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2度目の交流

奴隷として購入したアリスは、昼間は騎士団の訓練に参加していた。


剣の扱いから体力作り、護衛として必要な動きまで、騎士たちに一から教え込まれている。


そして夕方になると、アレンの専属メイドとして側に控える。


もっとも、アリスは本職のメイドではない。


「……お茶、これでいいのか?」


アリスが淹れたお茶を見て、アレンは少しだけ首を傾げた。


一口飲んでみる。


「うん。飲めなくはない」


「すみません」


「気にするな。まだ始めたばかりだろ」


アリスを購入した目的は、優秀なメイドを手に入れることではない。


護衛として自分を守れる人間を側に置くことだ。


メイドとしての仕事は、これから覚えてもらえばいい。


そんなアリスを連れて、アレンは婚約者であるマリンとの二度目の交流に臨んだ。


二人が向かい合って座る。


そして、その後ろにはアリスが立っている。


「久しぶりだな、マリン」


「……はい」


「学校はどうだ?」


「普通です」


「普通か」


「はい」


「友達とはうまくやっているのか?」


「それなりに」


「勉強は?」


「問題ありません」


「そうか」


会話が途切れた。


アレンは紅茶を飲みながら、マリンを見る。


「……今日は天気がいいな」


「そうですね」


「最近は雨も少ないし、領地の農作物にも影響が出そうだ」


「そうなのですか?」


「ああ。だから各村に豆を栽培するように指示した」


「豆、ですか?」


「昔から豆料理が好きなんだ。色々な種類を育てておけば、そのうち良いものが見つかるかもしれないからな」


「……そうですか」


「うまい豆が見つかったら、色々な料理を作らせるつもりだ」


「アレン様は、豆がお好きなのですね」


「かなり好きだ」


アレンは少し嬉しそうに答えた。


「味噌や豆腐も作れるようになればいいんだけどな」


「味噌や豆腐……ですか?」


「知らないか?」


「聞いたことがありません」


「そうか。まあ、そのうち作らせてみるさ」


また会話が途切れる。


アレンは首を傾げた。


「マリンは何か好きな食べ物はないのか?」


「特にありません」


「本当に?」


「はい」


「じゃあ、苦手なものは?」


「……ありません」


「全部食べられるのか。すごいな」


「ありがとうございます」


マリンの返事は丁寧だった。


だが、どこかよそよそしい。


アレンは少し考えた。


「そういえば、今日はアリスを連れてきた」


「……はい」


「見れば分かると思うが、僕の奴隷だ」


マリンの視線がアリスへ向いた。


奴隷には、奴隷であることが分かるよう、目立つ場所に紋様が刻まれている。


貴族社会で育ったマリンが、それを見落とすはずがなかった。


「……奴隷、なのですね」


「そうだ」


「なぜ、奴隷を?」


「護衛にするためだ」


「護衛、ですか?」


「ああ。昼間は騎士団の訓練に参加させている。夕方からは僕の側に置いている」


「メイドとして?」


「そう。まあ、まだ本職のメイドほど上手くはないけどな」


アレンはアリスの淹れたお茶を見た。


「さっきのお茶も、アリスが淹れたんだ」


「……そうですか」


マリンの声がさらに冷たくなった。


「何か問題でもあるのか?」


「いえ」


「そうか?」


「はい」


「ならいいんだが」


アレンは気にせず話を続けた。


「騎士団で訓練を受けさせれば、いずれかなり強くなると思う」


「……アレン様は、奴隷を戦わせるおつもりなのですか?」


「僕を守ってもらうためだからな」


「ご自身を?」


「そうだ。何かあったとき、強い護衛が側にいた方が安心だろう?」


マリンは黙り込んだ。


アレンには、その沈黙の意味が分からない。


「マリン?」


「……なんでもありません」


「そうか」


「はい」


また沈黙が訪れた。


アレンはなんとか話題を探す。


「そうだ。今度、町に新しい店ができるらしい」


「そうなのですか」


「服を扱う店らしい。今度見に行こうと思っている」


「……お一人で?」


「いや、護衛を連れていく」


「そうですか」


「マリンも興味があるなら一緒に行くか?」


「遠慮します」


「そうか」


「はい」


アレンは困った。


前回も会話が続かなかった。


今回も同じだ。


いや、今回は前回よりもひどい気がする。


「マリン、僕と話すのは嫌か?」


「……」


マリンは少しだけ目を伏せた。


「嫌、というわけではありません」


「なら、どうしてそんなに話が続かないんだ?」


「……アレン様には、分からないと思います」


「何が?」


「いえ。なんでもありません」


アレンには、やはり分からなかった。


マリンは奴隷を購入したアレンを軽蔑していた。


貴族として奴隷を所有すること自体が珍しいわけではない。


しかし、婚約者との交流の場にまで奴隷を連れてくる。


しかも、それを何の問題もないことのように話す。


マリンにとっては、受け入れがたい行動だった。


一方のアレンは、そんなマリンの気持ちを知らない。


自分では、婚約者と普通に会話しているつもりだった。


「……婚約者って、こんなに話しづらいものなのか?」


アレンは首を傾げた。


マリンもまた、目の前の婚約者がなぜ自分の行動を問題だと思っていないのか、理解できなかった。


二人の間には、以前よりさらに大きな溝ができていた。

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