日本食が恋しい
アレンは最近、日本食が恋しくなっていた。
前世では当たり前のように食べていた料理が、この世界ではほとんど存在しない。
特に豆を使った料理が食べたくなっていた。
「そういえば、豆があれば色々作れるんだけどな」
しかし、前世で食べていた大豆が、この世界にあるとは限らない。
いきなり大豆を探しても、見つかる可能性は低い。
そこでアレンは、各村に豆の栽培をするよう通達を出した。
「この辺りで育つ豆を色々試してみてくれ。いずれ、大豆に似た品質の豆が見つかればいい」
アレンとしては、日本食を再現するための準備だった。
豆が手に入れば、味噌や豆腐なども作れるかもしれない。
それだけの理由だった。
その後、アレンは執事長から領地の状況について報告を受けていた。
「新たに三人の文官を雇ったことで、これまで以上に細部まで帳簿の内容を確認できるようになりました」
「それで?」
「無駄な支出もかなり見つかりました。不要な契約を整理し、物資の購入先も見直した結果、今年は過去最高の収益になる見込みです」
「へえ」
アレンは少し驚いた。
自分は領地経営について詳しいわけではない。
だからこそ、人を増やして仕事を任せた。
その結果、収益まで増えている。
「なら、その金を使おう」
「何にでしょうか?」
「まずは川の治水対策だ。洪水で農地を失うようなことがあったら困る」
そしてもう一つ。
「騎士団も増員しよう」
「騎士団を、ですか?」
「領地が広いからな。何かあったとき、自分を守る兵士は多い方がいい」
アレンにとっては、それが一番の理由だった。
領地が豊かになったとしても、自分の身が危険になれば意味がない。
だから騎士団を増やす。
ただ、それによって思わぬ効果も生まれた。
騎士の数が増えたことで、これまで手が回らなかった地域まで巡回できるようになった。
街道を巡回する頻度も増え、盗賊などへの警戒も強化された。
商人たちは、その変化をすぐに感じ取った。
「この街道は以前よりずっと安心して通れるようになったな」
「護衛を雇う費用も減らせそうだ」
安全になったことで、この領地を訪れる商人も少しずつ増えていった。
商人が増えれば、当然ながら売買も増える。
店の売り上げが増え、新しい店もできる。
町には以前より多くの人が行き交うようになり、活気が出てきた。
「最近、この町はずいぶん賑やかになったな」
領民たちは、そう口にするようになった。
だが、アレンはそんなことを考えて騎士団を増員したわけではない。
「何かあったときに、自分を守ってくれる兵士が多い方がいい」
ただ、それだけだった。
自分が安全に暮らせる環境を作る。
それがアレンの目的だった。
その結果として、領地の治安が良くなり、商人が集まり、町が活気づいていく。
アレンは今日も、自分のためにやったことが領地にどんな影響を与えているのか、深く考えてはいなかった。




