〈29〉無差別攻撃
グラシアーノ敗北の知らせは、一瞬にしてキュートピアに知れ渡った。それはロマン派に歓喜を、現実派に絶望をもたらす羽目となった。サンタローザは、まさかのグラシアーノ敗北に只々愕然としていた。モーザックは恐れていたことが起こり、動揺を露わにしていた。
「まさか、グラシアーノが敗れるなんて!初うちのときは、あんなにいとも容易く、まるで赤子の手をひねるように、まんまとグラシアーノのワナに墜ちたというのに、今度はまるっきり逆ではありませんか!」
サンタローザはモーザックの言葉に、返す言葉もないほど、ショックを受けていた。
「先導師、これから、いかがなさいますか?ミカリを止めませんと、我々は、このまま絶望の淵へ追いやられます!」
サンタローザには、答えることが出来なかった。それはモーザックのいう通りだった。グラシアーノなき今、サンタローザには打つ手がなかったのだ。例え、他のものをミカリにぶつけたとしても、グラシアーノより劣るものをぶつけて、ミカリに勝てるわけがなかったからだ。
サンタローザは只々絶望するだけで、一言も発することが出来なかった。
サンタローザが絶望し、頭を垂れてる頃、ロマン派は歓喜に沸いていた。それはマクシミリアンたちも例外ではなかった。アルフォンソが興奮しながら言った。
「相打ちどころか、圧勝じゃないか!しかも、グラシアーノ自らの手で破綻させるなんて、一体なんて奴だ!」
仲間から「凄い!」という声が上がった。そして、マティアスが言った。
「我々は、とんでもない武器を手に入れた。もう現実派など恐れるに足らん!このまま現実派を一気に潰せ!」
マティアスたちは浮かれていた。それはマクシミリアンも例外ではなかった。ミカリの想像を超える働きに、自然に笑みがこぼれ、酔いしれていた。まさにロマン派のものたちは浮かれていた。しかし、そんな中、一報が入った。それはロマン派が結びつけたカップルが次々と破壊されてます、という内容のものだった。それに対してアルフォンソが言った。
「誰に?一体、誰に破壊されたのだ?」
アルフォンソは、マティアス、エルンスト、マクシミリアンの顔を見渡した。一同困惑した表情を浮かべてはいるが、マクシミリアンだけは、誰がやっているのか、薄々感じはじめていた。
そして、マクシミリアンが言った。
「グラシアーノなき今、そんなことが出来るのは、あいつしかいない」
「ミカリか?なぜだ?なぜミカリがロマン派を攻撃するというのだ?なぜだ」
アルフォンソは激しく動揺した。マクシミリアンは目を閉じミカリへ思いを馳せた。
〈なぜだ、ミカリ。お前の求めているものとは一体なんだったんだ?〉
ミカリは、グラシアーノを倒して思ったのだ。
〈所詮、キューピッドの矢もグラシアーノの姑息な矢と変わりないんじゃないのか?〉
そう思ったミカリは、ロマン派の結びつけたカップルをあえて攻撃をした。そして、カップルはミカリの前に、見事破綻してしまったのだ。そしてミカリは吐き捨てるように言った。
「人間の間に愛を育むことの出来ない矢に、一体なんの意味があるのか?そんな矢に現実派もロマン派もあるというのか?人が、ただキューピッドの権力闘争の道具に使われているだけじゃないか!」
ミカリは激しく虚しさを感じた。
「そんな権力闘争に利用される愛なら、いっそ壊れてしまえ!脆く儚く崩れてしまう愛なら、崩れてしまえ」
ミカリは、キューピッドが結びつけたカップルを、現実派もロマン派もなく、無差別に破壊し始めていった。




