな料理が出てくるのかを考えていた。
しばらく進むと、騎士団長が口を開いた。
「しかし、これだけの人数になると食料もかなり必要になります」
「そうなのか?」
「はい。騎士一人分でもそれなりに食べますからな」
「確かに」
アレンは後ろを振り返った。
数百人の騎士が列を作って進んでいる。
「……村で買えるなら、そこで買えばいい」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ。わざわざ大量の食料を屋敷から運ぶ必要もないだろう」
「分かりました。では、各村で不足分を購入するよう手配します」
こうして一行は、最初の村へ到着した。
村の入口には、大勢の村人が並んでいた。
「アレン様、ようこそお越しくださいました!」
「歓迎いたします!」
村の中央には宴の準備まで整えられている。
「なかなか盛大だな」
アレンは満足した。
村人たちは笑顔でアレンたちを迎えた。
そして騎士団が宴の料理を食べ始める。
「これはうまいな」
「ありがとうございます!」
騎士団長も料理を口にする。
「アレン様、かなりの量を用意してくれています」
「騎士団全員分となると、これくらい必要なんじゃないか?」
「確かにそうですが……」
騎士団長は周囲を見渡した。
「これだけ食べれば、村の食料もかなり減るでしょう」
「なら、買っていけばいい」
「よろしいのですか?」
「食べた分は払う。当然だろう」
騎士団長は笑った。
「それなら村も助かるでしょうな」
宴が終わると、騎士団は次の町までの行軍に必要な食料も村から購入した。
村人たちは大喜びだった。
「これだけ買っていただけるとは……」
「余っていた食料まで売れたぞ」
「次の収穫までの資金にもなる」
村にとっては大助かりだった。
だが、アレンはそんな事情を知らない。
「さて、次の村へ行くぞ」
「はい!」
騎士団は再び行軍を開始した。
アレンにとっては、領主として贅沢を楽しみながら、騎士団の訓練までできる一石二鳥の視察だった。
一方、村人たちにとっては、領主が来ることで食料が売れ、金が入り、村に活気が生まれる機会だった。
そして騎士団長は、そんなアレンの視察が結果的に領地全体へ良い影響を与えていることに気づき始めていた。
もちろん、当のアレンだけは何も考えていなかった。
「次の村では、どんな料理が出るかな」
考えていたのは、それだけだった。




