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円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ
本編

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15/19

15.つま先で精一杯

「あなたの父親に対して、こう言うのは何だが、公爵は中枢から除いた。あなたが残した政策の数々も、可能な限り実現させた。これからもあなたが過ごしやすいよう、出来る限り心を配る。だから──どうか皇宮に戻ってきて欲しい。俺の……子どもと一緒に」


「……!」


 シュテファンの言葉に胸が高鳴る。


 そう出来たら、どんなに良いか。

 でも──。


「ですが私が戻ると……、アンネはどうするんです……?」


 声が震える。彼女の名がまるで鋭利な刃物のように、私の心を突き刺してくる。

 なんて殺傷力の高いヒロイン。


「……? アンネ?」


 私が身を切られながら尋ねた名前を、シュテファンは心底不思議そうに聞き返した。


「シュテファン様には、アンネがいるでしょう?」

(あなたと彼女の仲睦まじい様子を見る勇気は、私にはないの。それに彼女だって嫌がるわ)

 前妻──まだ離婚してないけど──が子どもを連れて戻ってくるなんて、アンネの立場がないはず。


 そんな私の心境をよそに、シュテファンが眉根を寄せる。

 

「待ってくれ。アンネとは誰だ? あなたは何の心配をしている?」


 その様子は本気でわかってないように見える。もしとぼけてるなら、凄まじい演技力だ。


「アンネ・ヴィンケル。伯爵家の令嬢で侍女を務めていた彼女です」


(もう! ここまで言わせないで。名前を出すだけで辛いのに。私は小説を読んで知ってるんだから、隠さないで欲しいのに)


「……? ……! ──!!!」


 私の前でシュテファンの表情が、"思い当たった"とでも言うように変化した。


「もしやとは思うが、あなたが言っているのは媚薬犯のアンネか?」


「媚薬犯? 犯人は、シュテファン様が知らない侍女だったのでしょう?」


 媚薬事件は名の知れぬモブ侍女が、皇帝に懸想して起こった事件だったはず。

 皇帝に愛されるヒロイン、アンネには無縁の話。


 媚薬事件という言葉に、ルーイを身(ごも)るきっかけになった夜の記憶が鮮明に蘇り、すぐそばにいるシュテファンの太い首筋にドキリとする。

 不埒な私の視線に気づかぬまま、シュテファンが改めて私に言った。


「事件の犯人の名は、アンネ・ヴィンケルだ。ヴィンケル伯爵家の。俺とは面識のない侍女だった」


「……え……?」

(面識がない? どういうこと?)


「ア、アンネとシュテファン様は、両想いなんですよね?」


「は!??」


 険悪な声に驚いて、当時を辿(たど)る。

(あっ、あのタイミングではまだ恋人未満だっけ? ででで、でも、皇宮にまで呼んでたのに?)


「なんだそれは! いつ俺が、あんな女と両想いになったんだ。はっ、まさかあの女に何か吹き込まれていたのか?」

「えっ、えっ?」

「くっ、あの女……! 取り調べた際も、あなたに対する不敬な発言が多かったと周りの者が言っていた。だが、まさかあなたにまで巫山戯(ふざけ)た嘘を告げていたとは」

「恋仲では……、ないのですか?」

「断じて違う! それじゃまるで、俺が浮気男じゃないか」

「で、ですが、シュテファン様が彼女を皇宮に呼んだのでしょう?」

「俺が? なぜ? まったく知らない女だぞ? なんで皇宮に呼ぶんだ」

「ええ……?」


 いろいろ、思ってたのと違う。


「第一あの女は、事件後すぐに追放している。──こんな禍根を残していたなら、もっと罰を与えておくべきだった」


 シュテファンが悔しそうに呟く。


 私も媚薬事件の犯人は、皇宮から追い出されたと聞いていた。

 その犯人がアンネだったなら、じゃあ──。


(この世界線のシュテファンは、アンネと出来てない?)


 それはつまり、私が期待しても良いということ?


「ではアンネとは──、何もなかったのですね?」


 駄目押しで確認すると。


「当然だ! 俺はあなたと出会って以来、ずっとあなた一筋だ!!」

「!!! ひと、すじ?」


(そんな話は初めて聞きますが?)


 びっくりして。目が転がり落ちるかと思うくらいびっくりして。

 当惑のままにシュテファンに釘付けになる。と、彼は彼で自分に驚いたように、あたふたと慌てながら真っ赤になった。


「そのお言葉は……、本当ですか? シュテファン様」


……(本当だ)


 小さい声だけど、彼はきっぱりと言い切った。


(アンネと彼は無関係だった! 私に一筋だって、言ってくれた!)

 どうしよう。胸いっぱいの歓喜に、今にも踊り出しそう。心臓はすでに、ラテンのリズムでステップを踏んでいる。


「花嫁姿のあなたを見て……なんて美しい女性(ひと)だろうと心惹かれた。その後、寝室で堂々と話して、あなたの物怖じしない態度に──」

(生意気だと思った?)

