〈2〉ミカリ
新人キューピッドにとって、初めて人間に矢を射る初うちは、期待よりも不安の方が大きい。
特に人を見る能力を失いつつあるキューピッドにとっては不安の大きさは計り知れない。だからこそ、キューピッドたちは、当たり障りのない人間にしか金の矢を打つことしか出来ない。故にミカリの同期の新人キューピッドたちは皆その不安を避ける為に、なるべく撃っても当たり障りのない妥当な人間を選ぶ。しかし、ミカリだけは違っていた。ミカリは悩んでいた。そんなミカリを見たロビアンが声をかけた。
「何を悩む、ミカリ。初うちなんだからそんなに考えるな。あんまり考え込むと、どんどん不安になるだけだぞ。みんなと同じように何も考えずに当たり障りのない人間に撃ってもいいんだぞ」
「いいえ、ロビアン先生。僕にとっては何も考えずに当たり障りのない人間に撃つ方がよっぽど不安です。僕には出来ません。こんなことを言ったら笑われるかも知れませんが、僕には見えるんです。その人の人生の先に光があるのか、闇があるのか、漠然とした形でしかありませんが、何かそう感じるんです。決してうぬぼれなんかじゃありません。朧気ながらですが僕には見えるんです」
ロビアンは思った。
〈やはりミカリの能力は他のキューピッドとは違う。ミカリこそ、現実派とロマン派の二つに分かれてしまったキュートピアを一つにし、そして我々を導く救世主だ。もしかしたら、ミカリはいにしえのキューピッド、ジュリアンの生まれ変わりかもしれない〉と、思いを馳せた。
ジュリアンとは遠い昔の伝説のキューピッドで、ジュリアンの放つたった一本の金の矢は、そこに関わる全ての人間に夢や希望、幸せを与えた、まさにキュートピアと人間界に栄光をもたらした伝説のキューピッドである。
ロビアンは、ミカリの行く末に期待せずにはいられなかった。
「ミカリ。初うちでそこまで悩んでいるのはお前だけだぞ」
ロビアンは笑った。
「スミマセン」
「いや、いい。ミカリ、お前の気の済むようにしろ。お前が納得のいった時点で初うちをすればいい。いくら時間がかかっても構いはしない。別に競争ではないんだからな」
ロビアンはミカリの髪の毛を優しくクシャクシャとつかんでみせる。
ミカリはロビアン先生に微笑んで見せた。
ロビアンは思った。
〈このまま大きく育ってくれよ。ミカリ〉




