悪役令息らしさ
アレンの周囲には、何人ものメイドがいた。
前世の記憶を取り戻したアレンからすれば、それはまさに悪役令息らしい光景だった。
侯爵家の跡取りという立場を利用して、メイドたちを自分の側に置いている。
アレンはそんな自分の状況に、密かに満足していた。
「僕も、悪役令息らしくなってきたな」
自分では、立場を利用して好き勝手しているつもりだった。
前世で読んだ物語に出てくる悪役令息なら、このくらいはしている。
アレンはそう思っていた。
だが、アレンは知らなかった。
貴族にとって、跡取りを残すことは重要な使命だった。
特にアレンの家は侯爵家。
しかも、アレンは珍しく一人っ子だった。
もしアレンに何かあれば、侯爵家の血筋が途絶えてしまう。
そして、アレンの父親も一人っ子だった。
その前の代も、決して子供が多かったわけではない。
どうやらアレンの家系は、昔から子供ができにくいらしい。
だからこそ、アレンが生まれたことは侯爵家にとって非常に重要なことだった。
そんな事情もあり、アレンの周囲には何人ものメイドが置かれていた。
彼女たちの中には、アレンとの間に子をもうけ、将来的に妾としての立場を得たいと考えている者もいた。
もちろん、アレンはそんな事情を知らない。
「僕は侯爵家の跡取りだから、好き勝手しても許されるんだ」
そんな程度に考えていた。
メイドたちも、侯爵家の後継者を残すという事情を理解した上でアレンの側にいる。
つまり、アレンが悪いことをしているつもりだった行動は、侯爵家にとって最初から想定されていたことだった。
「まあ、まだ時間はあるか」
アレンは、そんな事情を知らないまま気楽に考えていた。
そして翌日。
アレンは町へ出かけることにした。
目的は単純だった。
「今日は思い切り金を使うぞ」
侯爵家の跡取りなのだから、多少の贅沢をしても問題ない。
そう考えたアレンは、服を買い、装飾品を買い、家具を買い、食料まで大量に購入した。
値段などほとんど気にしない。
気に入ったものがあれば買う。
店員が驚くほどの量を購入しても、アレンは平然としていた。
「これももらおう」
「こちらもだ」
「それも買っておいて」
次々と商品を買っていく。
アレンは大満足だった。
「悪役転生、最高だな」
前世では、欲しいものがあっても給料や生活費を気にしていた。
だが今は違う。
侯爵家の財力がある。
自分の立場を利用して、好きなものを好きなだけ買える。
「これでまた一歩、悪役令息に近づいたな」
アレンは満足げに頷いた。
しかし、町の人々が見ていたものは、アレンが考えているものとは少し違っていた。
「旦那様がまた買ってくださったぞ」
「あの店も最近、売り上げが増えたらしい」
「職人への注文も増えているそうだ」
アレンが町で金を使えば、その金は商人や職人の手に渡る。
商人が仕入れを増やせば、仕入れ先にも金が流れる。
職人が注文を受ければ、材料を扱う店にも仕事が増える。
町全体に少しずつ金が回っていく。
「旦那様は町で金を使ってくださるからありがたい」
「必要以上に私腹を肥やすより、こうして町に金を落としてくださる方がいい」
町の人々から見れば、アレンは贅沢をしているのではない。
領主として町に金を循環させているように見えていた。
だが、本人はそんなことを考えていない。
「いやあ、今日は悪いことをしたな」
アレンは大量の買い物を終え、満足そうに屋敷へ戻っていった。
自分では、侯爵家の財力を使って好き勝手に散財したつもりだった。
「僕も、かなり悪役令息らしくなってきたな」
アレンは満足していた。
その一方で、町の人々からのアレンへの評価は、少しずつ上がっていた。




