〈21〉証人喚問
ロマン派に衝撃が走った。それはロマン派の長、アルバリヨークがキュートピア審議会から証人喚問する為の出頭命令を受けたのだった。キュートピア審議会とはサンタローザ先導師を中心に、主に、これからのキューピッドの方向性やあり方、新人キューピッドの教育方針やその教育者の育成や任命を決める機関である。そのキュートピア審議会がアルバリヨークを証人喚問として審議会に出頭命令を出したのだ。それはミカリの掟破りから端を発していた。ミカリの担任の教師だったロビアンはそもそもアルバリヨークの弟子であった。その弟子が懲戒免職処分にあい、教師の地位を剥奪されたのだ。それはそもそもアルバリヨークの指導が原因になっているのではないか?という嫌疑が浮上したのだ。アルバリヨークの教えを受けたのは、ロビアンのほかにも公然とロマン派を名乗ることは出来ないが、ロマン派の中心人物でもあり、教師でもあるマクシミリアン、アルフォンソ、エルンスト、マティアスの四人もアルバリヨークの教えを受けたものたちだった。
キュートピアの先導師であり、現実派の指導者であるサンタローザでさえ、ロマン派の長、アルバリヨークの存在を今まで黙認してきた。しかし、それを今、ミカリ裁判を契機にキュートピア審議会を利用してアルバリヨークを証人喚問にかけようとしているのだ。それは、現実派がロマン派に対して全面抗争を仕掛けることを決意したということにほかならなかった。サンタローザが、ついに打って出たのだ。それはサンタローザの長年の夢でもあった。現実派によるロマン派の一掃。その標的として今までその存在を黙認してきた現実派にとってもっとも邪魔な存在、ロマン派の長、アルバリヨークへの証人喚問。サンタローザはまさに絶好の好機と見たのだ。
そして、そのアルバリヨークへの証人喚問の知らせは、陰に潜んでいるロマン派たちの耳に届いた。そして、あるものは怒りを露わにし、又、あるものは激しく動揺した。勿論、マクシミリアンたちの耳にも届いていた。
アルフォンソが驚きながら、
「まさか我らの長、アルバリヨーク師に出頭命令をかけるとはな」
マティアスが続いた。
「これは証人喚問などという生やさしいものではないぞ。実態は吊し上げだ!ロマン派の長、アルバリヨーク師を吊し上げることで、ロマン派の精神的支柱を破壊するつもりだ。明らかに、我々ロマン派に対する宣戦布告だ!サンタローザは本気だぞ。本気でロマン派を潰しに来たのだ!」
エルンストが困惑の表情を浮かべながら、
「では、我々は一体、どうすればいい?」
「下手に動けば、かえって命取りだ」とマティアスが言う。
「では、このまま成り行きを見守れっていうのか?」と、エルンストが言った。
それをアルフォンソが否定してきた。
「そんな弱腰では、それこそ奴らの思う壺ではないのか?奴らの狙いはアルバリヨーク師を吊し上げて、ロマン派の弱体化を進めて、一気に消滅させるつもりだ」
「では、どうしろというんだ」と、エルンストが焦れたようにアルフォンソに迫った。
「やられるのを待つのではなく、こちらから打って出るんだ!」
その言葉にマティアスが反論する。
「簡単にいうな。我々が打って出れば、必ずあのグラシアーノが出てくるぞ。一体、誰があの狡猾なグラシアーノに勝てるというんだ」
エルンストが同調する。
「そうだ。やつならどんな汚い手を使ってでも潰しに来る。そして、我々を陥れるだろう。ミカリのように」
「そうなったら、まさに思う壺だ」と、マティアスが言う。
一同、静まりかえる。
そして、さっきからずっと考え込んでいたマクシミリアンが口を開いた。
「ミカリを使おう」
アルフォンソが困惑した表情を浮かべながらマクシミリアンに言い返した。
「ミカリを?初うちで失敗したキューピッドなんて使い物になるか」
「それでも、我々にはミカリしかいない。ミカリをこのまま終わらせるわけにはいかないんだ」
「随分、高く買ってるんだな」と、アルフォンソが言う。
「ロビアンが言うんだ。ミカリには素質があると。ならその素質にかけるしかないじゃないか」
一同、沈黙する。
そして、その沈黙を破ってマティアスがマクシミリアンに問う。
「でも、どうやってミカリを使う?翼をもがれ、人間界にも降りることの出来ないミカリを、一体どう使うというんだ?」
マクシミリアンは、マティアスの問いに動じることなく言ってのけた。
「ミカリを堕天させる」
一同、驚愕するも、マクシミリアンの決意は固かった。




