第七章 雪の外界①
夜。
研究所は静まり返っていた。
消灯時間を過ぎ、生活区画の明かりはほとんど消えている。
長い廊下には、天井の非常灯だけがぼんやりと光っていた。
ユウはゆっくりとベッドから起き上がる。
マットレスがわずかに軋む音が、やけに大きく聞こえた。
胸の奥で心臓が強く打っている。
隣のベッドでは、ソウタも同じように体を起こしていた。
「……行くのか」
小さな声だった。
その声には、恐怖と覚悟が混ざっている。
ユウは短く頷いた。
「今しかない」
ここを逃せば、次の機会はもう来ないかもしれない。
ユウはドアに手をかける。
ゆっくり開く。
ギィ……
わずかな音が廊下に響いた。
2人は一瞬動きを止める。
しかし警報は鳴らない。
廊下には人の気配もなかった。
角を曲がると、暗闇の中に人影があった。
タケルだった。
腕を組んで壁にもたれている。
「遅い」
小さく言った。
三人は顔を見合わせる。
緊張で言葉が出ない。
そして静かに歩き出した。
⸻
食堂。
昼間は子供たちの声で騒がしい場所。
だが今は完全な静寂に包まれていた。
長いテーブルと椅子が、暗い空間に並んでいる。
奥の壁。
そこに問題の扉がある。
金属製の重いドア。
通常なら電子ロックがかかっているはずだった。
タケルがゆっくり近づき、ドアを確認する。
そして小さく言った。
「……開いてる」
ユウの心臓が強く跳ねた。
レンたちと立てた計画。
それが今、現実になろうとしている。
ユウはドアに手をかけた。
冷たい金属の感触。
ゆっくり押す。
ギィ……
重たい音が響いた。
三人は一瞬固まる。
しかし――
警報は鳴らない。
ドアは静かに開いた。
その先にあったのは
長い廊下だった。
研究所の内部とはまるで違う。
コンクリートの壁。
剥き出しの配管。
古い照明が弱く点滅している。
まるで施設の裏通路のようだった。
ソウタが小さく言う。
「本当に外につながってるのかな」
タケルは前を見たまま答えた。
「行くしかない」
三人は歩き出す。
足音がコンクリートに反響する。
扉がいくつも並んでいた。
だがどれも固く閉じられている。
そして――
一番奥。
重たい鉄の扉。
ユウは立ち止まった。
「ここだ」
三人は息を整える。
ユウが言った。
「開けるぞ」
三人でドアを押した。
ギィィ……
重たい音を立てながら扉がゆっくり開く。
その瞬間。
冷たい風が吹き込んだ。
「……外、だ」
肺に流れ込んできた空気が、鋭く刺さる。
冷たい。
痛い。
だが――
確かに、生きている空気だった。
夜空。
そして――
雪。
真っ白な世界が広がっていた。
静かすぎた。
風の音もない。
動物の気配もない。
ただ、雪だけが降っている。
世界が――
止まっているようだった。




