〈10〉合コン
さっそく吉沢は、海斗のリクエストに答えて、合コンをセッティングした。相手女子にも色々都合があったみたいだが、そこは会社員、「仕事が忙しくて、明日しか空いてる日がないんだ」と言い切り、相手が吉沢たちに合わせるように仕向けたのだ。特に女子に人気の泉堂海斗がいるというのは大きく、相手も海斗が来るなら、と積極的に時間を空けてくれた。
そして、合コンに来る女子は、吉沢と合コンの打ち合わせをした北村瑤子と七尾さやかと、大学の後輩の今井恵美の三人と、吉沢の方は吉沢と海斗と、そして、二人の上司にあたる水城祐司の三対三で集まることになった。
場所は和食居酒屋で、吉沢はあえて座席ではなく座敷を選んだ。それは吉沢の長年の経験から座敷の方が、座席より、椅子でない分、女子との密着率が自然と高くなって、より親しくなれる。何気なくじゃれ合うことも出来る、という経験からである。そして、その経験はあながち間違ってはいなかった。座敷なので酔った勢いで女子の間に割って入ることが出来る。案の定、海斗たちの先輩である水城がさやかの傍に行き、さやかにちょっかいを出し始めたのだ。
水城はどうやら、さやかのことが気に入ったらしい。水城はあまり合コンに関しては良い評判がなかった。水城は女ったらしで、お持ち帰り出来るのなら誰でもいいという男なのだ。そのことは海斗も吉沢も知っていた。知っている上であえて水城を合コンに誘ったのだ。そして、だいぶ酒も入り、案の定、水城は控えめで癒し系の可愛さをもつ、さやかに食いついた。水城はさやかをなんとか口説こうとちょっかいを出しはじめたのだ。さやかも最初は、「水城さん、飲み過ぎですよ」といって、はぐらかしていた。しかし、水城も段々酔いが回ってきたのか行動がエスカレートしていき、さやかに無理矢理抱きついたり、両足でさやかをはさんだりして、執拗に迫っていた。さやかはそんな水城に困り果て、さやかは苦笑いをしながら、海斗のことをチラチラと見ていた。それは、海斗に、助けて欲しいという合図を送っていたのだ。それは海斗もわかっていた。はじめは水城のさやかへのちょっかいをあえて静観していた。
〈少しは先輩にも楽しませてあげないと〉と思っていた。しかし、段々、水城の行動がエスカレートしていき、さやかに、ことある事に抱きつくようになってからは、〈もういいだろう〉と思い、さやかに助け船を出した。
「先輩、それぐらいにしてあげてくださいよ。彼女、困ってますよ」
水城はさやかにちょっかいを出しては抱きついて楽しんでいるところに、突然、海斗が割って入って来たので水城は眉間に皺を寄せて、海斗に噛みついてきた。
「なんだ、お前は?何いってんだよ!」
「いや、先輩、さやかちゃん困ってますって」
「そんなことねぇよ。楽しんでるんだよ!ねぇ、さやかちゃん」
「・・・」
「ほら、さやかちゃん。何も言えないじゃないですか。困ってるんですよ」
「お前、うるせぇよ!え、親父が政治家かなんか知んねぇけど、いい気になってんじゃねぇぞ!」
水城はテーブルに乗り出すように海斗の胸ぐらをつかむ。海斗は胸ぐらをつかんでいる水城の腕を黙ってつかんだ。
「おい、やんのか、コラ!」
そこへ、吉沢が水城とさやかの間に割って入って来て、水城を宥めはじめる。
「まぁまぁまぁ、先輩、この辺で。せっかくの楽しい席なんだから、喧嘩はやめましょうよ。な、瑤子」
「そうよ。せっかくみんなで楽しんでるんだから、もっと、楽しく、穏やかに行きましょう。ね」
瑤子は水城の隣に座って、水城の肩に手をあてて、水城を宥める。水城は吉沢と瑤子の二人に宥められて、海斗の胸ぐらをつかんでいる手を離す。そして、瑤子が水城にメニューを見せながら、
「ほら、水城さん。お口直しに何か頼みましょう」
水城はメニューを見る。
瑤子はその脇でさやかを見ると、さやかは安堵の表情を浮かべた。瑤子はウインクして見せた。そして、水城とさやかの間に割り込んだ吉沢が、腰をぶつけて、さやかを水城から離させ、海斗の方へ近づかせる。すると、海斗がさり気なくさやかの隣に来て耳元で囁いた。
「大丈夫?なんか、ごめんね」
さやかは首を横に振った。
「僕たちも何か飲もうか」
海斗はメニューをとって広げた。それをさやかと一緒に見た。さやかの表情はどこか楽しそうである。そんな二人の姿を水城は横目で見る。水城はつまらなそうな顔をした。すると吉沢が、水城のご機嫌をとるかのように、会社の後輩として、水城に色々質問をしてアドバイスを求めるふりをして水城のご機嫌を伺った。瑤子もそれを聞いて相槌をうったり、感心したりして水城のご機嫌をとった。
海斗とさやかは連絡先を交換した。二人はこの日を堺に、今まで以上に親しくなった。さやかはそれを偶然の成り行きのことと思っていた。しかし、海斗と吉沢は違っていた。こうなることは予定通り。必然のことであって、その為に水城を誘ったのだ。水城は、海斗がさやかと親密になる為の単なるダシとして利用されたのだった。そんなこととはつゆ知らず、まんまと二人のキューピッドになってしまった水城。瑤子もこれが吉沢と海斗が意図したこととは知らなかったが、瑤子はさやかが海斗のことを想っていることは知っていたため、内心良かったと思っていた。
そして、合コンを終えて、さやかの連絡先を得た海斗は、今夜のことを吉沢と二人で喫茶店で珈琲を飲みながら振り返った。そして、海斗は感慨深げに言った。
「ああも簡単に、思い通りに進むとは思わなかったなぁ」
「水城先輩、サマサマだね。助演男優賞ものだよ」
吉沢は笑った。海斗もつられて笑った。
「で、これからどうする?さやかちゃんを誘うのか?」
「さぁ、どうかなぁ~。なんか、あまりにもあっけなくて。こういうのって逆に盛り上がんないんだよね」
吉沢は舌打ちして、
「ったく、贅沢だな、海斗は。水城先輩なんて最後まで悔しがってたぞ。お前とさやかちゃんがあまりに楽しそうに話してたから」
海斗は笑った。
「でも、可愛かったろ?」
「まぁな。良い子とは思ったよ。全く、誰かさんとは大違いだ」
吉沢は笑った。そして、言った。
「良い機会じゃん。この際、冴子さんのことは忘れて、彼女に乗り換えちゃえよ。その方が楽だぞ」
海斗はその問いに答えなかった。海斗の心にはまだ、冴子への想いがあったのだ。海斗は冴子へ憤りを感じながらも冴子への想いを引きずっていたのだった。
ミカリは、そんな海斗を見届けながら、ミカリは、さやかと海斗を結びつけたくないと強く思った。例えさやかが海斗のことを愛していても、海斗のような男にさやかを幸せに出来るとは思えなかった。
〈こんな男と結ばれても、その幸せは、単なる一時的なものに過ぎない。この男に散々、好き勝手にもてあそばれて、結局、泣きを見るのがおちだ。とてもこんな男にさやかを渡すことは出来ない〉
ミカリはそう思っていた。その思いの中に、ミカリのさやかへの私情がないとは言えなかった。そして、その私情がやがてミカリに悲劇をもたらす羽目になるとは、このときはまだ知る由もなかった。




