〈11〉未練
海斗は吉沢と別れてから、マンションに帰ってシャワーを浴びた。そして居間のテーブルに置いた携帯電話を見た。メールが届いていたことを知らせる明かりが点滅していた。海斗は思わず「冴子からか?」と呟いてメールを見た。メールは、さやかからだった。[ありがとうございました]というタイトルで、今夜の合コンで水城から助けてもらったお礼と、海斗が会社の先輩でもある水城と喧嘩しそうになったことで、会社で働きづらくなったのでは?という海斗を気遣う内容のメールだった。海斗はメールを読み終えると携帯電話をテーブルに置いた。
「確かに、気の利く子だな」
海斗は感心した。しかし、海斗の心はさやかには向いていなかった。
「これぐらい冴子も気を遣ってくれれば・・・。いや、人のことなんて気にせず、ただ自分の生きたいように生きているから余計に気になるのか?」
海斗は無視されてもなお冴子に未練があった。海斗はテーブルに置いた携帯電話を再びとって、冴子と2ショットで写っている画像を見た。海斗はそれをまじまじと眺めながら呟いた。
「簡単に手に入るものより、中々思い通りにならないものの方に惹かれるのか?こんなに無視され、足蹴にされても、まだ冴子を求めているのか・・・。冴子から連絡が来るのを、どこかでまだ待っているのか」
海斗は携帯電話のメールの受送信を見た。海斗から冴子への送信履歴は山ほどあるが、冴子からの受信は少なく、冴子と会えなくなってからは、メール一つ返信もない。全く途絶えたままであった。
「畜生!だんまりこきやがって。メールぐらい返せっていうんだよ!こんな思いさせられるなんて、ほんと生まれてはじめてだよ」
海斗は段々妬けになりはじめた。そして、ぼやきながら、試しにさやかにメールを返信してみた。その内容は一言、
[心配してくれてありがとう。大丈夫だよ]
只それだけ。
すると三分も立たないうちにさやかからメールが届いた。海斗はそのさやかからの返信の早さに思わず呟いた。
「これだよ。この反応、たった一言なのにこの食いつき。俺は踊らされるより、踊らせる方が好きだなぁ」
海斗はつくづくそう思った。
そして、さやかからのメールを見た。
[ほんと?なら、良かった。でも、今日は助けてくれて、ほんとありがとう。どうすればいいか、困ってたんだ。でも泉堂さんが助けてくれて、とっても嬉しかったよ。ほんとありがとうございます。また、みんなで会いたいね]
海斗はメールを読み終えて、そして思った。
〈メールを送ってもなんの反応もしない冴子。それに引き替え、たった一言でも俺のメールに素早く反応し、丁寧に返信してくるさやか・・・。さやかならきっと、俺が押せば必ず従う筈だ・・・。さやかならきっと、俺の欲求も何もかも喜んで受け入れる筈だ・・・。冴子に翻弄されて、傷ついた俺のプライドも、彼女なら、きっと優しく癒してくれる、受け止めてくれる〉
海斗は自分の中に、どす黒い欲望がフツフツと湧き出てくるのを感じた。それは思うようにいかない冴子への不満が、鬱積した思いが、フラストレーションのはけ口が、まるで見つかったかのように、欲望は一気にさやかへと向けられた。海斗はさやかを、自分の好きなように、思うがままに無茶苦茶にしたい、と強く思った。それが冴子によって失いかけた自信を蘇らせると、海斗はそう思い始めていた。そして、それからの海斗の行動は早かった。海斗はメールではなく、電話をさやかにした。
「あ、さやかちゃん。俺、泉堂だけど、みんなじゃなくて、二人だけで会わない。今から」
さやかは、突然の海斗からの電話に驚き、そして、今から会うということに更に驚き、そして、戸惑いを見せた。しかし、海斗に押し切られるような形になり、二人は今夜、再び会うことになった。それはさやかにとっても、好きな人と二人っきりで、また会えるという想像もしていなかったことに喜びを感じ、思わず部屋で一人、はにかんだ。
そんなさやかをキューピッドのミカリは見て焦りを感じた。
〈さやかが海斗に会いに行く。それもたった今から。二人っきりで・・・〉
それはミカリにとっては、全く予測外な出来事だった。これからさやかに合ったいい人を探さなくてはいけないと、そう思っていた矢先のことだっただけにミカリは動揺した。ミカリは鏡の前で、はにかみながら、今から着ていく服を合わせているさやかを見ながら、一体、どうすればいいのか?思案を巡らせていた。