「完全に、陥落した」

「?!」

「結婚して以来、二心を抱いたことは決してない」


「なのに、あなたにそんな誤解まで抱かせていたなんて……。自分が不甲斐ない……」


 しょぼくれた犬のように、シュテファンが項垂(うなだ)れる。


「初夜のやらかしで嫌われたのはわかっていたから、頑張って歩み寄ろうと部屋に通ったんだが……」


(あ、毎日お茶を飲みに来ていたのはそういう──。って)


「嫌われた?」

「……違うのか?」


(あわわ、何その子犬の眼差し!)

 切ないクゥンが聞こえて来そう。


 なんてことだろう。

 彼は私に、嫌われたと思っていたなんて。逆じゃないの?


(本気で不器用だわ、この人)


 不器用で、無骨で、繊細で、ずば抜けて美丈夫で、優しい。


 離宮と戦場で育ってきた彼は、それこそ同年代の友達や異性なんて珍しく、私にどう接していいか分からなかったのだろう。

 そんな彼が新妻に寄り添うため、精一杯努力してくれていたのだとわかって、胸に熱いものが込み上げて来た。


 私が小説を妄信しすぎず、彼にもっと目を向けていたら。

 こんなすれ違いは起こらなかったかも知れない。


「シュテファン様……」


 ん、というように皇帝が私と目を合わせた。

 その頬に、そっと手を伸ばす。


「それこそ誤解です」


 ごめんなさい、あなたを置き去りにして。それから。


「私はあなたを、愛しています」


 思い切り、つま先立ちで背を伸ばした。

 彼に精一杯、近づけるように。



 私の口づけは、彼の顎にほんの少し、触れただけだったけど。

 次の瞬間、抱え込まれるようにして、彼の唇が私のそれに重なった。

 むさぼるように求められて、そんな彼に応じながら、(五年ぶりにして二回目のキスなのでは)と、熱い吐息の中気づく。


「──俺は学習した」

「え?」

「こんな行き違いが生まれたのも、気持ちを言葉にしなかったせいだ」

「!」(ド正論!)

「だからこれからはきちんと伝えていく」


 剝き出しの気持ちが、声になって射抜いてくる。


「愛してるエリザ。俺はもう、あなたと離れるつもりはない。当然、離婚もなしだ。良いよな?」


(あ、今の彼、なんだか素っぽい──)

 年下らしい表情を見せて強請(ねだ)る彼に頷くと、またも口を塞がれて。


 私から愛を伝えた皇帝は。

 その後(みなぎ)る自信で、愛の言葉を千も万も降らせてくれた。

 聞き終える頃には、すっかりずぼずぼに溺れ切っていたから、私はホント、よく溺れる。


 それからたくさん、話をした後。


「その……、ルーイにあなたのことを紹介したいのですが……、よろしいですか?」


「もちろん、そうしてくれると嬉しい。ルーイは先ほど話してくれた託児所に?」


「はい。そろそろ時間なので、お迎えに行こうかと」

「なら──俺も一緒に行って、良いだろうか」

「もちろんです」


 にっこりと、彼に微笑む。心無しか、ぎこちなく緊張している様子の彼が可愛い。


 最初にルーイになんて言おう。驚くよね、お父さんだよ、なんて。


 ルーイには、仕事の都合で遠く離れてると説明していた。この町では父親が出稼ぎに出ることが多く、周りの友達もそんな境遇だったので、特に疑問は持たれてない。

 けど、まだ見ぬ父親に会いたがっていたから……。

(いや、でも人見知りもするんだっけな──。どうかなぁ、反応、わかんないなぁ)



 浮き立つ気持ちでそんなことを考えながら、私たちが徒歩で託児所に向かうと。


 門の付近に騒然と人だかりが出来、警邏隊まで遠巻きに見ている。


「何かあったんですか?」


 顔見知りのママ友(?)に、声掛けると、相手が真っ青な表情で振り返った。


「あっ、ルーイくんのお母さん! 今呼びに行こうとしてたの。ルーイくんが──」




 エリザの中では解決がまだだったアンネさんの件でした。

 さて、毎日「更新無理かも…!」と、ムリムリ詐欺を展開中ですが、他サイトへの転載準備やエッセイ連載の用意などで、2月頭の予定が乱れております。更新お休みしたら、それやってる、と温かく待ってやってくださいませー。いつもありがとうございます♪ヾ(*´∀`*)ノ


 作中の"それからたくさん、話をした"部分は、実はベッドに並んで話してた想定なのですが…。なぜか二人は寝室に移動したようです。"R15"ということで、そのあたりバッサリ削りましたので、あとで調整するかも知れません…(;´∀`) どうしよう…。

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『私はまだ、何もしてなかったのに?』
『私に価値がないと言ったこと、後悔しませんね?』
― 新着の感想 ―
も…もしかしてアンネに拐われた?(泣)
誤解が解けて良かった~! でも、ルーイはどうした!?
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