〈30〉ロビアンの命
ミカリの力は日増しに強大なものへと成長していくと共に、虚しさもまた日増しに募っていった。そして、その虚しい気持ちを抱いたまま、無差別にキューピッドの結びつけたカップルを見つけては、場所を選ばず、次々と破綻に追い込んでいた。そして、ミカリが上野公園にある不忍池を散策していると、前方にあるベンチから一人の人間が立ち上がった。そして、ミカリの方を見た。ミカリは思わず歩みを止めた。その人は行方が分からなくなっていたロビアンだった。ロビアンは人間の姿になりすまして、ずっとミカリのことを遠くから見ていたのだった。ミカリは予期せぬロビアンの出現に少し驚いた。そして、ロビアンは言った。
「とうとう破壊者になりさがったか、ミカリ」
「ロビアン先生」
「それがお前の行き着く先の、なれの果てか?」
「ロビアン先生。僕は分かったのです。人の世は山あり、谷あり、それを二人で乗り越えてこそ、そこに本当の愛が生まれるのではないかということに。キューピッドの矢が結びつけた愛など所詮紛いものに過ぎない。単なる権力闘争の道具に過ぎないということに僕は気づいたのです」
「それがお前の答えか」
ミカリは沈黙をもって答えた。
「確かに、今はそうかも知れない。しかし、それでもキューピッドの矢を必要としている人間がいるのも事実だ。それがお前なら見えるはずだ」
ミカリは答えなかった。ロビアンは空を見上げて言った。
「俺はお前なら、人間に夢や希望や勇気を与える、そんな矢を放つキューピッドになると期待していた。お前なら、2つに割れたキュートピアを1つにまとめることが出来ると信じていた。そして、お前なら、キュートピアを正しき道に導くことが出来ると思っていた」
ミカリは黙ってロビアンの言うことを聞いていた。ロビアンはミカリを見つめ、
「どうして、こんなことになってしまったのかな?やはり私がいけなかったのか?もっと他のキューピッドたちにしたように、付きっきりになっていればよかったのか?」
ロビアンはミカリに近づき、
「こんな筈じゃなかった。こんな筈では、なかったのに」
そして、ロビアンはミカリを抱きしめる。抱きしめながらミカリに言う。
「昇天しろ!ミカリ。俺と一緒にこのまま天に召されるのだ!」
ロビアンの体から炎が噴き出した。そして、抱きしめているミカリをも、炎で包んでしまった。ロビアンは命がけで炎の中でミカリに言う。
「このまま俺と一緒に天に帰るのだ!」
ロビアンは命を燃やし、二人は深紅の炎に包まれた。そして、炎を渦を巻く。その中でロビアンの断末魔の叫び声が聞こえる。
「ミカリ!」
炎は、そのまま火柱となって天へと登っていく。そして、火柱は天へと登りロビアンは燃え尽き天に召された。しかし、ミカリは燃え尽きることなく、地上にいた。昇天しなかったのだ。ミカリは、傷一つ追うことなく不死身だった。しかし、ミカリは泣いていた。ミカリはロビアンの死を悼み、声を殺して静かに泣いた。そして、ミカリはゆっくりと首を横に振りながら言った。
「ロビアン先生。もう誰も、僕を昇天させることは出来はしない」
ミカリは、天を見上げ、ロビアンの死を悼み、只々泣いた。




