奴隷の購入
アレンはある日、ふと思った。
「悪役令息なら、奴隷を持っているものじゃないか?」
前世で見た物語を思い返す。
悪役貴族。
豪華な屋敷。
大勢の使用人。
そして奴隷。
「うん。やっぱり一人くらいは必要だな」
どうせなら、ただの奴隷ではなく、護衛ができるメイドがいい。
アレンはそう考え、奴隷商を訪れることにした。
「条件をいくつか出したい」
「かしこまりました」
「女性で、僕と年齢が近いこと、手を出してもいいこと」
そしてもう一つ。
「メイドとして僕の側に置きながら、騎士団の訓練にも参加させたい」
「護衛としての訓練を、ですか?」
「そう。僕を守れるくらいには強くなってもらいたい」
最初の条件は、それほど問題ではなかった。
年齢の近い女性なら何人かいる。
しかし、アレンが実際に奴隷商から紹介された者たちを見て、すぐに気づいた。
「……戦えるメイドって、いないのか?」
前世で見たアニメでは、メイド服を着たまま敵を倒すような人物がいた。
だから、この世界にもそういう存在がいるのではないかと思っていた。
だが、現実はそんなに都合よくできていなかった。
メイドはメイド。
戦闘訓練を受けている者など、そう簡単には見つからない。
「まあ、よく考えれば当然か」
アレンはそこで考え方を変えた。
そもそも、メイド本人が家事全般をこなす必要はない。
アレンにはすでに専属のメイドがいる。
掃除や洗濯、身の回りの世話をする人間には困っていない。
ならば、重要なのは別の部分だ。
「戦える人を選べばいい」
メイドの仕事は、他の専属メイドに任せればいい。
本人にはメイドの格好をさせて、自分の側に置く。
そして、必要なときには護衛として動いてもらう。
「それなら、戦闘力だけで選んだ方がいいな」
アレンは紹介された奴隷たちを一人ずつ見ていった。
そして、一人の少女に目を留めた。
「この子は?」
「アリスです」
アリスはアレンとそれほど年齢の変わらない少女だった。
華奢に見えるものの、身体能力には恵まれている。
アレンは奴隷商から詳しい話を聞いた。
「この子なら、騎士団の訓練についていけそうか?」
「身体能力は高い方です。訓練次第では、かなり伸びるかと」
「なら、この子にする」
アレンは即決した。
こうして、アレンの側には新しいメイドが一人加わることになった。
ただし、彼女の本当の役割は掃除や給仕ではない。
メイドとしてアレンの側に控えながら、騎士団の訓練に参加する。
そして、アレンを守れるだけの力を身につける。
「これで僕も、また一歩悪役令息らしくなったな」
アレンは満足そうに頷いた。
本人としては、かなり悪いことをしているつもりだった。




